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桜の幻想 第一話(薄桜鬼 風間×土方)

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そんな思いを抑え込みつつ、目の前の男に言い放つ。



「ほぉ…よくここまで来られたものだな」

「お前らを目撃した人がいてな。で、このアホとはぐれたのがそこの表通りの店らへんで…ときたら、この路地裏にてめぇらがそいつを連れ去ったとしか考えられねぇってことだ」

「人間のわりには頭が回る。さすがは新選組副長、といったところか」



俺の皮肉に耳を傾けていた土方だが、茶番はそこまでのようだ。

冷やかな殺気を存分に出しながら俺に言う。



「言いたいことはそれで終いか?だったらそろそろそいつをこっちへ返してもらおうか」



そう言って刀を抜き、構える。

その殺気だけで人を殺せそうな勢いだ。

よほどこの女鬼が大事とみえる。

―…ズグン

まただ。

心臓が痛い。



「おいおい正気かぁ?こっちは鬼が3人いるんだぜ?」

「不知火。これは風間の戦い。手出しは無用だ」

「えぇ?…ちっ、つまらねぇ」



今にも攻撃を仕掛けかねない不知火を天霧がたしなめる。

不知火の相手をするという面倒な作業が省かれるというのは非常に楽なものだ。

なおも俺の心臓は落ち着いてくれないらしい。



「毎度毎度聞いている気がするが…何故その女鬼にそこまで執着する」

「…聞いてどうする。てめえには関係ねぇことだ」



痛い。痛い。

心臓が、痛い。

つい、女鬼の首筋に当てていた刀を離してしまう。

土方はそれを戦闘に入るところと勘違いしたのか、羅刹化の態勢に入ろうとしていた。



「土方さん!駄目です!羅刹になっては…」



女鬼は羅刹化しようとした土方の止めに入ろうとしたが、いままで終始握り締められていた手から何かがハラリと宙を舞う。

―…ザンッ

反射的に、宙に投げ出された何かを切った。

女鬼から手を離した一瞬の隙を見逃すはずもなく、土方は女鬼の手を思いっきり引く。



「俺の後ろに隠れてろ!」

「は…はいっ」

「チィ…ッ」



みすみすと女鬼を渡してしまったことに悪態をつきながら、俺自らが切った物を見やる。

拾いあげると、それは控えめに柄の入った白い紐のようなものだった。



「っあ…」



女鬼が小さく声を漏らした。

その瞳に恐怖の色はないが、落胆と少しの悲しみの色がうかがえる。



「どうした。その紐、そんなに大事なもんだったのか?」



問いかけつつ、決して隙を見せることはない様子で刀をこちらに向けている。

よほど大切な物ならば無理をしてでも取り返してやるつもりなのだろう。



「いえ、そんな…。…でも…」



いつ斬り合いが始まってもおかしくはないこの状況をわかっていないわけはないのだろうが、この殺伐とした空気に似合わない声色で口ごもり出した。

こんな紐くらいで、と埒があかないことを察し、俺の気まぐれで助け舟を出してやる。



「この紐が何なのだ。…気が向いたから話くらいは聞いてやる」



その俺の対応によほど驚いたのか、土方は刀が多少ぶれ、不知火はクルクルといつものように手遊び扱っていた銃を滑り落とし、天霧でさえもが口を閉じられないでいる。

問われた張本人も驚き言葉を失っているようだ。



「ただの気まぐれだ。いつまでもつかわからんただの気まぐれ。…さっさと話せ」



ハッ、と我に返り、慌てたように、そして多少言いにくそうに言葉を紡ぎ出す。



「あ、あの…それ、さっきの店で買った、髪紐なんです」



髪紐、と聞いて合致した。

道理で柄がついているわけだ。

それを聞いて顔をしかめる土方。



「髪紐だぁ?てめぇ、んなもん買うために俺らの巡察隊からはぐれたのかよ」



言いにくそうにしてたのはこの言葉を予想してのことだろう。

慌てながら口早に言葉を進める。



「か、勝手にはぐれたことは本当にごめんなさい!でも、土方さんに知られたくなくて…」

「あぁ!?髪紐買うことがそんなにやましいことか!?」

「いえっ、そういうことでもなくって!」



土方までもがこの状況の危機感を忘れてしまったのだろうか。

完全に俺達3人は蚊帳の外で口喧嘩を始める2人。

またも言いにくそうにポツリ、と言葉を濁しながら言う。



「…土方さんに、あげようと思って」

「何…?俺に、だと?」



誰もが予想していなかった言葉に一番驚きを見せたのは、やはり土方だった。



「最近、一段と忙しそうにしている土方さんを見ていて…なんでもいいから、何かしたかったんです。土方さん、覚えていないかもしれないですけど、この前髪紐が切れそうだって言ってたのをたまたま聞いて…。それで、この前初めてもらったお給金で、新しい髪紐を贈ろうと思って。殿方が髪紐をもらったって嬉しくないかもしれないとは思ったんですけど、内緒で買って贈れば、少しでも土方さんが喜んでくれるんじゃ…ない、か…と…」



語尾に近づくにつれて、言葉が濁っていく。

よほど恥ずかしいのか、終始俯いたままで、最後の方はほとんど聞き取れなかった。



「…ったく、この馬鹿。隊士でもねぇお前がもらえる小遣い程度の給料なんざ、髪紐だけで消えちまうじゃねえかよ」



ハァ、と呆れたようなため息をこぼす土方。

しかし、その呆れたような表情に笑みが浮かんだかと思うと、



「…ありがとう。今度の給料は自分のために使えよ。…いいな?」



今まで聞いたこともないほど柔らかく、優しい声で諭すように言いながら、その声と同じくらい優しくクシャクシャ、と頭を撫でた。

はい、と小さく呟き、気持ち良さそうに少し目を細めている。

―…ズ…キン…ズキン……

それに呼応するかのごとく、胸の痛みがぶり返してきた。

俺の気まぐれからなった展開に、訳もわからずかき乱される。

かき乱される?

何を?

何に?

何故?

あぁ、昨夜の頭痛もぶり返してきたらしい。



「-…本当はこいつも奪還できたんでずらかりてぇところなんだが…どうやらもう一つ面倒な仕事が増えちまったみてえでな」



どこか愉快そうな口調で続ける土方。

一度は下ろした刀を今一度俺に向かって構える。



「あんたが斬ったその髪紐は俺への贈り物なんだとよ。…俺の大切な部下が小遣いパァにしてまで買ってきた、な。もう使い物にはならなさそうだが、返しちゃくれねえか?」



―…俺の大切な部下。

―…大切な、部下。

―…大切…。

気がつけばほぼ無意識のうちに、俺の手の内にあった髪紐を胸元にしまい込んでいた。



「…ふん、愚かな。さっさとその女を連れて逃げ帰ればいいものを…。何の役にも立たんこんなゴミくずのために命を捨てるとはな」



そう言い放ち、鞘に納めていた刀を再び抜く。

一時は静まっていた殺気が、またこの場に立ち込めていた。



「風間、今日は引き上げましょう。ここに長居し過ぎだ。じきに人も集まってくる」

「黙れ、天霧」

「あなた自身がゴミくずと言ったその紐に何を執着する必要がある?彼らに渡してしま…」

「黙れというのが聞こえないのか」



天霧の言葉を切り捨てる。