わたしは明日、明日のあなたとデートする
僕は、上山の「新しい生活を楽しみたければ身軽になるに限る」という言葉を思い出していた。
会社の方も、谷口と翔平の関係が改善されつつある今は、もう何も心配することはないように思う。
「仕事はこっちにいてもできるさ。今創っている映画にはそのまま関われるだろうし、他のアニメスタジオの仕事も取ってこれるだろうし」
愛美は右手で僕の左腕を掴んで身体を寄せてきた。
「それ、いいね」
「そしたらさ、一緒に暮らそうよ」
僕がそう言うと、愛美は僕の肩に頭を乗せてきた。
「うん。そうしたいな」
顔を上げて僕を見上げた。
「私ね、坂本に住んでみたいな。良いところなんだよ」
「うん、それもいいね」
愛美の顔を覗き込んで唇を合わせる。
唇が離れたとき、そのままの姿勢で僕の目を見ながら愛美が言った。
「でも、私は美由紀ちゃんの面接をパスしないと高寿とは暮らせないんだよね」
「うん。そういうことになってる」
美由紀との約束だからな。
近いうちに美由紀を京都に連れてくるか、それとも愛美を東京に連れて行くかして、愛美を美由紀に会わせよう、と思った。
「近いうちに美由紀に会わせるよ」
そう言いながら、もう一度唇を合わせた。
唇を離して、目を閉じたままの愛美が呟いた。
「私、美由紀ちゃんと仲良くなれるかなあ」
絶対二人は仲良くなれる、と思う。美由紀はエミの大ファンなんだし、エミは愛美そのものだから。早く会わせたいくらいだ。
でも、僕はちょっと悪戯っぽく言ってみる。
「うーん、どうかなあ?大丈夫だと思うけど、わからないなー」
すると愛美は目を開け、僕を見つめて満面の笑みを浮かべた。
円く光る福笑いの笑みだ。
「未来がわからないって、とても素敵だよね」
(完)
作品名:わたしは明日、明日のあなたとデートする 作家名:空跳ぶカエル