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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 23

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 今の騎士団が結成された最初期、初代の団長は、戦いとなれば情け容赦のない者だった。
 また、訓練においても、なかなか上達しない騎士を見つければ、容赦なく叩きのめすような指導を行っていた。
 まさに破壊をもたらす彼を、騎士達は天界の悪魔などと呼び、いつしかカタストロフという呼び名が流行っていった。
 今でも、騎士団長に就任する者は、カタストロフの呼び名も襲名させられるようになっていた。
「私には、そんな悪魔のような教官になることはできんよ。まして、副長のお前にも勝てんようでは、とうていな……」
 ユピターは、未だに団長となった自分が信じられなかった。
「剣の腕は、悔しいがヒース、お前の方が遥かに上だ。お前こそ団長に相応しいと思うのだがな」
 事実、先代の副長は、ヒースを団長にと薦めていた。この話が出たとき、ユピターもそれに賛成した。しかし、当のヒースは団長になることを拒み続けた。
 かといって、仕方なしにユピターが選ばれたのかと言うと、実はそうではない。
 ユピターを団長に、ヒースを副長にと意見を出したのは、先代の団長であった。
「全く、あの時の団長は何を考えていたのだろうな。どう考えてもヒースの方が、私より上手なのにな」
「ユピター」
 ふと、ヒースが口を開いた。
「剣だけじゃ、団長はつとまらない。お前には、俺に無いものがある。それが団長たる器だ」
 ヒースは、自分には長になり得る器がない、という理由で団長就任を断り続けていた。
「よく考えろ。この騎士団で、お前を慕わない者はいないぞ。皆お前を団長と心から認め、ついてきている。俺には難しいことだ。例え力で従えたとしても、心が伴わなければ、真の意味での従属ではない。俺はそう考えるぞ」
「ヒース……」
「それに俺は、本当は役職や肩書きなどどうでもいいのだ。俺がこうして騎士をやっているのは、神様、いや天界そのものを守りたい。この思いだけだ」
 騎士団副長、左剣聖、最強騎士。ヒースには様々な呼称があったが、彼にとってそれらは重要ではなかった。
 守護するべき神々は当然の事、同じ騎士の仲間、天者達、天界に住まう存在全てを守っていく。これこそがヒースの存在する意義であった。
 そのため、役職に固執せず、騎士団の副長に甘んじていた。
 先代の団長は、そのようなヒースの考え方を汲み、彼をあえて団長にしなかったのだった。
「さて、そろそろ練習に戻ろう。体が冷えてしまったぞ」
 ヒースは剣を手に立ち上がる。
「もう二、三戦、よろしく頼むぞ。団長殿?」
 ユピターは、苦笑を浮かべながら腰を上げた。
「……全く、最強の剣士とまだ戦わねばならんとは。これでは体がもたんな」
「ふっ、手加減はいらんぞ?」
「ははっ! どの口が言う!?」
 二人は笑い合いながら、再び試合を行うのだった。
 稽古の時間が終わり、騎士達はぞろぞろと、宮殿を出て町へと繰り出す。
 宮殿からは騎士達の食事は提供されない。そのため、食事は町の酒場でとることになっていた。
 稽古に疲れた騎士達は、酒場にて精の付く食事をとり、酒をくらって鋭気を養っていた。
 ヒースもその内の一人であった。
 いつものように、仲間と共に酒場へと向かう道すがら、ヒースは異変を発見した。
 女が一人、がらの悪い男三人に詰め寄られているのを見つけたのだ。
「ヒース副長、どうしたのですか?」
