真面目な話をしよう
夜の闇に一つ浮かび上がる月が欲しい。己は闇だ、と気付いたのは随分と昔々のことであり、そう思うのは必然のようだった。
夜は静寂な暗闇ばかりだと拗ねた目が見た十五夜。あの月が欲しいと懸命に手を伸ばした幼子が私。天はひたすらに遠かった。
「雷蔵は私の月だ」
ぽつりと宵の蚊帳の訪れを前にふと呟けば、雷蔵は不思議そうに首を傾げた。どうしたんだい変な事を言ってくれるなあ。そんな風に淡く微笑むお前こそ、私を照らす月様だ。
「月は朝が来たら見えなくなってしまうよ」
それに、新月は姿すら見えないよ。冗談めかして雷蔵は囁いた。けれど私は笑わない。ただ真剣に、それでいいのだと言い放つ。雷蔵は、それも寂しいなあと困ったように笑った。
「その時は待つさ。夜も。十五日も」
口先ではそのようなあたかも堅実な論を述べておく。雷蔵が、お前の喩えは難しいよと言う。それはさして問題ではなかった。雷蔵は、知らなくていいのだ。私の中に静かに根付く幼い願望は、本音を隠して悪戯に笑んだ。
お前は月だ。夜という闇を照らす光だ。満ち欠けなどさせない。時は動かない。儚く白く清らなまま其処にいて貰おう。私という闇に、永久に朝など来る筈がないのだから。
(月落として御覧)
「真面目な話をしよう」end.