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桜の幻想 第一話(薄桜鬼 風間×土方)

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―ギイイイィン!!パァン!



「チイィッ!」

「…っく…また引き分け、か」



何度目の殺し合いだったか、もう忘れた。

初めは新選組がかくまっている女鬼を奪うため、そして俺の頬に十文字の傷をつけ、鬼の誇りに傷をつけたこいつを滅するためだった。

その勝敗はいつも決まらない。

また今宵も引き分けだ。



「今日もまた命拾いしたな、まがい物。…だが、貴様は俺の手で必ず殺す。それまでは下手なところで勝手に死ぬんじゃないぞ」

「はっ!もう何回聞いたことか、その台詞。…俺ぁ死なねぇよ。誰にだって殺されやしねぇ。…むろん、てめぇにもだっ!!」

「ふん…弱い犬ほどよく吠える、とはよく言ったものだ。次こそは覚悟して待っていろ。」



ヒュン、と目にも止まらぬ速さで駆ける。



しばらくして現在の本拠地に到着した。

玄関から入る気はさらさらなかったから、さも当たり前のように窓辺から屋敷に戻る。

ふと視線を上げると、そこには見慣れた巨体があった。



「またあなたは窓からですか。…つくづく不作法な方です」

「…天霧か」



文句でも言いたげな顔で俺を見下ろす。

その眼が少々勘に障る。



「また、彼に会いに行っていたのですか?」

「会いに、だと?何を馬鹿なことを。殺しに行ったに決まっているだろう。…もっとも、この俺としたとこが、またもや逃がしてしまったがな」

「その割に表情が優れているようですが?」

「…何だと?」



天霧は何かを悟っているかのような顔で俺を見ている。

こいつはいつもそうだ。

何でもわかっているような顔で、口調で、話を進める。

表情が優れている、だと?

鬼の誇りを傷づけた奴を今宵も仕留めることができずに帰ってきた俺の表情が?



「何だかんだであなたとの付き合いは長いですからね。嫌でもわかる」

「ほざけ。貴様に俺の何がわかるというのだ」

「…あなたが彼と何度刃を交えてきたか定かではありませんが、あなたはその回数を重ねるたび、憎悪で顔を歪ませるどころか、どこか満ち足りた表情で帰ってくるようになった。…誇りを傷つけた相手に制裁を与えられずにいるというのにも関わらず」



―ドクン

何を馬鹿な、と思ってはいるのに、何故か俺の心臓は騒ぎ出す。



「ふん…何が言いたいのかさっぱりわからんな」



―ドクン、ドクン

冷静を保とうとすればするほど、苦しくなる。

声が震えないように抑え込むので精一杯だ。



「…風間千景、あなたは本当に土方歳三を殺すつもりがあるのですか?」



―…ド、クンッ



「…何をそんないまさらなことを」



それが今の俺に言える限界の言葉だった。

それ以上言葉を紡ごうとすると、声に心臓の音が出てしまいそうで。



「…興がそがれた。今日はもう休むことにする」



苦し紛れにそう言い放つと、天霧の顔を見ることもなく寝室へ向かった。

逃げたように思われたかもしれない。



『あなたは本当に土方歳三を殺すつもりがあるのですか?』



天霧の言葉が頭の中で反響する。

気分は良くない。

そんな当たり前のとこを面と向かって聞かれたのだから。

では何故俺はその当たり前の質問に即答できなかったのだ。

考えても答えはいつまでたっても見えてこない。

頭が、痛い。

気付いた時にはもう、俺の意識は眠りの世界へ引き込まれていた。





数週間後、俺は薩長から夜警の命を受けた。

何故誇り高きこの俺が下衆な人間共の命令を聞かなければならないのだ、と終始殺気立っていたが、



「今は戦の準備で人出が足りていないそうです。ここは大人しく命令に従いましょう」



と俺をたしなめる天霧と



「まあいいんじゃね?こんーなつまらん屋敷でグダグダしてるくれーなら散歩がてらによ」



と言う呑気かつ飄々たる態度の不知火に背中を押され、仕方なく夜警に出ることにした。





「-…まぁ、わかってたといやーわかってはいたけどよ…」



夜も遅く、もうほとんど人のいない街の通りを3人で歩いていると、不知火が話し出した。



「…つまらねぇな」



あまりにも不知火らしい言葉に、天霧がため息をつく。



「確かに夜間は物騒な通りですが、そんな頻繁に事件が起こるわけないでしょう」

「そりゃそーだけどよぉ…あーあ、刺激が足りねえやな」

「あまり無駄口をたたくな。うっとおしい」



いつもならうっとおしいなどと言われたら何らかの反応を返してくる不知火だが、何の反応も返ってこない。

ふと視線をやると、不知火はある一点を見続けていた。



「…どうやら、今宵は楽しめそうだぜ?」



二ヤリ、と笑う不知火の目線を辿る。

そこには…



「…雪村千鶴」



ずっと俺達が追い続けてきた目標、女鬼がいた。

何故かは知らないが、一人のようだ。

誰かを探しているかのように、しきりにあたりを見回している。



「どうします?見るところ、一人のようですが」

「…ふっ…このような機会を逃すものか。むろん、連れてゆく」

「へへっ、そーこなくっちゃなぁ!」



あまり騒ぎを大きくしないよう、と天霧に付け加えられ、行動を起こした。

天霧、不知火を人の来ないような細い路地裏に待機させる。

俺は女鬼との距離を縮め、背後から口元を覆い、2人の待機場所に引きずり込む。



「…ふっ!?ぐぅ…っ」

「抵抗しても無駄だ。力で俺に刃向っても到底敵わないことはわかりきっているだろう?」



それでもなお力任せに抵抗の意を見せる。

つくづく思うが強情な女だ。



「…お、来たな」

「ではこの路地を抜けて本拠地へ戻りましょう」



路地裏に待機させていた2人と合流し、再び駆けだそうとする。

しかし、この女鬼の諦めの悪い抵抗が続き、一瞬口元の手を緩めてしまった。



「誰かっ!誰か助け…っっ!?」



女鬼が叫ぶと同時に目にも止まらぬ速さで刀を抜き、首筋に押し当てる。



「騒ぐな。…今一度声をあげてみろ。首を落とすぞ」



むろんこいつを黙らせるための脅しだ。

貴重な女鬼を殺すわけにはいかない。

女鬼は俺の殺気に体を震わせている。

そして、小さく、本当に蚊の鳴くような声で、言った。



「…助けて…助けてください………土方さん…っ…」



―ドクン

気付いた時には、俺は女鬼の肩を壁に押さえつけていた。



「っぐ、い…った…」

「…貴様が…貴様があいつの名を……」



―…呼ぶな。

そう続けようとしている俺がいた。

何故かはわからない。

ただ、こいつから…いや、俺以外の口からそいつの名前を聞きたくなかった。



「-…おい馬鹿。んなちっちぇー声で助け求めてどーすんだよ」



もう何度も聞いた、この声。

振り返らずともわかる。



「助けてもらいてぇならそれなりにデカイ声で叫びやがれ。俺に聞こえるくらいよ」

「土方さんっ…!!」



土方の登場に目を輝かせ、潤ませる女鬼。

その瞳にさえ何故か苛立ちを感じてしまう。

―どうしたというのだ、この俺が。