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オダワラアキ
オダワラアキ
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記憶のかけら

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ひるなかの流星【記憶のかけら】
ベタですが、記憶喪失ネタです(笑)
すずめ高校3年夏休み〜2学期。他の話とは連動させてません。



夏休みも終盤に差し掛かった、8月の終わり。
外では蝉が忙しなく鳴き、連日蒸し暑い日が続いていた。
クーラーの苦手なすずめでさえも、耐えられずにエアコンのスイッチに手を伸ばすほどだ。


「お腹すいた〜」
高校3年生の受験生には大事な夏休みだというのに、受験とは関係のないすずめは、完全にだらけ癖が付いていた。
いつものごとく昼前に起きてきて、諭吉が作ってくれたご飯でも食べようとキッチンを見る。
しかし、珍しく昼食の用意はなく、代わりに1枚のメモが置いてあった。

「お昼過ぎに帰る。ご飯待ってて、かぁ。でも、お腹すいたよ〜」
何かお菓子でもないかとキッチンを物色すると、棚の上にクッキーらしき缶が置いてあった。
「あ、あれでいいや…」
脚立を持ってきて棚の一番上にあるクッキー缶を取ろうとすると、脚立が完全に開ききっていなかったのか、バランスを崩す。
「わっ…あぶな…っ!」
ゴツという鈍い音と共に、意識が遠のいていくのが分かった。



真上でチカチカしている蛍光灯の眩しい光で、すずめは目を覚ました。
ズキズキと頭が痛む。
痛みのせいか、頭に靄がかかったようにぼうっとする。
すずめは辺りを見回したが、自分がどこにいるかが全く分からなかった。

「すずめっ!?目が覚めたか?…あ、すみません、起きたみたいです!」

(すずめ…?鳥?)

「大丈夫か…?全く…家帰ったら脚立から落ちて倒れてるから、驚いたよ…」

目の前に髭面のおじさんがいて、心配そうに顔を覗き込んでくる。
その隣には、やはり心配そうに見つめてくる知らない男の子がいた。

「誰…?」
そう言うと、信じられないものを見るような顔で2人は目を見開いた。



「全生活史健忘…?」
慌てて診察をしてもらった医師からそう告げられる。
「ええ、いわゆる記憶喪失で、主な原因は心因性ですが、まれに頭部外傷から発症することもあります。
すずめさんの場合も、頭を強く打ったことが原因と思われます。
時間が経てば思い出していくことがほとんどですから、ゆっくり見守りましょう。もし、しばらくしても記憶が戻らなそうでしたら、催眠療法という手段もありますので、ご家族で相談してください」

病院の家族控え室で、医師から告げられた言葉はショッキングなもので。

どれくらいで記憶は戻るのかという諭吉の質問に、どれぐらい時間がかかるかは個人差があるために、はっきりとは言えないと医師は告げた。


諭吉が病室に戻ると、馬村が一通り名前や家族の続柄などを説明しているところだった。

「すずめ…馬村くんのことも覚えていないのかい?」
「馬村くん?…今聞きました、えと、私の彼氏?」
「そうだけど…。本当に、覚えてないんだ…」
「すみません…」
すずめは、申し訳なさそうに諭吉に頭を下げた。

「マジかよ…」
馬村は、深くため息をついた。



不思議なことに日常生活に必要なことは覚えていた。
ご飯を食べること、トイレにいくこと、眠ること、天気のこと。
信号が青になったら横断歩道を渡ることや、電車に乗るためには切符を買うこと、お金の単位、物の名前なども覚えている。
試しに小学校、中学校の問題集を解かせてみたが、文章の読解力もあり、足し算引き算などの計算能力も、元のすずめと変わりなかった。
でも、自分自身のことは何ひとつ覚えていない。
どこの誰で、家族は何人で、どこに住んでいるのかも。
友達はいたのか。
彼氏はいたのか。

