Brand New Days
一応アイギスはえる、えるご…えーと、えるごなんたらっていう、桐条グループの研究の成果のなのだ。もう対シャドウ用の兵器を作る必要はないとは言え、日常生活は研究データとして記録されていくに違いない。女の子が誰かに管理されて監視されていくなんてすげー不満だしむかつくけど、アイギスのことを身体的な面で支えてやれんのは研究所の人しかいねーわけだ。まあ、アイギスは大切にされているわけだし、さすがにアイギスの事情を見知った俺たちからどっか遠いところに放るってことはしないだろう。俺とゆかりっチと風花、離れたとしても三人のうち誰か一人とは一緒になるだろうと思う。
昔はさ、見知ったやつがひとりでもクラスにいたらいいな、なんて毎回思ってたもんだ。いや、いまだってそれがないってわけじゃない。ゆかりっチ、アイギス、風花はもちろん、友近とか宮本、あとはアイツと仲良かった留学生のベベ。仲いい奴といっしょに楽しくやんのは、そりゃとびきり楽しい。でも俺は、新しく誰かと仲良くするっていうのもすげーいいことだと思うのだ。あ、それと転入生がいたとしたらやっぱり、俺はそいつと仲良くなってやる。よっぽどウマが合わない限り、絶対だ。
――こうやって三人で歩いていると、低血圧のアイツを引っ張り起こして、アイギスとゆかりっチ、風花と俺と五人で登校した時のこととかを思い出す。
二月だ。アイツは、本当は三月三十一日に死んでいたのだという。
ユニバースっていう力で奇跡を起こして、生きている俺たち人間の中からずるりと這い出ていった悪意――シャドウが、ニュクスに触れることのできないよう、体を捨てて命を張って、大いなる封印ってやつで俺たちを守ってくれているのだ。あの日からアイツはきっと、人間の悪意と張り合っていたから体にまで元気がいかなかったのだ。だからあんなに毎日だるそうに過ごしていた。倒れることもあった。
でも俺たちは、ぜんぶ忘れちまってた。特別課外活動部の拠点地、巌戸台文寮に集う面々はたまたま一堂に会したわけじゃない。自分たちが成し遂げたことも忘れて、のんびりと過ごしていたわけだ。
でもアイツは、全部覚えていた。どこまで周りを置いてけぼりにする完璧超人なんだ。そんで、どんだけサビシーやつなんだ。自分だけが覚えていて、それは事実で、なのに仲間と呼べた俺たちの記憶はなんかどっかにすっぽ抜けてて、――そして、たぶん、あいつはわかってたんだ。自分が、死ぬってことに。それなのに、俺らの最後の約束っていうのを守るために、もう死んじまってほんとは動けないはずの体を動かして、俺らとの約束を守ったのだ。約束を守って、そんでアイツはそのまま眠ってしまった。ゆっくり休めよ、って俺らは言えなかったのだ。心残りといえばそれくらいだ。
「ていうか、アイギス。敬語ナシっていったのに一定の単語だけタメで他敬語じゃない!」
「や、アイギスにはちと難しーよな?いいじゃん、個性だぜ、コセイ」
「…どうでもいい」
「!?」「!?」
ばっ、とアイギスに振り返る。おどろき顔の俺とゆかりっチを見て、アイギスがくすくすと笑っていた。
「あの人の真似です」
似ていたでしょうか、って笑う。妙な単調さがそっくりだった。瓜二つか、お前。
そんで、ゆかりっチをみるとちょうど目が合って、なんかおかしくなった。
「っ…はは、おい、アイギス笑わせんなって、っはは、ひ、苦し!」
「ホント!やめてよアイギス、びっくりしたじゃない!」
あっはっはっはぎゃっはっはっは、と思い切り道端で笑いながらヒーヒーいってたら、学校に近付いているってこともあり登校中の生徒たちの視線が突き刺さる。でも俺たちはまーそんなことどうでもいいや、ってゲラゲラ笑うのだ。アイギスも、くすぐったそうな顔して笑ってた。
俺たちはもう、クヨクヨウネウネなんてしてらんないのだ。立ち止まってベソかいてる暇なんてない。
俺たちで救って、あいつが守ってくれた未来を、俺たちが守ってやらなきゃならんのだ。
作品名:Brand New Days 作家名:こよる