あなたの優しさに包まれて 後編
後編です↓
結婚後も月に1度の恒例のランチ会の日、今回はゆゆかが忙しくもしかしたら行けないかもしれないということだったので、それならゆゆかの家の近くにしようと鶴谷が提案し、それなら少しは行けるかもとゆゆかも喜んでいた。
ゆゆかの家の近くのカフェに入ると、すでにゆゆかは来ていて、一瞬見間違いかと思う程に疲れた顔をし、珍しく化粧っ気もなかった。
「ゆゆか…?ちょっと、大丈夫?」
「そんなに忙しかったの?化粧してないゆゆかなんて始めて見たよ…」
亀吉と鶴谷が心配そうに顔を見ると、すずめは初めてゆゆかの顔色の悪さに気が付いた。
「ゆゆかちゃん…」
着いたばかりの3人はメニューも見ずに、本日のランチを頼むと、ゆゆかに視線を戻す。
「うん…ちょっとね、最近…色々あってさ…。忙しかったんだけど、気分転換しないと参っちゃいそうだったから…」
「何かあったの?」
すずめが聞くと、ゆゆかはコクリと頷き、実は3歳の娘が病気であることを語った。
「今、手術して入院してるの…。まだあと1ヶ月以上の入院で、術後熱を出してグッタリとしている娘のこと…見てるの結構キツくてさ…」
「どういう…病気なの?難しいの?」
「病名は、たぶん言っても知らないと思う。頭の病気でね。5万人に1人の確率でなるらしいわ。今回は2回目の手術なんだけどね、生後半年で1回目を受けたから」
ゆゆかからそんな話を聞いたこともなかったすずめは、驚愕の表情を浮かべた。
「5万人に1人の確率ってさ、そんな病気になるなんて思ってもみなかったから…。そりゃあ病気の子はたくさんいるけど、でもそれはうちじゃないって思ってた」
ゆゆかは辛い何かを吐き出すように言葉を続けた。
「手術の前にさ、何枚も何枚も同意書を書かされて、今回の手術は全身麻酔を使います。麻酔で、肺炎になることや、気管支痙攣になることがありますとか、術後合併症の危険性がありますとか。
本当に手術しなくちゃダメなのか、何度も何度も考えて手術を決断したんだけど、10時間に及ぶ大掛かりな手術でね」
ゆゆかが話を区切ると、ちょうどランチプレートが運ばれてきた。
しかし誰も口を付けようとはしない。
「うん…手術は成功、したんだよね…?」
「うん。でも、私たちのイメージって、手術終わったら、先生たちが出てきて、どうですか?うちの子どもは?って感じじゃない?
実際は、PHS渡されて何かあったら呼びますからって。
元々10時間掛かるって聞いてたのに、3時間くらいで鳴ってね。
もう、何かあったんじゃないかって思って心臓止まるかと思った。
でも、長い手術だと、間に説明してくれるみたいで、今ここまでやりましたよ、とかあと縫合して終わりですからとかね。何度も鳴ったわ」
「うん」
ゆゆかの話に全員相槌を打つことしか出来ない。
それほど、ゆゆかの顔は深刻で、可哀想にと同情することも出来なかった。
「無事終わってICUに入ったうちの子見た時、旦那も私も号泣で。
安心したってより、何本ものチューブに繋がれてる我が子を見ていられなくて、なんだけど。
モニターのピーピーって音が怖くて、見ていられなくて、ICUから逃げ出して…。
それでも、頑張っているのは子どもなんだからって、毎日病院に行くとね、泣かれちゃうのよ。
1回目の時は、まだ赤ちゃんだったから、入院してることもよく分かってなくて。私の顔見たら笑ってた。
3歳になるとね、もう分かってるの。家じゃないところに連れてこられて、ママは夜にはいなくなるって。
