誤解
家に帰りついてすずめは、
自分の何が馬村の逆鱗に触れたのか
一生懸命考えてみた。
が、やっぱりどう考えても、
一緒にいる時に他のことを考えて
上の空だったから、としか
思いつかない。
一晩考えて眠れなくて、
すずめはとうとう降参して
翌朝早く馬村の家まで行った。
「わあ!どうしたんだよ、
こんなとこまで来て。」
朝学校へ行こうと家を出たら、
すずめが家の前で立っていて
馬村は目を丸くした。
「ごめん、馬村。
やっぱりわかんない!
もう一緒にいる時に
他のこと考えないから許して!」
「は?」
「…他のこと考えない?マジで?」
「う、うん。」
「オマエはそれ無理だろ。」
「いやえっと善処します。」
「じゃあ考えるんじゃねえか。」
「えっでもなるべく!ホントに!」
「なんでそんな慌ててんの?」
「えっ、だって馬村怒ってるから…」
「オレ別に怒ってねえんだけど。」
「は?」
だってだって、一人でゆっくり考えれば
って言って先帰ったじゃん!
「考えごとしてんなら
邪魔したら悪ぃかなって
気をきかせたのに。」
「え?」
えーーーーーっ?何それ?!
「そ、そーなの?」
「何、オマエ。
オレが怒ってると思ってたのかよ。」
「だってよく考えろって言って
馬村帰っちゃったし。
だから私、馬村のことずっと考えて…」
「は?オマエ昨日帰り、
何か大事な考えごとしてたんだろ?
だからオレは存分に考えればいいかと
思ったんだけど…」
「最初考えてたことじゃなくて
オレのこと考えてたのかよ。」
「一晩中?」
すずめの目の下はくまができていた。
「だって…っもう!なんだよ~~!」
ヘナヘナとすずめはその場に座り込んだ。
「自分が誤解したんだろ?
何でキレんだよ。」
「馬村の言い方が紛らわしいんじゃんか!」
「は?どこがだよ。」
「…って、なんで馬村笑ってんの?」
「は?」
馬村はすずめに指摘されて
自分がニヤけていたことに気づいた。
「こっちはさぁ、怒らせたと思って
ずっと馬村のこと考えて寝られなかったんだよ!」
「ふーん、ずっとね。」
「それなのに何で笑ってんの?」
「うん。」
「うん、じゃなくて!」
馬村はすずめの手をとって、
「学校遅れるからいくぞ。」
と歩き出した。
すごくにこやかに笑いながら。
「だからなんで?」
対するすずめは寝不足もあって
ご機嫌ナナメだ。
「手を繋いだからってごまかされないから!」
そう言いつつも、
満面の笑顔の馬村を見ているうちに
自分も笑顔になってくる。
「なんだよ。なんで笑ってんの?」
ボカッと繋いでないほうの手で
馬村の背中を叩いた。
「痛っ」
それでも馬村は笑っている。
「馬村どうしちゃったの?」
「さあ?」
馬村はやっぱり包むように手を握ってくれている。
それはとても暖かで。
そのうちすずめもまぁいっか、
と何で怒ってるかも忘れて
機嫌がよくなってしまった。
「何 アンタたち。
人が彼氏と喧嘩して不機嫌だっつのに
朝っぱらから見せつけちゃって
嫌味なの?それは。」
「あ、そうだった…」
元々はゆゆかの喧嘩をどうにかしなければ
と考えていたんだった。
どうせ女の友情なんて
こんなもんよね、と
学校でブツブツとゆゆかにあたられ、
寝不足の体に堪えたすずめだった。