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もしもの話

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「ジャーン!親父の棚からくすねてきたぜ!」

猿丸が部屋に持ってきたのはウイスキー。

大学三年になって、犬飼と三人で家飲みしようぜ、
と珍しく猿丸がさそってきたのは昨日の話。

みんな進路がバラバラなため、
家が近いと言っても
高校を卒業してからは
ほとんど会うことはなくなっていた。

ビールやチューハイ、おつまみを買い込んで
猿丸の家に集合した。

「こういう感じ、修学旅行以来だな。」

猿丸は妙にソワソワしている。

普段からうるさいが、
こういうイベントごとの時は
猿丸はひときわお喋りになる。

犬飼は相変わらず、
いろいろ気をつかって
家の人のお土産まで用意していた。

「犬飼はすげえよなぁ。」

「え、なんで?」

「いや、俺が女で犬飼が彼氏だったら
 親も反対しねえんだろうなって。」

「キモ…」

大輝は猿丸の女装を想像して
顔を青くした。

犬飼は手際よく皿などを配りながら、

「猿丸、親に彼女とのこと反対されてんの?」

と尋ねた。

「いや、オレの親じゃなくて
 向こうの親が…って、実は…さ…」

猿丸が話しかけて途中で躊躇った。

「んだよ。歯切れ悪ぃな。」

大輝がしびれを切らしてせっつく。

「実は俺、彼女、妊娠させちゃって…」

「「……え?!」」

大輝も犬飼も、猿丸の思わぬ発言に
目を丸くした。

「そそそ、それで?!猿丸はどうすんの?!」

「彼女は産むって言ってるんだけど」

「マジで?」

「向こうの親がめっちゃ怒ってて」

「そりゃそうだろうな…」

「オレの親は責任とれって言うけど」

「今俺、やらかしたって気持ちが
 大きくってさぁ…どうしたもんだか…」

「それで急に飲もうって言い出したの?」

「おっ、お前らならどうする?!
 なぁ、犬飼、もし鶴谷が妊娠したらどうする?
 馬村は?与謝野妊娠したらどーするよ?」

「ええええ/////」

想定外の質問に、犬飼は慌てている。

犬飼が大学三年になって、
ツルは専門学校を卒業し就職した。

今は仕事に夢中らしく、
ほとんど会えておらず、
小さなことでのすれ違いが多かった。

自分はまだ親に甘えている学生で、
対するツルは自分の足で立とうとしていて、
おいてけぼり感が半端ないのだ。

故に妊娠とか結婚とかが
犬飼はまったく想像できずにいた。

「うーん、社会人だったら
 結婚という形で責任とるとこだけど…」

と言葉を濁した。

すると大輝は、

「オレなら結婚する。」

と断言した。

「えっ!ホントに?!収入もねえのに?」

「お前、彼女、大事じゃねえの?」

「だ、大事だけど…」

「自分でやったことだろ?責任もてよ。
 とりあえず就職するまでは
 バイトでもなんでもすりゃいーじゃん。」

ビールを自分で開けて飲みながら、
大輝は言った。

「なんか馬村、変わったね…」

「は?」

犬飼が呆然と大輝の顔を見た。

すずめも専門学校を出て就職した。

彼女が先に就職しているのは同じなのに
自分は気後ればかりしているのを
犬飼は恥ずかしいと思った。

「俺の知ってる馬村は、
 女が寄っても触っても
 毒吐く奴だったじゃん!」

猿丸も意外そうな顔で大輝を見た。

「人聞き悪ぃこと言ってんなよ。
 だいたい、いつの話してんだよ。」

「馬村、与謝野さん大事にしてんだね。」

「…///フツーだろ。
 犬飼だって鶴谷大事にしてたじゃん。」

「うん…でも今は自分が卑屈になってるかも。」

「俺、女だったら、お前に惚れるわ。」

猿丸が大輝に向かって
おかしなことを言うので 

「キモい!ヤメロ!」

と大輝は再び顔を青くした。

作品名:もしもの話 作家名:りんりん