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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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「母さん、話は後だ。今の日付、時刻と場所を教えてくれ」
 事態が飲み込めないまま、私は高志にそれらを教えた。場所は観光地図で教えたのだが、高志は丸印がたくさん書き込まれた地図を取り出し、私が教えた場所を新たな丸印として書き込んだ。
 次に高志は他の二人を振り返った。二人とも見覚えがあった。高志の研究室にいた人たちだ。二人揃って、口をあんぐりと開けて私を見つめていた。
「君たち、現在地と日付の確認はもうできたから、空間測定だけして先に帰ってくれ」
 二人がまだ私から目を離せないまま、のろのろと三本のポールを地面に立て、ポールに装着された計測器らしい器具を操作して測量のような作業をしているのを、高志はじっと見守っていた。
 作業はすぐ終わり、高志は彼らから測定結果について報告を受けると、すぐ帰るように指示をした。
「あ、それから、ここで俺の母親を見たことは誰にも言わないでくれ」
 高志がそう言うと、彼らは頷いて畦道を登っていった。
 彼らの姿が見えなくなると、高志は私に向き直り、突然私を抱きしめた。私も高志を抱きしめた。やがて私を離し、高志が言った。
「母さんが無事でほんとうに嬉しいよ」
 私も二度と会えないと思っていた高志に会えて嬉しかったけど、疑問が山のようにある。どういうこと?と聞かずにはいられなかった。
「いつもの調査だよ」
 こともなげに高志は答えた。
「こっちでは、母さんが行ってしまってから三日経っている。母さんが行った翌日くらいまではまだ安定していたんだけど、それからは不安定になる一方で、一日の間に接続先が何回も変わるようになったから、昨日から四時間おきに調査をしているんだ」
「三日?私がこっちの世界に来てから、もう一ヶ月以上経つよ」
 私がそう言うと、高志は私を寂しいような嬉しいような、複雑な表情で見た。
「それは、母さんが俺たちの世界から切り離されて、この世界の住人になった、ということだと思う。最初からここに来たんじゃないよね?どういう経過でここに来たのか教えてよ」
 私は最初に一九八三年に着いたこと、時代も場所もわからない場所をいくつか振り回されて、最終的に二〇四〇年の三月に辿り着き、そこで「調整」を受けないまま今日に至ること、を高志に話した。
「最初に一九八三年というのは、母さんが行った翌朝に調査したときと同じだな。その夕方にも同じだった。こっちに来る度に接続先が違うようになったのはそれからだ」
 高志は端末を見ながら続けた。
「空間の歪みも、今測定したら四十秒角だよ。とんでもなく大きくなっているし、調査に来る度に繋がる場所も時代も毎回違うようになってきている。もういよいよ『お別れ』が近いと俺たちは考えているんだ。今朝から調査は一時間以内に終えて帰ること、と決めているし、調査自体も多分今日いっぱいで終了だと思う」
 首を振ってつけ加えた。
「これ以上はもう危険だ。でも、最後に母さんに会えるなんて奇跡だよ」
「もうやめときなよ。私と違ってあなたたちは、こっちに取り残されるわけにはいかないでしょ?」
「でも、すごいデータが集まってるから。俺、ジェイソン賞を取れるかもしれないよ」
 ジェイソン賞というのは、優れた科学者に贈られる賞で、こちらの世界ではノーベル賞が位置づけ的には近いような気がする。受賞すれば国中がお祝いムードになるし、地元ではお祭り騒ぎになったりもする。
「俺たちが仮定したパラメータでシミュレーションした結果と現実が一致した、ということは、つまり俺たちのパラメータが正しかった、という証明になるかもしれないんだよ。そうするとダークマターの質量とか、宇宙が浮いている高次元空間が実際には何次元なのかとか、そういうことが分かってくるんだ」
「それに、今の宇宙が『お別れ』する時のふるまいから、二つの宇宙の質量比は計算できるし、何よりすごいのは、超弦理論の余剰次元の数がわかるかもしれないんだ。これがどんなにすごいことか、母さんにわかる?大統一理論が完成するかもしれないんだよ」
 物理学者としての高志に輝ける未来が開ける可能性があることはわかった。それは今後永遠に別れることになってしまう私としても、誇らしく安心できることなので喜ばしいことだ。
 でも、今の私には物理学の講義を長々と受ける時間はないはずだ。私は高志の話の腰を思い切りへし折ることにした。
「高志、専門的なことを言われても私にはよくわからないよ。高志が興奮していることはわかるから、すごいことなんだろうな、と思うだけ。それより高志、いいことを教えてあげようか」
 高志が物理学講義を中断して、なに?と聞いた。
「ジェイソンてこっちの世界では、マスクで覆面してチェーンソーを振り回す殺人鬼の名前らしいよ」
 その時の高志の顔は面白かった。私は心の中で高志の写真を撮って、心の中の引き出しに大事に仕舞った。

「私がいなくなって、そっちでは騒ぎになってる?高志は私をこっちに来させた時の犯罪行為がバレてない?」
 私が気になっていることを聞くと、高志は笑って答えた。
「この俺が簡単にバレるようなことをするわけがないだろう。こっちは大丈夫だよ。母さんの方は、まだ三日だから騒ぎにはまだなってない。スケジュールの確認をしたいのに連絡が取れないってマネージャーさんが何回か電話してきたことと、早苗さんが取材のアポを取りたいのだけど、やっぱり連絡が取れないって電話してきたくらい」
 そうか。早苗さんには悪いことしちゃったな。
「高志。前は私がここに来たこと、誰にも言わないでって言ったけど、高志がもう本当にこっちの世界と『お別れ』したって確信したら、言っても良いよ。でも、最初は早苗さんに独占取材させてあげてね。取材の途中で私がトンズラしちゃったから、なんか彼女に悪くて」
「妙なところで義理堅いな」
 高志が笑う。
「あ、でも、早苗さん、昔は高志のことをちょっといいなって思ってたんだって。だから取材を機に浮気、なんてことしちゃダメだよ」
「わかってるよ。その時は家族がいるときに家にでも来てもらうよ。でも、それなら父さんのこともみんな話してしまっても良いの?」
「いいよ。もう私はいないんだもん。何をどう話しても良いわよ」
「わかった。でも、それは大スクープになるなあ。早苗さんの一世一代の仕事になるんじゃないかな?」
「本でも書いてもらうわよ」
 私は笑った。なんだか、もう戻れない、ということを軽く受け止めることができている気がする。
「それから」
 ついでにもうひとつ頼んでおくか。
「全部発表したら、重雄君を探し出して一発殴っておいてね」
「え?重雄?」
 高志は呆けたような顔をした。誰?って顔だ。
「あ、思い出した。ちょっと待てよ母さん。あんなガキの頃の話をまだ」
「とにかく、私からだと言って一発入れておいて」
 高志は困り果てたような情けない顔をしている。
「もう十五年以上前の話だし、第一あいつは俺がボコボコに」
 高志が言い終わらないうちに私が言葉を被せた。
「そう。あなたが重雄君をボコボコにしたおかげで、私も殴ってやりたかったのに頭を下げて回る羽目になったのよ」
「母さん、意外に執念深いな」
 高志が呆れて言う。