Angel Beats! ~君と~ 日向編
「俺が行かなかったのは、ユイが泳げないこともあった。あいつら皆多分、いや絶対俺に気遣ってここに残してくれたんだよ」
「先輩は、私が好きなんですか」
まだまだ言いたいことがあるのにユイに遮られてしまった。
「そうだ」
「す…して…か?」
「?」
「好きだって、証明、してくれますか?」
「え?」
ユイが俺の方へ向いた。
首だけでは辛いみたいで、筋肉の無い腕でケツを動かした。
「……」
ユイの大きな目に涙が溜まっていた。
俺の心が打たれた。
姿勢と涙目がとても可愛かった。
取り敢えずユイの真正面に向かい、姿勢を楽にさせよう。
「ユイ」
「何でしょう?」
「良いか、ユイのお母さんと皆はお前を嫌ってなんかいないし迷惑だなんて思っても無い。お前が大好きだからだ」
そっと、ユイの身体を抱きしめた。
普段だっこするのとは感覚が違い不思議な感じがする。すごいふわふわしてて綿アメみたいだ。しかも良い匂いがするし。
「…」
ユイも俺の脇から手を入れて包んでくれた。筋肉があまり無いせいで弱々しくて、それが気持ちが良かったりする。
しばらくはこうしていたいな。あきないっていうか、なんていうか、ずっとこうしていたくて前からそう望んでいるみたいな気持ちだった。
だが我慢してユイから離れる。うわ、ユイの温かみが残ってる……気持ちいい……。
「ちなみに俺は窓をパリーンって割ったときからお前が好きだ」
「…割った場所私の病室で良かったですね」
まだ野球をやってて練習してた頃、窓を割ったら怖いおじいさんが出てきてたもんだ。
素直に謝ったら許してくれた。ユイん時は助手さんに怒られたな、怒られたのは医院長だけど。給料少ないのに減らしてくれてどうしてくれるんだ、って別のことで医院長を締め上げてたな。
「私がもし、でぶっちょでブサイクだったらどうだったんです」
「謝って終わりだな。壮大に何も始まってなかっただろうな」
「ぶふっ」
笑顔を綻ばせてくれた。
ちょっとほっとした。
「お前が可愛くて良かったよ」
「誉められてるんだか、何だか分かんないですね」
「ユイだってさっきの言い種(ぐさ)自分が可愛いみたいに言ってたぞ?」
「容姿に自信位持たせて下さいよ」
うん。いつものユイに戻ってくれた。
ニコリと笑ってくれる。可愛いな。俺ってコイツのこういう所が好きなんだなー、って思う。
「それで、証明してくださいな」
「え、えーっと……」
好きって言ったのに足らないのか……。
脳ミソを久々にフル回転させる。
「出来ないんですね」
クスクスと俺を表面上だけで笑っている。
おれはかんがえる。
だがひねってもでてこない!
「くっー、うーん」
「ふふ。もう大丈夫ですから先輩」
「ダメダメ。俺がだいじょばない」
「えー?」
頭が悪いってこんなことを言うんだろうな。
もう一度あの夢を思い出してみる。
逢うことだけだっただろうか。もっと重要な約束をしていたはずだ。それを思い出すんだ。
初めの内は思い出してたのに思い出せない、何でスッカラカンになってるのか。
「………夢、夢…」
「うん?」
意味不明な事を言ったせいでユイが首をかしげていた。
考えていることが口に出てしまったみたいだ。直さないとな。
夢か。夢。
別のことを考えるか。
このままユイと付き合ったら俺はユイの面倒を見るんだよな。面倒を見るって何かあれだな、何か、とてもよさそうだ。ユイをだっこして車イスに乗っける時なんかとても良い香りがするし、やわしいし。思うとだっこする時って俺汗臭くなかったのかな。夏だし。
俺は臭くてユイは良い香り。
アンバランスだなー。
ずれたな。
ユイとこのまま上手く行ったら結婚でもするのかな。結婚は俺の両親どう思うのかな。
結婚かー。
結婚。
結婚。
「そうだ」
「?」
名残惜しいけどそっと離れ、ユイと改めて目線を合わせる。
「ユイ結婚しないか」
「………」
ぽかーんと当たらなくて外れてもなくて、ファールの線上にボールがギリギリセーフみたいになってる。
しかし俺はこの瞬間、後悔するとは思ってもみなかった。
「…、えーっと……?」
あわてふためくみたいな感じがする。可愛いなー。もっかい言おう。
「結婚しようぜ」
「……先輩」
「おう」
「そこは……キスとか、何とかするもんじゃないんですか?」
「……おう?」
なんてこったい。段階飛ばしてんじゃね?
誓いのキス飛ばしてるよ。神父さん居ないよ。
「えーっと、して、ほしいの?」
「先輩が証明するって言ったんじゃないんですか」
確かに言ったよ。言った。でもさ、恋愛映画みたいな展開がこの世に実在しただろうか、否、今、ここで、目の前で、起こってる!
「ユイは俺で良いの?」
「良いのって良いに決まってるじゃないですか」
「ファーストキスだぞ?」
「ファーストって、先輩。ファーストキスを考えていたんですか?」
「え、うん」
「そこまで考えてくれるなんて嬉しいです。けど私が望んでいたのはほっぺたです」
俺ってバカだわー。バカだわー。アホだわー。トチ狂ってるわー。
「でも、先輩なら良いですよ?」
……おう。
「あー、えー、大丈夫? お前の始めて俺だよ?」
「良いんです。こんな事言えるのは先輩だけなんですから。それとも先輩は私が嫌いなんですか? 証明してくれるんじゃないんですか?」
「……やるけど、やりたいけど、えー、良いの?」
「男だったら腹くくってしてください。私は先輩が好きなんです。窓を割った時から、一目見たら来たんです。大好きなんです」
女の子からこう言われるのって、何か恥ずかしーっ!
俺にも甲子園の夏がやってきたか! チョコレートを貰えるより、何かこう、モヤモヤしてるけど、わかんねえや、何言ってんだろう俺。
「そこまで言うか…」
「どうするんです? するしない、どっちです」
「………わあった」
ユイの両肩に手を置く。っつっても掴む方が正しいか。やっぱし柔らかい。それがくすぐったかったらしく肩を少しだけ跳ねさせた。
「これが俺の本気だ…」
ユイが目を瞑った。
睫毛なげえんだな…。
やばい、心臓がおかしい。普通にしててもバックンバックン聞こえる、こんなん試合以来だぞ………。
見詰めていたいけど時間があれだな、待たせたらいけないしな、うん、やろう。やったろう。
目って閉じた方が良いよな、ドラマでもそうしてるし。
夕日に病院の中庭、誰も居ない、絶好のチャンス、今のこんな状況ってドラマだよな。
よし、覚悟を決めっか。漢を見せろ日向秀樹!
まずは目を閉じる。
そして、ゆっくりとユイの唇に近付く。
「あー、あっついあっつい。堪ったもんじゃないわね」
ユイの顔から即座に離れ、声がする方へギギギと古くなった人形が首を回すように向く。
俺が一番良く知っている声。
わざと大声で気だるくしている者。
ゆりっぺだ。
「あわわばばば!! お前らどうしてここに居んだよ!?」
ゆりっぺの他にも音無居た。更に居る。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 日向編 作家名:幻影