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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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「僕が開けるのか?」
 高寿は悲鳴をあげたが、上山は断固としてその封筒を開ける意志はないらしい。
 仕方なく高寿は封筒を開けた。
 中から出てきたのは、別に何の変哲もない、京都の市街地図だった。
「・・・開いてみろよ」
 上山が言うので、仕方なく高寿は地図を開いてみた。別になんてことない市販の地図だ。
「ただの地図だぞ。おかしなところは何もない」
 上山にそう言いながら、さらに詳しく地図を見ていくと、高寿は地図の何カ所かにマーカーペンで丸印が付けられていることに気づいた。
 丸印の場所を見ているうちに、高寿の顔色が変わった。高寿の異変に気づいた上山が恐る恐るといった様子で尋ねた。
「南山、どうした?」
 高寿は上山の問いが耳に入らず、地図の印探しに没頭していた。丸印は丹波橋の街の中にひとつ、木野美術大学の裏山にひとつ、宝ヶ池の畔にひとつ。そして決定的なのは、地図の余白に「枚方」という文字。この筆跡は、紛れもなく・・・
 高寿は顔を上げて上山を問いただした。
「この幽霊が出たのは、いつだ?何年のことだ?」
 上山は高寿の気迫に押されたように、たじたじになりながら答える。
「いや・・・なんせばあちゃんからは昔々としか聞いてないから・・・」
 高寿は思いついて地図の発行年を探した。一九八三年発行と書かれている。
 一九八三年。向こうの世界の愛美が四七歳の時に、ここに来たのだろうか。でも愛美はこちらの世界に来れるのは五年に一度だと言っていた。だとしたら、ここに来たのは一九八五年、愛美が四五歳の時なのだろうか。
 だとすれば、「消えた」のは単なる「調整」なのか?
「上山、この幽霊が出たのは深夜なのか?」
 上山も高寿の真剣さが伝染したように真剣に答えようとするのだが、なにせ彼の情報源が情報源なので、歯切れが悪い。
「いやあ、店を開けてそれほど時間は経っていなかったって聞いた覚えがあるような」
 頼りない。でも、「調整」が入る時間帯ではないように思える。
 いつ、どのような状況でこの地図の印が描かれたかはわからないけど、この印と「枚方」という文字を書いたのは間違いなく愛美だ、と高寿は確信した。印がある場所は、丹波橋の高寿のアパートがあった場所、大学の裏の貯水槽がある場所、そして宝ヶ池の東屋の場所だ。これはどれも高寿と愛美にとって大切な思い出がある場所だ。
 そして枚方は高寿の実家がある街。間違いない。
 愛美がこの店に来て、僕の近くに座ったんだ、と高寿は思った。そこで、僕がまだ産まれていない時代にいながら、僕のことを思い出しながら地図に印を描いたんだ。
 高寿は目頭が熱くなった。涙が出そうになるのを耐えた。
 これまで高寿は、自分と別れた後の愛美が、自分のことをどう思っているか、ということをあまり考えたことがなかった。十歳の時に会って一緒にタコ焼きを食べた、三十歳の愛美の華やかで颯爽とした姿から、何となく愛美は自分のことは綺麗に割り切り、向こうの世界で華やかに生きている、と思っていた。
 しかし今、高寿は、愛美も自分と同じように、未練を抱えたまま生きていたことを知った。なんだよ愛美、僕には新しい恋人を見つけて幸せになってね、なんて言ってたくせに、と高寿は心の中で愛美に言った。愛美が幸せなら、自分が産まれる前のこの世界に来て、地図に自分との思い出の印をつけて涙を流す、なんてことはしないように思えた。
 ふと思いついて、高寿は上山に尋ねた。
「なあ上山。そのおばあちゃんは、幽霊が着ていた服のことは何か言ってたか?」
 上山は忘れてた、という風に即答した。
「ああ、紺色のワンピースだったって言ってた。真夏なのに春秋物の暑そうな服を着ていたから覚えてたって」
 高寿の中で、宝ヶ池で翔平の前に現れた幽霊と、この居酒屋に出た幽霊が繋がった。
 幽霊なのか生身の愛美なのかはわからないが、宝ヶ池で翔平は愛美に会ったんだ。

 高寿は地図を上山に示して告げた。
「これは僕がもらっておく」
「ええっ?どうしてだよ?祟られるかもしれんぞ」
 高寿は声をあげて笑った。笑いながらこっそり、指で涙を拭った。
「これは絶対に僕には祟らないよ。むしろこれをここに置いたままにしておくと、お前を祟るかもしれないぞ」

 高寿は戸惑う上山を見ながら思う。
 数年に一度しか会わないのに、僕が世に出す映画やクリップのような僅かな材料から、本人も仰天するほど僕の気持ちや状況を的確に理解する上山は、確かに無二の親友だ。でも、そんなお前にも立ち入れないことはあるんだよ。