仮面ライダーGLAY 第一話コード・グレイ
「はぁ・・・はぁ・・・」
流血した男が夜の病院内で壁にもたれるように歩く。男の歩いた床と壁にはベ
ットリとした血痕が残っている。
「守らなくちゃ・・・みんなを・・・、まだ・・・死ねない・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・ここか・・・」
病棟の一室へ体をずるりと入れ込みベッドの方に目をやる。
そして最後の力を振り絞って歩いてゆく。
「なんてことだ・・・・・・そう・・・」
「なら・・・君に・・頼むよ・・・。君の成長を・・・」
そう言うと男は力尽きて静かに目を閉じた・・・・・・・そして・・・
＜第一話 コード・グレイ＞
「・・・・続いてのニュースです。東京都を中心に発生している連続的行方不
明事件です。昨日未明にも男女合わせて8人の捜索願が出されています。これ
で関連事件とされる失踪者は役40人となります。しかし、警視庁の捜査本部で
は依然手がかりがなく、第一の行方不明者とされる北川風士さんら数名を昨日
公開捜査に切り替えたところでした。当番組では先週１９区で行方不明となっ
たとされる、田中亜衣さんのご家族にお話しを伺う予定です。準備が整い次第
中継をつなげます。そして本日は元警視庁捜査一課の速水隼人（はやみずはや
と）さんに来て頂いております。速水さん、よろしくお願いします。」
「よろしく・・・。」
「今回の連続失踪事件ですが東京では特に19区に多いという情報ですが？」
「そうですね、19区は山もたくさんあるので、例えば犯罪集団が隠れるには良
いところなのかもしれませんね・・・・・・」
ランチタイムの喧騒が落ち着いた平日の昼下がりの喫茶店。先週からの不審な
ニュースが読まれる。
東京のとある一角にあるステーキ喫茶「キャピトラ・ザ・キッド。」
昼は喫茶店で夜は素材の味が売りのステーキを振る舞うこの店は、口コミから
人気を博し、週末の夜は予約で一杯になることもある。
「19区ったらお隣じゃない・・・怖いわねぇ光太郎さん・・・」
女の名前は相原ひとみ（あいはらひとみ）。旧姓を佐原といい、光太郎の姪にあ
たる。この春に一人娘が小学生に上がったのを機に、幼少期の居候でもあった
光太郎の店でパートをしている。
少しだけ怪訝な顔をしたが光太郎は手を食器洗いに戻した。
「僕はこれから帰ってくる小さな怪人がまた店の中でドッジボールを始める方
が怖いよ。」
南光太郎（みなみこうたろう）この落ち着いた雰囲気の中に少年のような笑顔
を見せる紳士は、約30年前に世界征服を企んだ秘密結社ゴルゴムと、地球人抹
殺による移民を企んだ異次元世界クライシス帝国とを戦い抜いた英雄、仮面ラ
イダーBlackRXその人である。
クライシスを退け先輩ライダーと共に15年の旅に出た後日本に帰国し、実業家
となったかつての大学の先輩から喫茶店を任されており、それ以来このステー
キ喫茶のマスターをしているのであった。
「あはは、それ言えてるわねっ。あら、噂をすればよ光太郎さん！」
ひとみも笑いながらテーブルクロスを交換し調味料を足している。
「ただいまぁ！！光太郎！ジュース！」
「こら！明日香！光太郎さんでしょ！全くっ！」
ケラケラと明るく笑いながら店に駆け込んで来たのは、ひとみの娘である 相
原明日香（あいはらあすか）。小学一年生のわりにはなかなかマセており軽口が
へらない。光太郎へのイタズラも好きで、しばしば「やらかす」のである。
「お邪魔します・・・。」
「あら、はるかちゃんも一緒だったのね。いらっしゃい。オレンジジュースで
いいかしら？」
続いてやや控えめに入店してきたのは、明日香の幼稚園からの親友である 天
使はるか（あまつか はるか）である。はるかは二年前に不慮の事故で母親を
亡くしている。父親は町はずれの小さな工場の社長兼職人であり帰りが遅いた
め、放課後はほとんど明日香と共にキャピトラへ溜まり、パート上がりのひと
みと共に夕方からは相原宅へお邪魔するのが定番である。
「おっ、お姫様が揃ってご来店だ！こりゃあオレンジジュースだけじゃあ失礼
かな？ホットケーキもお付けしなきゃな！」
執事の様に畏まったフリをして、既に用意していたホットケーキミックスを冷
蔵庫からとりだした。
「駄目よ光太郎！太っちゃうわ！」
「あら？いらないの？小学生になってますますマセちゃって。」
「いらないとは言ってないわ。太っちゃうからあんまり大きくしないでね！
あ！でも生クリームはつけてよね！」
「んまぁー。」
ひとみの呆れた顔を見て、はるかや光太郎もクスクスと笑みがこぼれる。
こういったやり取りもまたいつものお決まりのパターンであり、光太郎にとっ
て何よりも平和を実感できる一時でもある。
フライパンに油を敷いて伸ばしつつテレビに目をやるとコメンテイターの元刑
事があれこれと喋った後であった。
「・・・さて速水さんのこういったご意見も参考に更に真相を追いたい所です
が、先ほどの田中さんのご家族と中継がつながった模様です。レポーターの岸
本さーん？」
「はい、岸本です田中亜衣さんのお母様は当時電話でご本人と話しをしていた
とのことです。ではお母様、その時の様子をお聞かせください。」
「はい・・・、残業で遅くなったのでご飯はどうするとか迎えに行くかとかそ
んな話をしていた所でした・・・でも急に亜衣がヒィッ！って何か見たような
んです。その後バケモノ！って・・・・どうしたのって聞いても反応なくて・・・
ガっ！て音がして切れてしまいました・・・。もう心配で夜も眠れなくて・・・
うぅ・・。」
テレビに映る行方不明者の母親にはモザイクが入っているが、酷い心労のよう
で明らかに顔色が悪い。光太郎の顔が険しくなる・・・
「田中亜衣さんの携帯電話は粉々になった状態で翌日発見されています・・・
しかしバケモノは・・・。え~、娘さんはストーカーか変質者を何かに・・・あ
あ！お母様大丈夫ですか？ちょっとお母様の体長が優れないようですので一旦
スタジオにお返ししまーす！」
中継途中で母親は倒れてしまった。
（まさか・・・・・ゴルゴムの仕業？いや、壊滅したはずだが・・・）
かつて人知れず異形の者と戦ってきた光太郎には「バケモノ」に心当たりがあ
った・・・
「・・・光太郎さん・・・もしかしてまた・・・・あっ！あらやだ！光太郎さ
ん！すんごい油跳ねてる！！」
テレビの熱中するあまり、フライパンに油を敷いた後ホットケーキミックス投
入し忘れた失態である。
「光太郎〜、何やってんのよぉ〜！！」
「あっっっちい〜！あはは・・・・」
（しかし気になるな・・・今度の休みツーリングがてらに調べてみるか・・・）
ピ・・・・・ピ・・・・
「ううっ、ここは・・・・俺は・・・熊？襲われて・・・あれ？あの光はなん
だったんだ・・・ん？うっ、体が動かない・・・何より気持ちが悪い・・・吐
きそうだ・・・・」
男は目を開けた・・・
明るさとは裏腹にひんやりとした部屋の中、異様なベッドに横たわっている事
に気付く。また手足は何かで固定されているし、首にも金属の輪が付いている、
そして辺りには聞きなれない機械音が聞こえる。
作品名：仮面ライダーGLAY 第一話コード・グレイ 作家名：カイム