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待ち合わせ

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 あった。たまたま似た色の玉砂利が沈んでいて、そこに保護色の端末が沈んでいる。レオナルドが水に手を突っ込んで拾い出したが、落下した拍子にどこかにぶつかったらしい。ヒビが入ったところから水没してダメになっていた。
「す、す、すいません……」
「……事情を聞こう」
 彼曰く、噴水前を通りかかった際に異界人同士が何やら歩きながら揉めているところに遭遇し、はずみで突き飛ばされて噴水に落下。ずぶ濡れだったがスティーブンとの待ち合わせに間に合うよう戻ってこれると計算して一度帰宅。着替えて戻ってきたところにスティーブンがいた、と。
 スティーブンは額を押さえて項垂れた。
 水没しているとはいえ、秘密結社ライブラの主要メンバーのアドレスがいくつも登録された端末を落とすだなんて。しかも一時間もそれに気づかず放置していたのだ。今更意識の低さをとやかく言いたくはないが、それにしても……。
 しかし、それよりも、一時間歩き回った末にこんなオチを迎えた我が身に向かってため息が漏れる。怒りより先に、彼に何事もなくホッとしていることも含めてだ。
 レオナルドは叱責待ちで青い顔をしながらも、噴水脇に設置された時計を見上げた。
「あのぉ、そろそろ仕事の時間なんじゃないっすかね……」
「それについて一時間ほど前に電話を掛けたんだがね。アッチの予定がずれ込んだから、目標が現れるのは一時間後だ」
「スイマセンッ!」
 軽い嫌味にビシッと姿勢を正した。普段猫背気味なのが嘘のような姿勢の良さで、続く小言を待っているのが滑稽だ。
「ハァ……。今度から防水で頑丈な腕時計にGPSを仕込むことにしよう。そのゴーグルでもいい」
「ハイッ、いつでもどうぞ!」
 自らの首からむしり取ったゴーグルを差し出してくるのを片手で押し留めた。傍らに置いたジャック&ロケッツの袋を膝に移して場所を空ける。
「GPSの件は後回しだ。目標が到着するまでの時間でもう一つ仕事を頼みたいんだ。まずここに座ってくれ」
「ハイッ!」
 キビキビと、だが少しだけ隙間を作って少年が腰かける。どんな無茶ぶりを覚悟しているのやら、背筋を伸ばしたまま。
 腰から膝、膝から膝下にそれぞれ直角を作った足の上にジャックチーズバーガーを乗せた。完全に冷めたヤツだ。スティーブンの舌には出来立てだって美味くないが、冷めてしまうと余計に固くてパサパサで耐え難い。
 ぽかんとするレオナルドの手にカロリーカットでない方のペプシを握らせ、ちょうどよく紙袋の底辺サイズの二人の間の空間に余りの包みを置いた。
「すっかり冷めてるが、食べてくれるな?」
 意図的に威圧して尋ねれば、壊れた首振り人形みたいにガクガク頷いて包み紙を剥き始めた。
「いただきます!」
 いい食べっぷりだ。絶対に美味くないと思うのに、食べなれているからか、味に頓着することなく食べていく。その若さに感心している間に一つ食べきってしまった。
「スティーブンさんは食べないんですか?」
 包み紙さえそのままのジャックチリロケッツドッグに目を留める。
「まだ食べられそうならこれも、袋の中のものも全てあげるよ」
「マジでいいんすか?」
 食べているうちに緊張も消え、紙袋ごと膝に乗せて中を漁っていた少年が「ん?」と何かを引っ張り出した。
「なんだこれ……番号?」
 メモをかざし五秒で電話番号だと気づいてスティーブンを振り返った。何だか不名誉な勘違いをしている顔で。遠慮がちな仕草でメモを差し出しながら。
「まさかとは思うが、君は今丸々太ったザップのことなんか思い出してたりしないだろうな?」
 半笑いで図星を表明する少年をどうしてくれよう。
 彼の指がかかったままのメモ用紙をぐしゃりと握りつぶした。
作品名:待ち合わせ 作家名:3丁目