(馬村って人が、彼氏らしいけど…)


すずめは、外傷もそこまで酷くなかったために、検査も含めて3日の入院で退院することが出来た。
そして、日常生活を送る上での支障はないため、通院をしながら2学期から学校へも行けるそうだ。


夏休み中に馬村から聞いて事情を知ったゆゆかが、驚きながらも、すずめのフォローをしてくれることになった。
「食い意地ばっか張ってるからそんなことになんのよ!」
電話口の声は怒りながらも、心配から震えていた。


2学期が始まると、ゆゆかが家まで迎えに来て、高校の場所や、クラスを学校への道すがら、ホームルームが始まる前に友人たちの名前をザッと説明される。


「猫田さん?色々ありがとう」
笑ってお礼を言うすずめに、さむっ、キモっと言いながら、腕をこすり合わせる。
「違う!ゆゆか!あんたは、私のこと″ゆゆかちゃん″って呼んでたの!気持ち悪いから猫田さんなんて呼ばないでくれる!?」
「ご、ごめん…ゆゆかちゃん?」
素直にそう謝るすずめに、ニヤリと笑って1つ付け加えた。
「馬村くんのことは、″大輝″ね」
「大輝?」
思いがけず、すずめに名前で呼ばれて、馬村は照れたように赤くなった。

「猫田…嘘つくな…」
「嘘なの?」
すずめは、どうしていいのか分からずにキョトンとしていた。


何とか1日目の高校生活を無事終えると、馬村が帰り支度を手伝いすずめの分の鞄を持つ。
「病院まで送るから…行くぞ」
「うん…ありがとう」
馬村が恋人だというのは、どうやら本当のようで、休み時間や昼食の時間など、必ずすずめの様子を見てくれていた。

「あの…馬村くん?大輝?」
結局どっちで呼んでいいのか分からずに、恐る恐る聞いてみる。
「大輝でいい…。おまえの記憶が戻ったらそう呼ばせるし。慣れとけ、今のうちに」
頭をポンと叩かれ、髪をくしゃと撫でられる。
ぶっきらぼうだけど、優しいんだな。

(この人に触られてると…なんか…)

すずめの心臓がトクンと音を立てる。


そして、次の日、覚えたばかりの教室の入り口付近で、教師に呼び止められた。

「与謝野!…あ、俺な、1年の時のおまえの担任。獅子尾先生」
話しかけてきた教師は、やはり心配そうに顔を覗き込んでくる。
「獅子尾先生?」
「まだ…何も思い出せない?」
「はい…。何となく…、思い出せる風景もあるんですけど…。新しく覚えた記憶なのか、昔の記憶なのか、ごっちゃになっちゃって…すみません」
「おまえが悪いわけじゃないだろ。ゆっくり、焦らなくてもいい」
「先生も、なんか懐かしい感じがします…。何だろう…よく分かりませんけど」
「今は…それでいいよ」
やはり頭をポンポンと優しく叩かれ、すずめは笑顔を見せた。
(この人…なんか落ち着くなぁ…)



今日も、学校帰りに病院へ付き添ってくれていた馬村に、新しく覚えた先生の話をした。
「獅子尾先生っていい先生だね。学年違うのに、わざわざ心配して話しかけてくれたよ」

それを聞いた馬村は、辛そうに顔を歪め、無言ですずめを引き寄せると、ギュッと抱き締めた。
「頼むから…あいつのこと、考えるな」
何故か、泣きそうな声でそう言う馬村に、すずめはどうすることも出来ない。

「大輝…?」

抱き締められると、馬村から何か香りがして、すずめの身体と心を温かく包む。

(石鹸…?なんか…懐かしい)

何故かは分からないけど、そうしないといけない気がして、すずめは馬村の背中に腕を回した。
馬村は少しホッとしたように、腕の力を緩める。
作品名:記憶のかけら 作家名:オダワラアキ