こらぼでほすと プラント6
「レイのママさんは小食なんですか? トダカさん。」
「そうですね。なんせ、世話するのが多いので自分の口に運ぶのを忘れるんですよ。ギルさん、この酒は年代モノじゃないですか? 」
「ええ、トダカさんのお口に合うように用意してみました。」
「いいワインね? おいしいわ。」
大人組は、まったりと酒盛りをしている。シンが、味見したい、とか言い出して慌ててニールが止めていたりする。
「酔うからダメ。シンはジュースでいいだろ? 」
「これも勉強だぜ? ねーさん。」
「それならアルコール中和剤を飲んでからだ。悟空、これ、食べてくれ。」
「あいよ。でも、ママ、もうちょっと食おうよ? サラピンはダメだろ? ギルさん、お代わりってあり? 」
「ああ、追加するよ、悟空くん。レイのママさんは、もう少しあっさりしたものを用意しようか? 」
「いや、これでいいです。最近、洋食を食べないので新鮮です。」
「きみは洋食の人だよね? 」
「亭主が和食か中華しか食べないので、俺も同じものを食ってるんですよ。シンたちのおやつは洋食もするんですが。」
「特区だと、そちらが主流ですものね。ニールくんはワインは? 」
「飲んだら寝てしまうので勘弁してください、タリアさん。」
「うちの子、お酒に弱くてね、タリアさん。シンもニールも弱くて、いつも晩酌に付き合ってくれるのはレイだけなんだ。レイは飲まないのかい? 」
「いただきます。」
レイはザルを通り越して酔わないので、勧められれば飲む。味見しますか? と、ママにも飲ませる。ついでにシンと悟空も味見だ。悟空は酔わないが、食べるほうに専念している。
「プラントはいかがですか? レイのママさん。」
「綺麗なところですね。まだアプリリウスしか拝見してませんが、自然環境も整っていて散歩するには、いい感じです。スーパーはありますが市場みたいなものはないんですか? 」
「露天商みたいなものかな? 」
「ええ、オーヴでも特区でも、露天商が並んだ市場がありますが、こっちではみかけてません。首都だから? 」
「いや、食糧の生産が別のコロニーでされていて、流通が統一されているから個人商店というものが少ないからだと思うよ。農業主体のコロニーのほうには、存在するかもしれない。すまないね? 私は、そういうものには視線が届かないらしい。」
「そりゃそうでしょう。ギルさんは、あまり食事には興味がないんですね? 」
「栄養補給っていうのが主だね。」
「たまにはでいいですから、好きなものを探して召し上がれば、どうですか? 仕事が忙しいとおざなりになるのは解るけど、気分転換にもなりますよ? 」
「そういうものなのかな。それなら、レイのママさんの手料理をいただきたいものだ。」
「明日の朝、簡単なものなら用意できます。洋食でいいんでしょ? 」
「できれば和食を食べてみたいな。必要なのは、米ですか? 」
「うーん、米と味噌と醤油。あとは野菜とタマゴとハムぐらいあれば、なんとか。」
「シャケがいるよ、ママ。俺は朝飯には、シャケと納豆だぜ。」
「俺は、大根オロシにしらすがいいですね、ママ。」
「アジの一夜干しもいいなあ。」
「僕、タマゴかけごはんがいい。あれこそ、特区だけだよ。」
「うーん、生でタマゴは難しいぞ、リジェネ。あれは特区だけなんだ。悟空、納豆は無理。あれも特区オンリーだ。」
「生卵ですか? 生で食べる? 」
「ええ、特区のタマゴは新鮮なので生で食べられるんです。そういうのは、いずれギルさんが特区に来られたら用意させていただきます。」
特区独特のものは、さすがにプラントには存在しない。それ以外なら代用できるから、なんとかなるとニールは算段する。
「ギル、簡単な特区の朝ごはんなら、なんとか調達できるでしょう。俺がママと相談して手配しましょう。それでどうです? 」
「そうだね、レイ。米はあるはずだ。味噌は、どうだろう? 」
「なければ大使館から貰ってこさせましょう。オーヴのものも似たようなものです。シンは一夜干しで、悟空くんは塩シャケだな? 」
「あんの? トダカさん。」
「大使館の食堂なら材料はあるはずだ。あとね、娘さん。出汁の素。」
「あっ、そうだっっ。それも必要です、お父さん。」
肝心の出汁の素を忘れてニールも手を叩いた。あれがないと味噌汁がおいしくない。大使館にはオーヴの人間が滞在しているから、そちらの料理も出しているのだそうだ。だから、簡単なものなら、なんとかなる。食後に、打ち合わせてトダカが材料は手配してくれることになった。そろそろ馴染みの味が恋しいので、シンたちも楽しみになってきた。
「味噌汁と出汁巻き卵ぐらいは娘さんが作ればいい。あとは、大使館から運んでもらおう。それでいかがですか? ギルさん。」
「ええ、お願いします、トダカさん。」
「うーん、台所とか野菜とか拝見させていただいていいですか? ギルさん。下ごしらえできるなら、やっておきたいんですが。」
「ああ、食後に案内しましょう。・・・すいません、レイのママさん。お休みなのに手を煩わせて。」
「とんでもない。ゆっくりさせてもらってるんだから、これぐらいは大丈夫です。」
食事の後に台所に案内してもらったが、とんでもなく食材は豊富だった。悟空が、その食材を見て、大喜びで、あれもこれも、と、ニールにリクエストする。
「エビ焼こう、エビッッ。あと、この鶏も焼いてくれ、おかん。」
「いや、悟空、朝飯だから。」
「ねーさん、レンコン焼いてくれ。俺、キンピラ風がいい。できれば肉つけて。」
「ママ、味噌汁の具は、なんにします? 野菜がたくさんあるからトン汁もいいですね? 豆腐があれば、けんちん汁もいいんですが。」
「うーん、キャベツとニンジンで浅漬けして、これだと野菜たっぷりの味噌汁とかいいんじゃないか? レイ。ギルさん、ちょっと台所借りますね? シン、キャベツ洗ってくれ。悟空はタマネギ。レイはササガキ。リジェネはニンジン。」
「「「「了解っっ。」」」」
ニールの指示で若者組が動き出す。野菜たっぷりの味噌汁や浅漬けなんかは、先に刻んで煮たり塩漬けにしておかなければならない。ニールのほうはレンコンを洗って皮むきする。これも切って水で晒して簡単に炒めておけば味が落ち着く。
「今からですか? レイのママさん。」
「下ごしらえしておかないと味が染みないのだけ。ギルさんは戻ってください。」
「いや、見学させてください。タリアは、どうする? 」
「私も後学のために見学させていただくわ。」
「じゃあ、私は大使館に連絡しておきます。」
トダカは携帯端末で大使館に連絡するため廊下に消えた。大使館の食材を適当に運んでもらう程度は、お茶の子歳々だ。
作品名:こらぼでほすと プラント6 作家名:篠義