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金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

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--- 9 提督と金剛




 その日の金剛は出撃はないがいつ緊急の任務が発生してもいいように、金剛型の制服である巫女服を着続けていた。(艤装の性能伝達をサポートするチップが随所に埋め込まれているため、普通の巫女装束より若干重みがある)
 が、町へこのまま繰り出すのは正直言って恥ずかしい。事情を知らない人が見れば単なるコスプレだ。更衣室に戻り簡単に脱げる上だけ脱ぎ紺のジャージを着て、提督が待つ本館の玄関口へ向かった。


 そのあまりにおしゃれをしていない格好で現れた金剛に、提督は困ったすえに一言。
「ええと・・・実用的でいいね。」


 カチンとはこないが、金剛は少しだけ心の奥底でシュンとした。その様子を敏感に読み取ったのか、提督は謝った。
「あまり気の利いたこと言えなくてすみません。でももう一言言わせてもらうと、制服のままでもよかったんじゃないかな?」


「・・・恥ずかしいデス・・・」
 消えるような声で金剛は言った。
 提督は納得いった様子でそれ以上突っ込まなかった。


 見た目に反して、提督は饒舌だった。しかし一生懸命話題を出している様子が伺えた。が、金剛も人に対してそれほど気の利いた返しは苦手なため、相槌を打つことしかできない。
 提督が金剛を連れてきたのは、全国チェーン店の飲み屋だった。


「飲み屋のお昼ご飯はさ、定食としてバランス取れてるし価格も抑え目でいいんだよ。金剛も誰かと一緒にお昼行くときは覚えておくといいぞ〜」と提督。


 お昼時のピークを外していたため、店内は人が少なかった。店員に案内されて二人が入ったのは個室だ。
「個室は楽でいいね。金剛も崩して楽にしようよ。」
「ハイ。」


 お昼のメニューを注文して待つ間、提督がまず口を開いた。
「最近の調子はどうかな?うまくやれてますか?」
 当たり障りのない質問をしてくる提督に、金剛は返した。
「ハイ。・・・ハイ。」
 思っていた本当の事を切り出す勇気がなく、金剛は覇気のない返事をするだけ。そんな金剛に、提督は質問を変えてまた聞いてきた。


「うちの鎮守府のやり方、どうかな?できてる?」
 金剛はこの鎮守府に来て悩んでいた事をズバリ聞かれた。


「・・・イイエ。できません。」
「難しいだろ、艤装の本当の力って。機械が人の心や精神を理解できるのかって疑いたくなるでしょ。」


「提督、本当にその機能はinstallされているんデスか?私は信じることができません。」
 提督は、以前高雄たちのいる場で話した艤装の性能変化を経験した比叡たちのことについて話した。(食事が来たので途中箸を進めながら)


「・・・というわけなんだ。だからうちにいる艦娘はみな、それをできる可能性がある。あとはその、繊細なまでに精神の変動を検知する艤装、それを扱うあなたたち艦娘本人の気持ち次第なんだ。」


 提督はそのあと謝るように続けた。
「うちのことをよく知らないのに、歴戦の職業艦娘だからといってうちのやり方もすんなりできるだろうと勝手に思い込んで放っておいて、すまなかったと思っている。教育の秘書艦任せにしないでトップである俺がもっと親身になってあなたに教えてあげるべきだったのにな。」
「Oh, 提督。あなたの気持ちありがとう。でも私はあと1ヶ月だけの所属。今更できるようになても意味ないデス。」
 すでに諦めつつある金剛。そんな金剛を見て提督は励ました。


「あと1ヶ月だからとか言わずに、あなたには艤装の本当の力を扱えるようになってほしいんだ。今後他の鎮守府でもこの仕組が公開されて使えるようになるかもしれない。その時あなたには、心身ともに誰からも頼れる存在になって活躍してほしいんだ。そのために、うちの鎮守府を踏み台にしてくれてかまわない。」


 金剛は考え込んだ。なぜこの提督はたった3ヶ月しかいない自分をここまで思ってくれるのだろうか。職業艦娘であり良い戦果を残してこられたと自負しているが、それはあくまで艦娘として仕事に何も思いを含めずにやってこられたからこそ。自分の持つ恐怖の観念をやり過ごして来られたからこそ。
 しかしこの鎮守府に来てうまく行かなくなった。そのすべては、心や精神を検知するという艤装の隠された機能と、それを何とかして活用しようとするこの鎮守府とそれを推し進めるこの提督のせいだ。
 せっかく隠せてきた自分の持つ恐怖をえぐり出される思いを毎日どこかで見せつけられるのだ。
正直居づらいと感じることさえある。そんな考えを見透かされたのか、提督が言葉を続けた。


「勝手ながら、あなたに関することを教育秘書艦と一緒に話し合って対策を練っていた。どうすれば金剛、あなたが俺らに心を開いてくれるかって。」


 金剛は何か言おうとしたが、それを提督に止められた。
「最後まで聞いてくれ。さっきも言ったが、この2ヶ月放っておいてすまなかった。あなたは十分強いから、通常の訓練はもはや不要だと思う。あとはあなたのトラウマをどうにかすれば、艤装をもっとうまく扱えて戦力としてパワーアップできるようになるんだ。」


 そこまで金剛は聞いてやっと反論した。
横「やっぱりデスか。艤装!艤装!あなたも私を単なる戦う人としてしか見ていなかったのでしょ!私をネタにして艤装の実験台としか・・・」
 金剛は早口の英語でまくしたてる。


「聞いてくれ!艤装のことだけじゃないんだ。あなたのような・・・美しい女性が暗く過ごしているのが見ていられないんだ。きっとあなたは元々は明るくて元気な人なのだと想像している。今のように自分で自分の未来を狭めるなんてしてほしくないんだ。艤装は、元のあなたを取り戻すきっかけになれればと思っただけ。俺自身の気持ちで、あなたの助けになりたいんだ。あなたを大切に思いたいんだ!」


 提督の言葉には熱がこもっているのが感じられた。いきなり告白めいた言葉を聞かされて、金剛は頭が真っ白になり慌てふためき、まともに提督の顔を見ることができなくなった。そんな金剛をよそに提督は続ける。ちなみに提督も少し顔が赤かったのをちらっと金剛は見えた。


「よそでどういう運用されていたか知らないけどさ、俺が統括するあの鎮守府では、明確に部下と思う艦娘なんていない。全員仲間さ。志を同じくする、同志。困っている仲間がいたらみんなでどうにかしてあげたいと思うわけさ。もちろんよくあるテレビドラマやアニメのように全員が全員聖人君子だったり物分かり良いわけないから、悩んでいる人に気づかないかもしれない。俺だって鎮守府を出たらただの会社員さ。限界があるからみんなで手分けするんだ。」


 少しの間を開けてさらに続ける。
「それにもし大本営から艤装のあの仕組みについて聞かなかったとしても、うちに配備される艤装が他の鎮守府のものと同じだったとしても、俺は自分が統括する鎮守府は今のような運用にするつもりだったよ。化け物と戦っているんだ。せめて鎮守府の中では和気あいあいと心や精神を休めてもらいたいからね。」