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初恋

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あのひとをはじめて見たのは、学校の図書館。はじめてみたとき、あまり図書館に通うようなひとじゃないな、と思った。じじつ、図書館にくることは多くなかった。
 そんなに、背は高くない。
 目立つほどかっこよくもない。
 でも、少しだけ笑う顔が気になった。
 もっと、笑ってほしかった。
 ……こえがききたかった。話して、みたかった。
 あのひととはじめて会ったのは、伊集院くんの家のクリスマスパーティー。困ったようなかおをしていた。わざわざ詩織に紹介してもらって、それなのに、にげてしまったわたし。
 勇気出さなきゃね、なんて、詩織、言ってた。あってみたいって言ったら、いつものとってもきれいな笑顔で、じゃあ今度紹介してあげるって。いいひとだから、って。
 いいひと、って詩織、言ってた。おさななじみなのよ、って。
 うん、たしかに。わたし、にげちゃったのに。あのひと、つぎにあったとき、笑ってくれた。美樹原さん、だっけ? って。
 あのひとの声、好きだった。図書館でのだれかとのないしょなはなし。廊下を歩きながらの雑談。とっても、すてき。
 美樹原さん、って呼ぶ声が、何より気持ちいいことにきづいたのは、いつのことだろう?
 放課後、すこしだけいっしょにかえったこともある。ほんとうに、ただいっしょにあるいただけだったけれども、なぜか緊張して、いつもより笑いがうわずっていたようなきがする。
 ある日、電話があった。
 どこでうちの電話番号?
 ……そんなこと、きけなかった。
 何をはなしたのかはよくおぼえていない。気がついたら手元に、待ち合わせ時間と場所があった。
 図書館へいこう、って。
 いこう、って。
 詩織……。
 ありがとう、って。思った。勇気出さなきゃねって。そうだね。勇気、出したら、こんなにいいことがあるなんて。ありがとう。だいすき、詩織。とっても、きれいで、すてきな、大切な、ともだち。わたし、あなたみたいに、なりたい。



「ごめん。おそくなっちゃって」
 遅れて来たあのひとは、少し息をはずませて言った。わたしは無言で首を横にふる。だって、本当だもの。はやくきて、っておもったり、こないで、っておもったり。あのひとの声と表情。なんどもなんども思い返して、あたりをみまわして。近づいて来るのが見えた時、どうしようかとおもった。
「待った?」
「ううん。ぜんぜん」
 ちゃんと、笑顔になってたかしら? 笑顔の作り方や、こえのだしかた。このひとの前にいると、何故か忘れちゃうの。
「いやぁ、美樹原さんがOKしてくれるなんて思わなかったよ。昨日は緊張して眠れなかった」
 照れたような笑い。よく笑うのね。優しい、名前の呼び方。冗談でしょう? 眠れなかった、なんて。それは、わたし。
 わたし、どんな表情(かお)をしたらいいの?
 こんどは、顔の方が勝手に熱くなる。
 見られたくなくて、うつむいた。
 どんなふうにかえせばいいの?
 わからない。
「ずっと外にいると寒いし、入ろう」
 うなづく。声が出せない。
 ……えっ?
 すっと、手が……。
 ええっ!?
 手を、つないじゃってる……。こんなのって、幼稚園の時以来。じゃ、じゃなくって、えっと、てがつながってて、それで……。
「こんなに、冷たくなってる。待たせちゃってごめん。さっ、風邪ひいちゃうよ。入ろう」
「えっ? あ、あの……その……わたし冷え性だから、すぐ手足とか冷たくなっちゃうの。ぜんぜん。ぜんぜんへいき。あのね、だから、友達とかにもすぐどうしたの? とかいわれちゃうんだけど、本当はぜんぜんなんともないの!」
 くすっ、と笑われる。
 なんか、ついへんなこと言っちゃった。
 変な子って思った?
 ど、どうしよ……。
 すこし、あのひとの手に力が入った。
 図書館の自動ドアが微かな音を立てて開く。
「……手がつめたい子って、心が暖かいんだって」
 ……。どうして、この人ってわたしが返事に困る事ばかりいうのかしら?
 どうすればいいのかわかんなくて、変な顔になっちゃう。
 その様子を楽しそうな表情で見て、中に入るあのひと。
 ずっと外に立ってたから、図書館の中は暖かすぎるくらい。
 これなら、顔があついのもいいわけできるかしら?



 あのひとの手は、暖かかった。
 「手がつめたい子って、心が暖かいんだって」
 「なに借りたの? ……あ、それまだ読んだ事なかったの? 面白いよ。やっぱりものすごく大掛かりな仕掛けって……っと、まだ読んでない人に向かってあんまり言っちゃいけないな。うん」
 「楽しかった?」
 「またこんどさそっていい?」
 「今朝は本当にごめんね。じゃあ、またこんど。風邪、ひかないでね」
 何回も、何回も、あのひとの声がまわる。
 さそっていい? って、本当に誘ってくれるの?
 本当に?
 あのひとの手、あのひとの表情、あのひとの歩きかた……。
 ほんとに?
「あ、カレンダー……」
 そういえば、今日は31日……。ってまちあわせは31日図書館の前に10時じゃない。なんか、わたしって……。もしかして、まちあわせのことしかかんがえてなかったの? なんか、すごくバカ……。
 優雅ないそぎんちゃくをめくると、いるかが泳いでいる写真がでてくる。
「もう、2月かぁ。2月っていうと……」
 バレンタインデー。って、言おうとしたのをわたしはのみこんだ。
 もし、もし……だよ。いつものように行動してて、いつものように行動してたのに、あのひとにあえたら……。
 顔がほてってくる。
 いままで、バレンタインデーのチョコレートなんて、おとうさん以外にあげたことなかった。
 もしも、2月14日にあのひとにあえたら……。
 もしも、だよ。あのひとに、あのひとが、それで……うけとって……えっと、こんなのもしもだからねっ。それで、それから……。
 ううん。そっか、義理チョコでいいんだ。迷惑になったら嫌われちゃう。
 そっか、あえたら、なるべくさりげなく……さりげなく。
 うん。だいじょぶ。
 きっと、平気……だよね?



 あのひとに2回、チョコをあげた。
 一度目は少し驚いたような顔で。
 二度目は笑顔で。
 あのひとはうけとってくれた。
 「えっ? チョコレート? 僕に? ……あけちゃ駄目って? へぇ、手作りなのか。美樹原さんて、器用なんだ。ほんとに、女の子らしいんだね。わかった、期待してるから。本当にありがと」
 「ありがとう。……そんなことないよ。去年だってすごくうまく出来てたよ。でも、いまあけちゃだめって? うん。ごちそうさま。ありがと」
 ホワイトデーにはスノーマンの瓶に入ったしろいキャンディー。2つとも本棚にかざってある。Go!Go!Heavenの勇気の前のスノーマン。結局、たべれなくて。美味しかったってうそをついた。



 ……今年もあげていいのかしら……。
 わたしは、ちらりとかばんを見た。
 今年は、同じクラス。
 あのひとと、よくあのひとの近くにいるせいで話す事がある早乙女君の分もつくっておさまっている。ラッピングも、チョコレートも、全部おんなじ。
 ……どうしよう……。
 こわい、うわさがあるから。とっても、さみしいうわさ。
作品名:初恋 作家名:東明