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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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 声を掛けようか、とも思ったが、二人はもうすっかり二人だけの世界に入ってしまっているため、声は掛けられない雰囲気だった。このカップルが並ぶ間隔、誰が決めているわけでもなく自然に決まっているのに、見事にそれぞれのカップルで二人だけの世界を作れるだけの間隔になっているところが絶妙だ。
 しばらくは、私たちはどうやって接触したのだろう、といろいろ考えていたが、どうもここで座っている限りは接触できそうにない。ということは、彼と接触したのはここではなかったのだろう、という結論に達した。
 そんなことを考えていたため、自分一人の世界で思索にふけることも、もはやできなくなっていた。もう次のカップルに席を譲るか。
 立ち去るとき、ちらっと隣の二人を見たが、もうすっかり二人の世界に浸っていて私にはまったく興味がないようだったので、結局接触できずに立ち去ってしまった。
 いや、そもそも接触する義理なんてないんだし、とか思いながら三条大橋を渡った。
 渡りながらふと川岸の方を見ると、たった今私が立ち去ったスペースには既に別のカップルが並んで座っていた。きっと目に見えない「順番待ちの列」のようなものがあるんだ、ここには。このあたりを歩いているカップルの大半は、何気ない風を装いながら川岸の様子を真剣にモニターしているのではないかしら。

 京阪三条駅の売店で京都の市街地図を買った。私がよく知っているのは二〇一〇年の京都で、その二七年前となるとさすがにかなり様子が違うので、この先「調整」でどこに飛ばされても最小限のロスで行動するためには地図が必要だと思ったからだ。
 地図を買ってから、また三条大橋を渡った。そろそろお腹が空いたので、宿を取る前に食事をしようと思った。
 橋を渡りながら川岸に目をやると、さっきの高校生カップルが立ち上がって階段を上るのが見えた。登ったところで二人は手を振って別れ、彼女は河原町の方に去っていき、彼は橋の方にやってきた。
 彼は橋を渡る途中、昨日(明日)もいた、大きな看板を持って通行人に何かを配っている人に自分から近づき、何か話しかけて小さな紙切れらしいものを何枚かもらっていた。
 そのまま彼は三条大橋をこちらに向かって歩いてきた。
 すれ違いざま、私は思いきって彼に声を掛けてみた。昨日(明日)、私は彼が滋賀県に家があると聞いていた。つまり彼はこのまま三条駅から京阪電車に乗って帰宅する。
 ということは、彼と接触する機会は、おそらくこれが最後だ。それに今の彼の行動に少し興味があった。
「ねえねえ君、今、何をもらったの?」
 彼は私が鴨川の河原で隣に一人で座っていた人だと気づいたらしい素振りを見せた。
「あ、さっきの」
 一瞬、何か文句を言われるとでも思ったのだろうか、少し緊張したような面持ちで言った。
「あの、餃子のタダ券です」
 えっ、餃子?
 そういえば高寿とデートしたときに、入りはしなかったが見かけたことがある。看板を持ってチケットを配るなんて、何かいかがわしい店か居酒屋かと思っていたが、中華料理のチェーン店だったのか。そういえば、ちゃんと見るとタダ券を配っている人が持っている看板には、チェーン店の名前の上に小さく「餃子の」と書かれている。今までちゃんと見ていなかった、ということなのか。
「そこって美味しいの?」
「美味いですよ〜。僕なんて週に三日は食べてますよ」
 と彼が笑う。人懐こい笑顔だ。高校生が週に三日も入れるということは、かなり安い店でもあるのだろう。
「どこにあるの?」
 と聞くと、河原町の方向を振り返って、
「橋を渡ってすぐ左に入る道があるでしょ。川岸に降りていく階段があるあの道です。あの道を行くと道が直角に右に曲がるんですが、曲がってすぐのところにありますよ」
 と指差しながら教えてくれた。
 その後で、
「でも、えっと、あの、うーんと」
 と何か言い淀んでいたが、
「あの、お名前を聞いて良いですか?僕は江上って言います」
 と私の名前を聞いてきた。
「え?私は福寿だけど。福笑いの福に寿で福寿」
 思わず教えてしまった。
「福寿さんですか。ありがとうございます。えっと、でも福寿さんにはあまり釣り合わない店だと思いますよ、と言いたかったんです」
 例の人懐こそうな笑顔でそう言う。
「すいません。どう呼ぼうか迷っちゃって。見たところ僕の母親よりもけっこう年上のようですけど、でもこんな綺麗な人に『おばさん』て呼ぶのも気が引けちゃって」
 むむむ。こいつやるな。まさか私をナンパする気もないだろうから自分でわかってやっているのではなさそうだけど、この手で何人の女の子を引っかけているのやら。
「それはどうもありがとう。でも江上君、君は予備校生でしょう?予備校からさっきの女の子と一緒に出てくるところをバスの中から見かけたの」
「高校生です。予備校には夏期講習で通ってるだけで、浪人ではないですよ」
「そうか。どっちにしても受験生だよね。女の子とデートばかりしてないで、勉強しなきゃダメだぞ。君、女の子と仲良くなるのが上手そうだから」
「そんなことないですよ。振られてばっかりです。さっきの子は今日初めて声を掛けたんです」
「そうかなー。まあ、とにかく頑張んなさいよ。私はその店には行かないだろうけど、どこかにご飯食べに行くわ」

 江上君と反対方向に別れて三条大橋を渡りながら、思わず苦笑いが浮かんだ。これで昨日(明日)、彼が怪訝な顔をした理由がはっきりわかった。そりゃ不思議に思うわけだ。
 例のチェーン店に入る気はなかったが、せっかく話題に上ったことだし、どんな店構えか通りからでも見てみようという気になり、私は三条大橋を渡ったところを左に折れた。
 すぐに川岸に下りる階段があり、その先で道が直角に右に曲がっている。曲がったあたりに既に例のチェーン店が見えている。表には、「餃子百四十円」と書かれた幟もあった。この時代に来て間がないので、この値段がどれくらい安いのか、もうひとつよくわからないのだけど。
 道に沿って角を曲がったときだった。
「キャーッ!」
 悲鳴とキーッというブレーキが鳴く音が響いた。自転車が正面から突っ込んでくるのが見えた。私はその場に凍り付いてしまったが、自転車に乗っている若い女性は必死の形相でブレーキを握りしめて、何とか私を避けようとしていた。
 自転車は私の右腕をかすめ、そのまま私の背後の電柱にほとんど正面から激突してしまった。自転車は右に倒れながらなおも前進し、彼女はその場に倒れた。
「大丈夫?」
 彼女に駆け寄って抱き起こす。白いブラウスと紺のスカートは高校の制服らしいが、そのスカートから覗いた膝から血が出ていた。
「あ、私は大丈夫です。それよりごめんなさい。ケガはありませんか?」
 痛みに顔をしかめながらも、彼女は私の方を気遣った。
「私はぜんぜん大丈夫よ。それよりどうしちゃったの?」
 彼女がよろよろと立ち上がりながら、再び私に詫びた。
「ほんとうにごめんなさい。ちょっと急いでてスピードを出しすぎてしまって」
 倒れた自転車を起こしながら私を申し訳なさそうに振り返った。
「ほんとうにお怪我はありませんか?」