二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
誕生日おめでとう小説
誕生日おめでとう小説
novelistID. 53899
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

りーなとレスポール

INDEX|1ページ/9ページ|

次のページ
 
りーなとレスポール。

 ▼

 多田 李衣菜は、ミルクの紅茶で喉を潤した。
 下校していた友達と別れ雑多な街の通りを一人、セーラー服の李衣菜が歩く。
 ふと楽器店のショーケースが目に入った。その中の赤いギターと李衣菜の澄んだ目が逢う。
「Fがなぁ」
 立ち止まりもせずに素通り。いじくる左手の指先はぷにぷにでキレイだった。
(弦ってなんであんな堅いんだろ。もっとこれくらいだったらいいのに)
 ペットボトルを右手でモミモミしながら歩みを進めると短い横断歩道が現れた。
(白いとこから落ちたらロックじゃない)
 ペットボトルをカバンにしまい、大股で歩いて白線を踏んでいく。
 1本、2本、3本、4本目で車がウインカーを出して路地に侵入してきた。
 李衣菜は澄まし顔で普通に歩いて渡りきった。
(まあ、道から外れることもロックだよね)
 キザに鼻を鳴らし、まっすぐに帰路を辿り、角を曲がって、李衣菜はそれに目を奪われた。
「ん?」
 辺りには誰もいない住宅街の間の道、その道端に赤いギターが横たわっていた。
 近寄って見下ろす。ボディの塗装は剥がれ、傷だらけで欠けている所もあるボロボロのエレキギターだった。
「なにこれ、まだ使えそうじゃん。こんなトコロに置いてくなんて、ギターが可哀想じゃんか」
 李衣菜はムカムカしながらネックを握った。
「少女よ」
「え」
 周りを見回す。確かに男の声がしたはずだったが誰もいない。
「や、やめてよねぇ、もう」
「ここだ……少女の、目の前に、だ」
 首を下げていくと、そこにはギターがある。
「弾いてくれ」
「ひゃっ!?」
 李衣菜は飛び退く。その抑揚のない機械的な男の声は、ボロボロのエレキギターから出ていた。
「でっ、ででっ、で!!」
「頼む……待ってくれ、少女よ」
 全速力で逃げようとした李衣菜は足を止めた。それはギターからする声があまりにも苦しそうで、驚かすつもりなど毛頭もない、助けを求めるような声音だったからだ。
「ありがとう……少女よ……ワタシは、地球でいうところの、ギターではない。ギターは、本来、喋らないと、聞いている」
「え? あ、はあ、そうです、ね」
 自分のコトを自分で否定したギターに、李衣菜は呆気にとられて立ちすくんだ。
「すまない。説明している暇がない。今直ぐワタシを、激しくかき鳴らして弾いてくれ」
「ちょ、ちょと、何が、なんだか、え? 私が?! どうして?!」
「お願いだ、そうしないと、ワタシは、も、う……」
 それっきりしゃべらなくなってしまった。
「え、ちょ、ちょっと?」
 ペシペシとボディを叩いても反応がない。
(白昼夢ってやつ? ネコに化かされた?)
 立ち去ってもよかった。でも、あの苦しそうな助けを求める声。例えコレがドッキリや質の悪いイタズラだとしても、このまま放置して帰るのはなんとなく気分が悪かった。
 李衣菜は恐る恐るギターを持ち上げると、人生で何度目かのギターを弾く構えになった。
「ピックが、あ」
 足元に10円玉が落ちている。縁にギザギザの付いているギザ十だ。それを拾い上げると李衣菜はピックを持つようにした。
 肩にかかる重み、そしてギターのカッコイイフォルムを身に着けているこの状態。
 李衣菜はうれしさを滲みこませるように笑顔になった。
「やっぱりいいねぇ、ギターはッ!」
 右手を風車の羽のように大きく回して、かき鳴らした。
 ジャグワアアアン!
「イエーイ! ロックンロォーールッ!」
 まるでシールドをアンプに繋いでいるかのようなヒズミの効いたエレキな音がしたが、李衣菜は特に気にせず右手を力強く突き上げた。
 するとボディから淡い光がにじみだし、エレキギターを瞬く間に包み込んだ。
「お、おおおお!?」
 それは一瞬で、李衣菜の驚きと共に光のもやが晴れていく。汚れや傷がなくなって、エレキギターは新品のようにツヤツヤと光を反射した。
「やはりワタシの目に狂いはなかった。ありがとう少女よ。あと少しでワタシは息絶えていた」
「は、はあ。なんだかわかんないけど、よ、よかったね」
 李衣菜は服を直し髪を撫で付け、全然ビビってないしと平静を装った。
 エレキギターは心なしかハリが出た声で、クールになった李衣菜に己の正体を明かした。
「ワタシはロック星人。新しいロックを求めて銀河を旅するロック生命体だ」
「え、ええ?! そ、それって、宇宙人ってこと?!」
 飛び出た信じられない言葉に、李衣菜のクールは脆くも崩れ去った。
「地球人からしたらそうだろう。丁度月を横切ろうとしていたところ運悪くデブリに衝突してしまい不時着してしまったのだ。我々ロック星人はロックをエネルギーにして活動をする。運良く通りかかった少女がワタシのコトを弾いてくれたおかげでどうした少女よ」
 キョロキョロと周りを見回す李衣菜に、ロック星人と名乗ったエレキギターが尋ねた。
「いやぁ……やっぱりテレビのドッキリなんじゃないかって……幸子ちゃんが良くヤラれてるし」
「無理もない。それでは少女よ。ワタシをもう一度かき鳴らしてくれ」
「え? ま、まあ、いいけど」
 李衣菜は疑問を抱えながらも、普通にギターを弾いた。
 ペンっ。アンプに繋いでいないエレキギター相応の弦の音がした。
「もっとロックにだ。全身を使ってさっきみたいにかきならせ」
「な、なんでそんな上から何だよ、もう、わかったよ。やればいいんでしょ、やれば!」
 李衣菜はムスッとしていたが、自分の身体にピッタリと張り付くギターを見ると、自ずと笑みが滲んできた。
 ギターが地面と水平になるように沈み込ませて、高らかに右手をあげる。
 右手をギターとクロスさせるように起こし、6本の弦を一気に力強くかき鳴らした。
 ジャグワアアアアアアン!!
 歪みに歪んだエレキな音がギターから飛び出す。
 向かい側の家の石垣がドガンと爆発した。
「ひやぁあああ!?!?!」
 李衣菜は爆風で吹っ飛んで背中を強打した。石垣が「E」の形にえぐれている。
「え、ええ!? もしかして、まさか、コレ!?」
「少女が抑えた音を物体に焼き付けた。今のはギリギリ「E」だった」
「焼き付けたってレベルじゃないよ! ど、どどどどうしよう」
 李衣菜は涙目で尻餅を付いて狼狽える。この爆音だ。聴きつけた人が集まってきて騒ぎになるには、それほど時間はかからないだろう。
 そうなると取る手段は一つしかなかった。
「ごッ、ごめんなさぁ〜〜〜〜いッ!」
 その場から背を向けて李衣菜は全速力で一目散に逃げ出した。
「大丈夫だ。次は聴いたものの神経を麻痺させて二度と動けなくするようにしよう。もう一度お願いする」
「そんな怖い事できるわけないでしょぉお〜〜〜〜!!!」
 ロック星人を抱えていることも忘れて、李衣菜は泣きべそをかきながら恐ろしいスピードをだした。