だから、ママお家に帰りたいよって、まだ夜じゃない?ママ帰らない?って泣きながら何度も聞くの。
そんなの見てたら私も泣きたくなっちゃって。
そうしたら、看護師さんがね、大丈夫ですよってお母さんも少し休んでくださいねって。
私が限界を感じて泣きそうになる度に助けてもらって…」
最後の方は嗚咽交じりに話すゆゆかの背中を鶴谷が撫でる。
「今日は大丈夫だったの?」
亀吉が聞くが、すずめはゆゆかの話に何を言っていいのかも分からずにただ黙り込む。
「たまに、旦那が休みの時は代わってもらってるの。毎日じゃ私も限界だからさ」
「私は、結婚もしてないし子どももいないけど…ゆゆかの辛そうなところ見てるだけで辛いよ…」
亀吉が涙ながらに言うと、それを見ていた鶴谷の目にもうっすら涙が浮かぶ。
ゆゆかは黙り込むすずめを見て、母親の顔からいつもの友人の顔に戻し、ため息をつく。
「私の話は終わり…あぁ〜スッキリした!悪かったわね…こんな暗い話しちゃって」
ゆゆかは気持ちを切り替えるように、すずめに話を振った。
「すずめちゃん、最近…なんか悩んでるでしょ?それもかなり深刻に…。みんな心配してる。でも、悩んでるのはあんただけじゃない。私だって…そうだし、みんなそれぞれ辛いことはあるのよ。だから、その世界で一番自分が不幸ですみたいな顔、いい加減止めなさいよ」
すずめはハッとして顔を上げた。
泣くまいと我慢していたものが一気に溢れ出すように、すずめの目から涙がこぼれた。
「う〜ゆゆかちゃんっ…ふぇ、ごめん…ごめん〜」
ゆゆかの方がずっと大変な思いをしていた。
なのに、そんな中でもすずめの心配までしてくれている。
自分のことばかり考えていて、心配してくれている友人たちのことを全く考えていなかった。
すずめが泣き出したのを筆頭に、鶴谷や亀吉まで泣き出したのを、諌めたのはゆゆかで。
「あ〜もう、全員泣くな!すずめは、だから溜めすぎないで吐き出しなさいって言ってるじゃない!私も言ったわよ。今度はあんたの番!」
「ごめ…ごめ…っ、ゆゆかちゃ…ひっく」
「落ち着いたら話しなさいよ?まあ、内容は見当つくけどね…。あんた分かりやすいし…私も通った道だから」
すずめは深呼吸をして何とか落ち着くと、すっかり氷が溶けたアイスティを口に含んだ。
そして、自分がもしかしたら妊娠しにくいのではないか、でも子どもがいるゆゆか達には分かってもらえないと思って言えなかったことを話した。
「この間、病院にも行ったんだけど…」
「検査結果は何でもなかった?」
「うん…」
「気持ち分かるわよ?」
話を聞いたゆゆかは私も同じだったと言い、鶴谷も頷いていた。
病院は行ってはいないが、ゆゆかも毎日基礎体温を測り、排卵日付近には排卵検査薬を使い、生理予定日に通常より早く検査が出来る妊娠検査薬を使い、陽性反応が出て、やっと、やっと妊娠したと思ったら、化学的流産をしていたという。
「化学的流産って?ゆゆかちゃん身体は大丈夫だったの?」
流産と聞くと、大変なもののような気がして、すずめは心配そうに聞くが、ゆゆかは大丈夫と首を振る。
「うん、早く妊娠検査薬なんて使わなければ、出血しても生理だと思うはずなのに、待てなくて早く検査しちゃって、流産したって分かっちゃうのよ…妊娠検査薬に陽性反応が出るからね」
別にどこかが痛くなるとか、そういうんじゃないからとゆゆかは言う。
そんなに頑張っても毎月生理がくると落ち込み。それの繰り返しだったと。
それでも子作り1年ほどで妊娠しているから、早い方だと思うと言った。
ゆゆかは大学在学中に結婚をした。
