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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 23

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第80章 聖騎士、ヒース


 長い銀髪を持ち、甲冑に身を包んだ青年が、大地に伏していた。
 全ては終わった。戦いに敗れた彼の命は、最早風前の灯であった。
 青年の目に映る空は、未だデュラハンの瘴気に満たされた暗いものである。
 青年が大切な人と、永遠の別れをしたのも、このような漆黒の空が広がる日であった。
「……マリアンヌ」
 消え行く命の中で、青年の脳裏に走馬灯が駆け巡るのだった。
    ※※※
 人の住む世界、ウェイアードから遠く、遠く離れ、決して人にはたどり着けぬ世界があった。
 神々、神子、そしてウェイアードでの寿命を過ぎ、死した者が、次に転生するまで平和に過ごす世界。
 天界。この世界が、ウェイアードに平行するように存在していた。
 古代文明の都市、レムリアと違い、時の流れはウェイアードと同一である。しかし、天界に住まう者は皆、例外なく千年を超える年月を過ごすことができた。
ウェイアードへと新たなる命として、再び転生するその日まで。
 神々は、天界にて産まれ、天界にて没する。そして、神々の手によって生み出されたものが、神子と呼ばれる、神々の守護を担う存在である。
 ウェイアードにて天寿をまっとうし、再びウェイアードに下り立つまで、長い時を天界で過ごす元人間、彼らは天者と呼ばれていた。
 天界は、神々、神子、天者という、種族こそ全く違うが、神々の統治する政のもと、天界に住まうものは皆平和に、そして幸せに暮らしていた。
 しかし、天界といえども、無法を行う者はいた。
 邪教信仰、大虐殺、暴政を働いた大罪人は無に帰し、二度と転生は叶わなくなるのだが、多少の悪行を行った程度の者は、天界へと来ることができる理があった。
 そのため、生前に無法をしていた者が、この天界でも、その性が変わることなく、無法を犯すのである。しかしその代わり、天界でも軽い悪さをする者は、普通の天者と比べ、転生まで数千年更に時間がかかってしまう。
 神々は、そのように時間をかけることにより、上手く世界を統治していた。
 天界の統治を取り仕切るのは、数多くの神々の仕事であるが、直接的に何かを執行する事はない。
 そのため神々に代わって、統治のために具体的な動きをする存在があった。
 神子のみで組織された聖騎士団、ガーディアン・ナイツ。これが天界の平穏を守る集団である。
 彼らはまた、天界における精鋭部隊でもあり、天界に危機が迫ったとき、神々と天界を守る役目も担っていた。
 しかし天界では、ウェイアードのように、多少の無法者はいるものの、天界そのものをどうにかしようなどという考えを起こすものなどいない。
 まして、神々に害をなそうと考える者は、現れようがない。
 それほどまでに神々の力は偉大であり、悪行を行う者も、ウェイアードに比べれば少ないのだ。
 天界の中心部に、神々が住まう宮殿があった。
 その宮殿の下には、神子や天者が集まり、活気溢れる城下町のようなものが築かれていた。
 天界にも貨幣の概念はあり、生前商人だった天者が、そのまま天界でも商いを続け、長い月日が経つにつれ、天者が集まり、人間の世界のような一つの社会が作られたのだった。
 こうした人間界のような社会が築かれれば、必然的に非道に走る者が現れる。そうした者を取り締まるためにも、神々の直轄で、精鋭部隊は日々修行を怠ることなく、互いに己を鍛え合っていた。
 今もまた、宮殿の中庭にて、たくさんの騎士が修練に明け暮れていた。
「えいっ! はあっ!」
 たくさんの騎士達が、動きと声を合わせ、剣の素振りを行っていた。
「小手先で振るな、全身を使え! 剣と己を一体化させよ!」
 ガーディアン・ナイツの中でも腕利きの剣士が、教官として新人達を鍛えていた。
「せいっ! やあっ!」
 剣の鍛練に打ち込む団体の隣で、槍の鍛練が行われていた。
「ただ突くのではない。右手をふりこにしろ! そして左手で絞りを利かせろ! そうすれば、己が持つ力以上の力で突ける!」
 槍術を教える教官は、自らの言った事をこうだと実践し、分かりやすく指導する。
 新人騎士達が鍛練を行う前で、二名の騎士が立ち会いを行っていた。
 一方は、一目でこの騎士団の中の重鎮であると分かるほど、屈強な出で立ちをしている。
 色黒で目付き鋭く、くせのある黒髪を後ろで束ねている。
 そんな屈強な騎士に対する者は、まさに正反対であった。
 相対する強面の騎士と違い、少し色白く、優男風の顔立ちであり、艶やかな銀の髪を、結わえることなく流している。鮮やかな緑色の瞳は、まさにエメラルドの宝石のようであった。
 この二人は、今年、それぞれガーディアン・ナイツの団長と副長を就任した、騎士団の中でも最強格の剣の使い手であった。
 騎士団長を勤めるのは、強面で色黒の騎士であり、名をユピターと言った。
 対して、副長を勤める優男は、ヒースという名である。
 ユピターは、両手剣を構え、ヒースは片手剣を左手に持っていた。
 二人は互いに目配せし、それを試合の合図とした。
 試合が始まると、ユピター、ヒースともに瞬間的な動きで間合いを詰める。先に仕掛けたのは、ヒースの方である。
 ユピターは上半身のみを傾けて攻撃をかわし、剣を右へ直線的に振った。しかし、ユピターの攻撃は空気を切るだけだった。
 ヒースは体勢を低くし、攻撃を避けていた。そしてすぐに、立ち上がりながら切っ先を突き出した。
 対するユピターは、突きを剣で払い、ヒースに隙を作った。突きを払われ、背を向けるヒースに、ユピターも突きで反撃する。
 しかし、ヒースは払われた勢いそのままに回転し、ユピターの側面に入り込んだ。
 ヒースは側面に入り、ユピターと同じ方向を向くと、右足をユピターの後ろに置き、ユピターの上半身を軽く押した。バランスを崩されたユピターは、意図も簡単に倒れてしまう。
「ぐっ!」
 ユピターは、急いで起き上がろうとするが、それはヒースの剣に阻まれる。
「……俺の勝ちだな」
 ヒースは、左手の剣をユピターの首に突き付け、微笑みながら言い放った。
 ユピターは苦い顔をするが、すぐに降参の意を示す。
「参った。私の負けだ」
 ヒースは手を差し出した。
 ユピターは、苦笑しながら手を握った。
 これでもう、何度ヒースに負けたことか。勝ったのは遥か昔の事のように感じる。
 どちらが団長か分かったものではない。ユピターはそのような事を考えながら立ち上がるのだった。
 ヒースは、騎士団の中で紛れもなく最強の男であった。ガーディアン・ナイツが組織されてからの長い歴史をたどっても、彼ほどの使い手はいなかった。
 団内では、最強の剣の腕前と、左利きに因み、左剣聖ヒース、と呼ばれていた。他にも、最強の副長、超・副団長などという呼び声も多い。
 ヒースとユピターは、一時休憩として、剣を置き、芝の上に腰を下ろしていた。
「相変わらず強いな、ヒース。本当に、何があろうと絶対にお前だけは敵に回したくないな」
 ユピターは、団長である自分を差し置いて、最強と呼ばれるヒースを妬むことなく、素直に実力を認め、賞賛していた。
「俺には勿体ない言葉だ。カタストロフ隊長さん」
「ふっ、その名で呼ぶのは止せ」