真面目な話をしよう
枕の袂に、まだ人の動く影が映るので、閉じかけた瞼を擦り、上体を持ち上げた。衣擦れの走る音に振り返った影の主と目が合う。
「眠らないの?」
逆光に映えるその彼は、僕の顔をしてこう言った。
「雷蔵が眠るまでは眠らないよ」
僕に向かって伸ばされた指先は、髪を捕らえて優しく撫でたあと、僕を床へと帰す。おやすみなさいと囁く声が、僕の胸をたおやかに締めながら夢へと誘った。
――「死なないでね」と乞う僕に、君は静かに「雷蔵が死ぬまで死なないよ」と僕の顔をして微笑んだ。僕に向かって伸ばされた指先は、喉を捕らえて優しく撫でたあと、僕を床へと帰す。おやすみなさいと囁く声は、僕の首をたおやかに締めながら静かに息絶えた。
いやな夢から覚めた僕の隣には、冷えた布の波が広がっていた。障子の向こうに遠ざかる足音を聞くと、寂しさと会わざるをえない。いつからか、君は僕にすら隙を見せなくなってしまった。朝が来る度に、その強さを増して。
まるで君は魚のようだ。君の目の閉じる様を、僕は見たことが無いから。秘かに声を立てずに笑えば眼球が渇いて、ほろりと一つ、枕にあげた。
(瞼)