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桜の幻想 第一話(薄桜鬼 風間×土方)

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諦めのため息を一つこぼすと、天霧は元の位置に下がった。

正論を言っているのはわかっている。

俺の頭はそれが理解できぬほど弱くはない。

天霧の言う通りなのだ。

女鬼を奪う機会など、腐るほどある。

これ以上長居して人間共に群がられるほうが面倒だ。

さっさとこの髪紐を渡して撤退すればいい。

わかっているのに。

ここまで明確に理解しているのに。

この心臓の痛みが俺を突き動かして止まない。



「やはり思い通りには動いてくれねえか…」

「誇り高き鬼である俺が、貴様のようなまがい物の言葉を素直に聞くと思うな。…行くぞ」



俺の言葉を合図に、互いの刀に力が入る。

どちらがいつ斬り出してもおかしくはない状態だ。



「雪村!お前は走って表通りに出ろ!その辺に俺の隊士達がいるはずだ!」

「そんな、嫌です!土方さんを置いて行くなんて…」

「馬鹿野郎!ここにいても邪魔なんだ!さっさと走れ!」



一喝されビクッ、と体を震わせる。

それが背中を押したらしく、駆け出そうとする様子がうかがえた。

―…その刹那。



「おいおい、んなつまんねえことすんなよな。女を守りながら必死こいて戦ってる姿を見んのがおもしれえのによぉ」



しばらく大人しかった不知火が突如銃を向け出した。

銃口の先には、今にも駆け出そうと背を向けている女鬼。

銃の引き金に力がかかる。

天霧が止めに入ろうとしたようだが、一足遅かったらしい。



「っの、野郎…っ!」



悪態をつき、女鬼を庇おうと前に乗り出た土方が目に映る。

俺の思考が働いたのはそこまでだった。

―パアァンッ!

鳴り響く銃声。

一瞬の間、時が止まったかのような静寂が訪れた。

この場にいる全員がある一点を凝視している。

俺の、右肩だ。



「…風間…っ!?おい、何やってんだ、てめえ!?」



一瞬どころか、永遠に続くかのように思われた静寂を最初に破ったのは、発砲した張本人の不知火だった。

何やってんだ、だと?

そんなこと俺が一番聞きたいことだ。

何故女鬼を庇おうとした土方の前に立っている?

何故味方の銃弾を受けて血を流している?

それ以前に、何故土方は鬼であるその女を庇った?

いや…それを言うのなら、俺自身にも疑問が浮かぶ。

何故俺は羅刹であるこの男の盾になった?

銃創など瞬時に消えるほどの、鬼と同様の回復力が備わっているというのに。

仮に弾丸が銀でできていたとしても、俺はこいつが死んで困る理由などないはずなのに。



「か…ざま…さん…?」



状況理解が追いついていないのか、目を見開いたまま硬直している女鬼。

女鬼の声が耳に入ったらしい土方は、ハッ、と我に返り、俺に声をかけた。



「お前…一体何のつもりだ…」



答えない。

否、答えられない。

この状況を説明できるような言葉は俺の頭のどこを探しても見つからない。



「…傷はすでに癒えている。問題ない」



まったく答えになっていないその場しのぎの返答をし、胸元を探る。

しまい込んだ髪紐はすぐに出てきた。

俺の血で紅く染まっていたが。



「ふん、憎むべき敵の血で染まった髪紐など…もう使えまい」



フッ、と宙に放り投げると、常人には見えない剣さばきで、形がなくなるほど切り刻んだ。



「…風間、何でだ。何で俺を…」

「黙れ」

「…っ」



空気が凍りつくほど冷たく、そして低い声で言い放つ。

その際、斬り合う以外では初めて、土方と目が合った。

いつもの見慣れた殺気が見られない。

そこにあるのは、悩ましげに困惑している、吸い込まれそうなほど澄みきった、紫の瞳。



「見るな」



先ほどとは違う声色で言葉が出た。

今度は俺が困惑している。

声が弱弱しく、震えを抑えるので精一杯だ。



「その瞳で、その顔で、俺を…見るな…」



その言葉をきっかけに駆け出す。

遅れて2人もついてきた。



「っあ、おい!…おいっ!!」



遠くで土方の声が聞こえた気がする。

しかし振り向くことはない。

今、振りむいてはいけないのだ。

鬼の脚力で走れば先ほどの場所などはもう既に見えない。

これだけ離れてもなお、胸の痛みは引くことを知らない。

俺はあの場から離れればこの痛みが引くと思っていたのだろうか。

思っていたとしたら、俺はなんと愚かなのだろう。

そう思っていた時点で、あの場にこの痛みの原因がある、と俺自身が認めていることと同
じことだというのに。



「-…なぁ、一体さっきはどうしたんだよ。お前、何か変だぜ?」

「無駄口を叩くな。黙って走っていろ」



長らく黙って走っていた不知火が口を開いた。

こんな時だけ、こいつの鈍感さと頭の弱さをありがたいと思える。



「-…風間」



同様に黙りこんでいた天霧が口をはさむ。

天霧は不知火とは違う。

きっと、俺自身よりも早く気がついていたのだろう。

薄々感づいていた事情を、先ほどの出来事で確信させてしまったというわけか。



「もしあなた自身で気づいていないのなら、私から申し上げよう」

「………」

「…風間、あなたは彼を」

「言うな」



決して威圧的ではない、悟りを含んだ落ち着きのある声で言った。

その声色に驚いたのか、天霧は押し黙る。



「それ以上は、言うな。…言わないでくれ」



いつ気づいてしまったのだろう。

この訳もわからない胸の痛みの原因に。

いや、最初から気づいてはいたのかもしれない。

ただ、気づきたくなかった。

ただ、認めたくなかった。

この事実を。

だからわからないふりをしていただけなのかもしれない。

受け入れがたい事実から目をそらし、目をつぶっていただけ。

だが、俺は認めてしまった。

目を開けてしまった。

目を合わせてしまった。

目を開けた視界にいたのは。

俺と目が合ってしまったのは。



「-…新選組副長、土方歳三…か……」



気づいた時には頭痛など失せていたが、心臓を打つ甘い痛みだけは止まることがなかった。