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無表情の内側

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「与謝野さん、いつも無表情だね。」

職場の先輩からそんなふうに声をかけられた。

「え、そうですか?」

「うん。何考えてんのかなって。」

「何って…仕事ですけど。」

「僕ね、無表情な人が意外な顔をするのを
 見るのが好きなんだけど。」

「はぁ…」

何を言ってるんだろう、この人は。

「鉄壁だよね。与謝野さん。」

「どうも。」

めんどくさい人だな、と思いつつ
手は仕事を続ける。

「与謝野さん、彼氏いるの?」

「はぁ、一応。」

「え?マジで?どんな人?」

本気でウザい。

「はいはい、今仕事中。
 与謝野さん、相手しなくていいから。
 こら!山野はちゃんと仕事しろ!」

「今俺、休憩中ッスよ。」

「人の仕事の手を止めるのは
 休憩じゃなくて邪魔してるって
 言うんだよ!」

「えーーっ」

そんな先輩同士のやりとりの間も
すずめは黙々と仕事をしていた。


山野、と呼ばれた先輩は、
5つ上の大卒の社員で、
何かとお調子者のムードメーカーである。

職場を盛り上げようとしているのに
すずめはいつも無表情なためか、
山野は何かとすずめを笑わせようとするが
よく空回りをしている。

新入社員をリラックスさせるため、
と称して、いろんな話をふってくる。

彼氏の話題もその一貫だが、
すずめはそういうことをベラベラ喋るのも
あまり好まない。

終業の時間になったが、
すずめは少し仕事が残っていたので
残業することにした。

「与謝野さん、残業?俺も俺も。」

山野も残っていた。

これは予定より終業が延びるかも、
とすずめは密かに思った。

何かとちょっかいかけられるので、
仕事がスムーズにいかないのだ。

「愛想ないなぁ。
 ちょっとくらい笑ってくれても。」

そう言われて、すずめは苦笑いをした。

「そんなんじゃなくてさー。
 彼氏の前でもそんなんなの?」

「はぁ、あんまり変わらないですかね。」

「ウッソだー。ねぇ、彼氏の写真ないの?」

「携帯に?持ってません。」

「え?なんで?」

「撮られるの嫌がるんで…」

「…それ、与謝野さん、
 フツーに騙されてない?」

「はぁ?なんでそうなるんですか?
 それより仕事していいですか?
 いつまでも帰れないので。」

「あ、ごめん、ごめん。」

それでようやくお喋りから解放された。

「お疲れ様でした。」

残った仕事を片付け、
すずめが帰ろうとすると、

「暗くなったから駅まで送るよ。」

山野がそう申し出た。

「いやっ走るから大丈夫ですよ?」

「走る?!」

「与謝野さん、送ってもらって?
 最近物騒みたいだし、この辺。」

他の先輩にも言われて、

「はぁ、じゃあお願いします。」

とお願いすることにした。


山野は相変わらずずっと喋っている。

はぁ、そうですか、へぇ、と
すずめは気のない返事をしていた。

するとピリリリ、とすずめの携帯が鳴った。

山野に気をつかってとらずにいると、

「もう仕事中じゃないし、
 俺を気にせずメール見ていいよ?」

と言われて受信履歴を見ると、
大輝からだった。

名前を見た瞬間、顔が綻ぶ。

その時、バッと山野に携帯を掴まれた。

「えっ!」とビックリして
すずめが見上げると、

山野が携帯の受信履歴を見て
すぐにすずめの顔を確認した。

すずめの顔はいつもの顔に戻っていた。

「大輝って彼氏?」

「あ…はい。」

「あっごめん、思わず掴んじゃって。
 与謝野さんが見たことない笑顔をしたから
 そんな顔をさせるのは誰かと思って…」

「は?笑ってました?」

「え…無自覚?」

駅前まで来て、
「すずめ!」という男の声が聞こえた。

シュッとした塩顔長身の、
これまたすずめに勝るとも劣らない、
無愛想な男。

「大輝。」
とすずめが呼んだので、
この色男がすずめの彼氏だと
山野は理解した。

「誰?」と言われ、

「職場の先輩で山野さん。
 最近物騒らしくて他の先輩から
 送ってもらえと言われて…」

とすずめが説明する。

「それはどうもお世話かけました。」

と塩顔イケメンは一応お辞儀はするが、
明らかにこちらを牽制する目つきをしている。

「いやいや、どういたしまして。」


「オイ、行くぞ。」

「あ、うん。山野さん、
 ありがとうございました。」

「あ、うん、じゃあね、お疲れ様。」

山野はそう言って別れたが、

無表情なすずめが顔をほころばせる相手が、
あんなに無表情なイケメンというのが、
どうにも解せなかった。

「なんで?」

大輝はというと、やっぱり
送ってもらったのが男というのが
気に入らないらしく、
少し不機嫌だった。

「ごめん。」

「別に。」

先輩から言われれば断れないのはわかっている。

「あの人、職場の雰囲気を盛り上げることに
 情熱注いでるような人だから。」

「私が無表情だからって
 なんとか笑わせようとしてるみたい。」

「…口説かれたりしてねえよな?」

「ないよ。ホントにみんな楽しく
 みたいなのがモットーみたいだから。」

「オマエが笑えば
 ちょっかいかけられずに済むんじゃん?」

「でもあの人の話、笑えないんだよね。」

「…売れない芸人みたいだな…」


作品名:無表情の内側 作家名:りんりん