兄さん
「軽いせんべいは食べてるけど、どうかな。結構アレルギーとか気にして離乳食作ってるみたいだし。母さんに確認してからあげてみる」
弁当屋に巻きずしが並んでいるのを見つけて顔を上げると同じ事を思ったらしい。目が合った。
「手巻き寿司は今度来た時に、ね」
「うん、妹が保育園に上がる前なら連休のたびにだって来れるよ」
「でも次に合うのは上田かな?」
「そうだ、健二さんが直に妹に会うの初めてじゃない?」
「時々OZで見るばっかりだもんね。楽しみだなあ」
ぶらぶら時間を潰してから改札に向かった。
途中でふと健二が足を留めた。大人っぽいデザインのショーウィンドウの前だった。
「健二さん?」
「あ、ごめん。そこにちょうど並んで映ったのが見えて……」
なるほど。黒を背景にしたガラスに荷物を背負った佳主馬と軽装の健二が映り込んでいる。
「佳主馬くん、ずいぶん背が伸びたなって思って」
去年はもっとあった差がぐっと縮まった。
「こっちにきて何日も過ごしておいて今更言うの?」
唇をとがらせながらも満更でもない様子で目を細める。
そんな佳主馬の背中を軽く押して歩みを促しながら、
「だって。こっちにきてから一番背筋が伸びてるからさ」
健二は大人びた穏やかさで笑った。