結婚後も月に1度の恒例のランチ会の日、今回はゆゆかが忙しくもしかしたら行けないかもしれないということだったので、それならゆゆかの家の近くにしようと鶴谷が提案し、それなら少しは行けるかもとゆゆかも喜んでいた。
ゆゆかの家の近くのカフェに入ると、すでにゆゆかは来ていて、一瞬見間違いかと思う程に疲れた顔をし、珍しく化粧っ気もなかった。
「ゆゆか…?ちょっと、大丈夫?」
「そんなに忙しかったの?化粧してないゆゆかなんて始めて見たよ…」
亀吉と鶴谷が心配そうに顔を見ると、すずめは初めてゆゆかの顔色の悪さに気が付いた。
「ゆゆかちゃん…」
着いたばかりの3人はメニューも見ずに、本日のランチを頼むと、ゆゆかに視線を戻す。
「うん…ちょっとね、最近…色々あってさ…。忙しかったんだけど、気分転換しないと参っちゃいそうだったから…」
「何かあったの?」
すずめが聞くと、ゆゆかはコクリと頷き、実は3歳の娘が病気であることを語った。
「今、手術して入院してるの…。まだあと1ヶ月以上の入院で、術後熱を出してグッタリとしている娘のこと…見てるの結構キツくてさ…」
「どういう…病気なの?難しいの?」
「病名は、たぶん言っても知らないと思う。頭の病気でね。5万人に1人の確率でなるらしいわ。今回は2回目の手術なんだけどね、生後半年で1回目を受けたから」
ゆゆかからそんな話を聞いたこともなかったすずめは、驚愕の表情を浮かべた。
「5万人に1人の確率ってさ、そんな病気になるなんて思ってもみなかったから…。そりゃあ病気の子はたくさんいるけど、でもそれはうちじゃないって思ってた」
ゆゆかは辛い何かを吐き出すように言葉を続けた。
「手術の前にさ、何枚も何枚も同意書を書かされて、今回の手術は全身麻酔を使います。麻酔で、肺炎になることや、気管支痙攣になることがありますとか、術後合併症の危険性がありますとか。
本当に手術しなくちゃダメなのか、何度も何度も考えて手術を決断したんだけど、10時間に及ぶ大掛かりな手術でね」
ゆゆかが話を区切ると、ちょうどランチプレートが運ばれてきた。
しかし誰も口を付けようとはしない。
「うん…手術は成功、したんだよね…?」
「うん。でも、私たちのイメージって、手術終わったら、先生たちが出てきて、どうですか?うちの子どもは?って感じじゃない?
実際は、PHS渡されて何かあったら呼びますからって。
元々10時間掛かるって聞いてたのに、3時間くらいで鳴ってね。
もう、何かあったんじゃないかって思って心臓止まるかと思った。
でも、長い手術だと、間に説明してくれるみたいで、今ここまでやりましたよ、とかあと縫合して終わりですからとかね。何度も鳴ったわ」
「うん」
ゆゆかの話に全員相槌を打つことしか出来ない。
それほど、ゆゆかの顔は深刻で、可哀想にと同情することも出来なかった。
「無事終わってICUに入ったうちの子見た時、旦那も私も号泣で。
安心したってより、何本ものチューブに繋がれてる我が子を見ていられなくて、なんだけど。
モニターのピーピーって音が怖くて、見ていられなくて、ICUから逃げ出して…。
それでも、頑張っているのは子どもなんだからって、毎日病院に行くとね、泣かれちゃうのよ。
1回目の時は、まだ赤ちゃんだったから、入院してることもよく分かってなくて。私の顔見たら笑ってた。
3歳になるとね、もう分かってるの。家じゃないところに連れてこられて、ママは夜にはいなくなるって。
だから、ママお家に帰りたいよって、まだ夜じゃない?ママ帰らない?って泣きながら何度も聞くの。