 突然立ち止まったヒースに、騎士団員は訊ねる。
「ああ、すまん。ちょっと先に行っててもらえるか? 用事を思い出した」
「副長!?」
 ヒースは一言告げ、いさかいが起こっている現場に近付いた。
 ヒースは物陰に身を隠し、様子を探る。
「おい、嬢ちゃんよ。お前がぶつかったせいで仲間の腕が折れちまったじゃねえかよ」
 ボサボサ髪の男が、女に因縁をつけていた。側には、その男の取り巻きだと思われる男が二人おり、片方は腕を抑え、いかにも嘘丸出しの演技で痛がっている。それをもう片方が同じく、まるで嘘の演技で介抱していた。
「ああー、いてーなー。こりゃ治るのに百年はかかるわー」
「おい、大丈夫か? うわ、こりゃひでぇ……。可哀想に、治っても更に百年は腕が使えねえんじゃねえか? おお、可哀想に……!」
 女は無言で男達を睨んでいた。
「こりゃ、もちろん治療費払ってもらえるよな? こっちゃ、大事なお友達の大事な腕を怪我させられてんだからな」
「いくら……」
 女が口を開いた。
「ああ?」
「いくら欲しいのですか?」
「そーだなぁ、これくらい、いや、もっとか?」
 ボサボサ髪の男は、指を三つ立てたかと思うと、五つ全て立てた。
「そんなの、払えるわけが……」
「あー、なんかオレ、この女をメチャクチャにすれば治る気がしてきたわー」
 ふと、痛がる演技をしていた男が言い出した。
「そうだなぁ、金払えねえらしいし。でもオレらへの慰謝料は欲しいし、体で払ってもらってもいいよなあ」
 男達はいやらしく笑い合った。
「かはは……! そーゆーわけだ、嬢ちゃん。オレらと一緒に来てもらおうか?」
 男は女の腕を取った。しかし、すぐに女に振り払われる。
「触らないで!」
「ああ!? なめんじゃねえぞこのアマぁ! こうなりゃ仕方ねえ、ちっとボコボコにしてからまわして……」
 男はパキパキと指をならし、女に向かって拳を振るった。
 しかし、その拳は女に届くことなく、掴み取られた。
「そこまでだ、無法者ども!」
 ヒースが間に入り、男の拳を止めていた。
「ああ、なんだこの白髪野郎?」
 男は眉間にしわを寄せ、ヒースを睨む。
 ヒースは掴んでいた拳を離した。
「か弱い女性によって集るとは。転生までの時が更に延びるぞ?」
 ヒースはニヤリと笑い、男達を挑発する。すると男達は、皆で顔を合わせ、ケタケタと笑い始めた。
「ぎゃはははは……! こいつ、いっちょまえに正義の味方気取ってやがんぜ!」
「ひい、ひい……、腹痛ぇ! まさかこんな馬鹿な奴マジでいやがるなんて! ぎゃーははは!」
 男達は、ヒースを馬鹿にして虚勢をはっていた。
「おい、兄ちゃんよ。オレらはこの女にひでえ目に遭わされたんだ。その責任をとらせようとしてるだけだぜ? どこに悪い事をしている証拠がある?」
 ヒースは一切挑発には乗らない。逆に虚勢を張る男達を嘲笑して見せる。
「ふっ、哀れな奴らよ……」
 ヒースの一言が、男の逆鱗に触れたようだった。
「んだテメェ、このまま尻尾巻いて逃げ出せば、見逃してやろうかと思ったものを……!」
 取り巻きの男が拳を握る。
「ムカつくからテメェからやってやんよ!」
 男はヒースに向けて拳を振るった。
「ふん」
 ヒースは右手で迫り来る相手の拳を取り、相手の横に入りながら左手でも握り、腕を最大まで伸ばさせ肘を極めた。
「ぐおお! いててて!」
 関節をしっかりと極められ、男は痛みに叫ぶしかなかった。
 ヒースはすぐに腕を放してやった。男は関節を極められた体勢のまま、地面に崩れる。
「これ以上攻撃するなら、次は折るぞ」
 ヒースは静かに言い放つ。
 ヒースに一瞬怯むが、もう一人の男は懐からナイフを取り出した。
「ぶち殺してやるよ……!」