こらぼでほすと プラント6
「それはいいけど・・・明日は、ギルさんとこだろ? 」
「ギルは午後には仕事です、ママ。だから、午後からは、またフリーです。」
「ちょっと待って、僕とママは浮き輪が欲しいんだけど? 」
「レンタルがある。シンと悟空は本気で泳ぐだろうから、俺たちは、のんびり浮かんでいましょう、ママ。」
「それ、あたしも参戦するっっ。悟空、あたしとも勝負して。」
「え? ルナマリア、泳げるのか? 」
「シンよりは早いから。」
「嘘付けっっ。俺のほうが早ぇーよ。」
「そう? なら決着つけようじゃないの? 」
「望むところだ。」
若者組は、どうしても対決しなければならないらしい。トダカとタリアは顔を見合わせて苦笑する。これといって予定はないので、暴れたいなら、それも有効だ。首都であるアプリリウスにも娯楽施設はある。さすがに遊園地は、別のコロニーだがプールなんかは、何箇所かはある。
私邸はアプリリウスでも中心地からは外れた場所だった。宇宙港からも遠いし、住宅街の端のほうで、富裕層が多いのか住居も大きなものが並んでいる。とはいっても、歌姫様の本宅ほどの広さはない。寺程度の広さで庭もある。エントランスまで車で入ると議長様自らで出迎えに現れた。こちらも私服だ。
「なぜ、制服なんだい? タリア。」
「私は護衛権案内役ですから。」
「そこまで畏まる必要はないだろうに。・・・トダカさん、お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました。」
「お久しぶりです、ギルさん。お呼びいただいてありがとうございます。お元気そうで何よりです。」
とりあえずは、基本の挨拶をして握手するところからだ。正装じゃないと、普通のお兄さんという感じで、ニールも緊張しない。ニールの腕にはリジェネがくっついている。
「シン、レイ、久しぶりだ。それから、レイのママさん、相変わらずお美しい。あなたに会えるのを楽しみにしておりました。」
で、普通は握手なんだが、いきなり手を取って、その手にキスしている辺りで様子がおかしくなってくる。上流階級って、こんなものなんだろうか? と、内心でツッコミしつつニールも笑顔で挨拶はする。手を持ったまま、じっくりと顔を近づけてくるので、さて、どうしょうか、と、思っていたら、タリアがパシリと議長様の手を叩き落とした。
「ニールくん、イヤならイヤっておっしゃいよ? この男は際限がないから。」
そして、レイがニールの前に出て来てガードする。
「俺のママに失礼は困ります、ギル。」
さらに、いつ殴ろうかなあ、という顔でシンとルナマリアもレイに並んで笑顔だ。てめぇー初っ端から飛ばすんじゃねぇーよっっ、というオーラ全開だ。
「ただの感想じゃないか。・・・きみは悟空くんだったね? それから・・・こちらは? 」
「リジェネ・レジェッタ。よろしく、ギルバート・デュランダル。」
議長が知らないのは無理もない。リジェネが『吉祥富貴』に合流したのは、ずいぶん最近のことだ。
「リジェネもうちの子なんです。すいません、ギルさん。」
「おや、レイのママさんは子沢山なんですね。」
「ええ、なんだか、どんどん増えてまして・・・この子もお邪魔してよろしいですか? 」
「もちろんです。どうぞ、お入りください。」
エスコートするように差し出された手はレイがスルーしてニールの腕を掴む。タリアとレイは勝って知ったる場所だから気にせずエントランスを通り過ぎた。
私邸なので公邸ほど派手ではないが、きちんとした応接セットのある部屋に案内された。すぐに、お茶が運ばれてきて各人、適当にソファに座り込む。もちろん、長いソファにトダカとニール、ニールの横にはリジェネ、トダカの横にはタリアだ。とりあえずのところは、挨拶とか近況の話なんかになる。ニールや悟空、リジェネは部外者みたいなものだから、適当に相槌をうつぐらいのことだ。
「少し込み入った話もしたいんですが、ギルさん。お時間をいただけますか? 」
「もちろんです。こちらからも提案があります。・・・では、別室にて。」
「ええ、そうしていただけますか? うちの娘たちには退屈な話ですから。」
トダカのほうは『吉祥富貴』とオーヴからの話も携えている。さすがに、ニールやリジェネの前でする話ではないので、場所を変えてもらうことにした。タリアが一緒についていく。他は、適当に寛いでいてくれ、ということだ。
この部屋にはグランドピアノがあって、これでレイは練習をしていたという。ちょっと聞かせてくれ、と、ニールが注文すると、いそいそとレイはピアノの準備をする。
「リクエストは? ママ。」
「レイが得意なやつ。」
と、ニールがリクエストするとアイルランドの民謡をひいてくれた。最近、練習したので、これは手が覚えているのだという。さすがに歌までは無理ですよ、と、言いつつハミングはしてくれる。
「綺麗な曲ね? レイ。タイトルは、なんていうの? 」
「アイルランドの民謡だ。もうひとつ、子守唄もできるぞ、ルナマリア。」
「アイルランド? 」
「俺の田舎なんだよ、ルナマリア。誕生日に、うちのが、みんなで歌ってくれたんだ。ラクスのミニリサイタルもやってもらった。」
「贅沢なお祝いですねぇーおねーさま。」
「レイがピアノがひけるなんて知らなくて、びっくりさせてくれた。」
「芸術的な趣味もあったほうがいいということで、カリキュラムを組まれてました。ママのために練習しましたが、原曲通りにひくのに手間取りました。」
「アイルランドの歌って心地良いね? シンのところのは、どんななの? 」
「うちも独特なんだ。もう少し陽気な感じだ、リジェネ。」
「おねーさまはピアノとかは? 」
「俺は、てんでダメ。こういうのはからっきしでさ。ルナマリアは? 」
「あたしも、こういう才能はないですね。歌はいけますよ? 流行りモノをカラオケはしてます。」
悟空はお菓子に夢中で会話には参加していない。堅苦しくはないが長々座っているのは疲れるので、庭を散歩したい、と、言い出した。
「好きなところを散策してくるといい。なんなら、家の中も探検するか? 悟空。」
「そうだな。とりあえずは庭へ行って来るよ、レイ。シンは? 」
「俺も散歩しようかな。」
これだけの人数が居れば、変態も、ちょっかいはかけられないだろう。それにシンのほうは脱出経路とか警備状況のチェックもしておくつもりだ。レイには視線で、それを告げて立ち上がる。
「あたしもシンのほうへついていくわ。」
「ああ、そうするといい。ママは、どうします? 」
「レイの部屋に邪魔してもいいか? 」
「何もないと思いますが・・・」
「それならレイの部屋まで行って昼寝しようよ、ママ。昨日、寝てないって言ってたし。」
やはり執政者の自宅訪問なんてことになると、ニールでも緊張する。昨晩は、あまり寝られなかったのだ。くっついて寝ているリジェネはママが寝ていなかったことに気付いている。それなら、そうしましょう、と、レイも案内することにした。
食事は、いつも通りの騒ぎだったが、極めてプライベートな無礼講なので、議長様もタリアも一緒になって騒ぐことになった。レイとリジェネがニールの両側に陣取り、食べさせるなんてことになっていてもスルーだ。
作品名:こらぼでほすと プラント6 作家名:篠義