そんなの見てたら私も泣きたくなっちゃって。
そうしたら、看護師さんがね、大丈夫ですよってお母さんも少し休んでくださいねって。
私が限界を感じて泣きそうになる度に助けてもらって…」
最後の方は嗚咽交じりに話すゆゆかの背中を鶴谷が撫でる。
「今日は大丈夫だったの?」
亀吉が聞くが、すずめはゆゆかの話に何を言っていいのかも分からずにただ黙り込む。
「たまに、旦那が休みの時は代わってもらってるの。毎日じゃ私も限界だからさ」
「私は、結婚もしてないし子どももいないけど…ゆゆかの辛そうなところ見てるだけで辛いよ…」
亀吉が涙ながらに言うと、それを見ていた鶴谷の目にもうっすら涙が浮かぶ。
ゆゆかは黙り込むすずめを見て、母親の顔からいつもの友人の顔に戻し、ため息をつく。
「私の話は終わり…あぁ〜スッキリした!悪かったわね…こんな暗い話しちゃって」
ゆゆかは気持ちを切り替えるように、すずめに話を振った。
「すずめちゃん、最近…なんか悩んでるでしょ?それもかなり深刻に…。みんな心配してる。でも、悩んでるのはあんただけじゃない。私だって…そうだし、みんなそれぞれ辛いことはあるのよ。だから、その世界で一番自分が不幸ですみたいな顔、いい加減止めなさいよ」
すずめはハッとして顔を上げた。
泣くまいと我慢していたものが一気に溢れ出すように、すずめの目から涙がこぼれた。
「う〜ゆゆかちゃんっ…ふぇ、ごめん…ごめん〜」
ゆゆかの方がずっと大変な思いをしていた。
なのに、そんな中でもすずめの心配までしてくれている。
自分のことばかり考えていて、心配してくれている友人たちのことを全く考えていなかった。
すずめが泣き出したのを筆頭に、鶴谷や亀吉まで泣き出したのを、諌めたのはゆゆかで。
「あ〜もう、全員泣くな!すずめは、だから溜めすぎないで吐き出しなさいって言ってるじゃない!私も言ったわよ。今度はあんたの番!」
「ごめ…ごめ…っ、ゆゆかちゃ…ひっく」
「落ち着いたら話しなさいよ?まあ、内容は見当つくけどね…。あんた分かりやすいし…私も通った道だから」
すずめは深呼吸をして何とか落ち着くと、すっかり氷が溶けたアイスティを口に含んだ。
そして、自分がもしかしたら妊娠しにくいのではないか、でも子どもがいるゆゆか達には分かってもらえないと思って言えなかったことを話した。
「この間、病院にも行ったんだけど…」
「検査結果は何でもなかった?」
「うん…」
「気持ち分かるわよ?」
話を聞いたゆゆかは私も同じだったと言い、鶴谷も頷いていた。
病院は行ってはいないが、ゆゆかも毎日基礎体温を測り、排卵日付近には排卵検査薬を使い、生理予定日に通常より早く検査が出来る妊娠検査薬を使い、陽性反応が出て、やっと、やっと妊娠したと思ったら、化学的流産をしていたという。
「化学的流産って?ゆゆかちゃん身体は大丈夫だったの?」
流産と聞くと、大変なもののような気がして、すずめは心配そうに聞くが、ゆゆかは大丈夫と首を振る。
「うん、早く妊娠検査薬なんて使わなければ、出血しても生理だと思うはずなのに、待てなくて早く検査しちゃって、流産したって分かっちゃうのよ…妊娠検査薬に陽性反応が出るからね」
別にどこかが痛くなるとか、そういうんじゃないからとゆゆかは言う。
そんなに頑張っても毎月生理がくると落ち込み。それの繰り返しだったと。
それでも子作り1年ほどで妊娠しているから、早い方だと思うと言った。
ゆゆかは大学在学中に結婚をした。
作品名:あなたの優しさに包まれて 後編 作家名:オダワラアキ