同調率99%の少女(2) - 鎮守府Aの物語
「まあ、日本や世界一目指すとかそういうのは置いといたとしてもね、あたしはやれる・やりたいと思ったことには本気だよ。その過程でそういうのができるならいいし、そのためにやらなきゃいけないこともわかってるし。」
光主那美恵という娘はそういう娘なのだとわかるようになっていた提督。
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那珂が言うやらなきゃいけないこと、提督はそれを察した。那美恵の高校との提携だ。今の彼女は普通の艦娘であり、バックアップはこの鎮守府A一つでしかない。
その状況をどうにかしてあげないといけない。少女たちを支える存在は多いほうがいい。
鎮守府と学校が提携するのは人員を集めやすいからというだけではない。那美恵や五十鈴こと五十嵐凛花らのように、学生でありながら諸事情で普通の艦娘として応募して採用される少女がいる。他の鎮守府でもその傾向がある。
普通の艦娘では彼女らの身の安全を保証する、その他バックアップを直接するのは鎮守府である(場合によっては国である大本営)。ただあまりに年齢が低い学生らが普通の艦娘として採用されすぎてしまうとその鎮守府や国の管理が行き届かなくなるおそれがある。そういう時のための学生艦娘制度だ。
学校と鎮守府が提携することで、その関係内で採用された少女たちを守ってあげられるのは鎮守府だけでなく学校もということになる。日常生活への支障もカバーできる。学校側にはその見返りとして国から補助金が出る。国としては様々な要因で危険にさらされかねない人の身の安全を、鎮守府と学校の2つに補助金さえ出せば任せられるのである意味楽な運用と責任転嫁が約束される。
彼女が語る艦娘アイドルというのも本気だろうが、光主那美恵という娘が自身のアイドルという夢だけで自分の高校との提携をさせたいわけではないだろうと、提督はなんとなく感じるところがあった。彼女の真意までは知る由もないが、それはそれとして提督自身としては、学生を守るすべを増やしたいという学生艦娘制度本来の在り方として、提携をなんとか取りつけたい考えである。
鎮守府Aはまだ出来てまもない小さな鎮守府である。最初に提督が提携を取り付けた、五月雨こと早川皐の中学校の提携は学校側と教職員の身の回りに理解者が多かったおかげもありうまくいった。偶然とはいえ姉妹艦の白露型の艤装との同調に合格したのは皐の親友たちだった。ここまで含めて、最初の学校との提携としては大成功だったのである。
まだ鎮守府Aには着任していないが、皐たちの学校にいる職業艦娘になった黒崎理沙という先生、彼女は重巡洋艦艦娘羽黒として国に登録されており、学校付きの職業艦娘のため、本業への支障を考慮して異動や派遣の運用からは免除されている。提督はいずれ鎮守府Aで羽黒の募集枠を用意できれば即時採用するつもりだ。
黒崎理沙の例からわかるように、学生艦娘たちが所属する鎮守府に、顧問の先生である職業艦娘が直接所属していなくてもよい。つまり制度的には、生徒の保護を直接任せる名目上の責任者が作れればよい。それは学校側にとっても同じ捉え方であるはずなのである。
那珂に正解を確認するかのように提督は語りかけた。学校のことなので本名で呼ぶ。
「光主さん。君がもう少し那珂として活躍したら、タイミングを見計らってもう一度学校に提携を掛け合おうと思う。今はまだ、那珂として周りに名をあげることに集中してくれればいい。あとは俺がやるよ。」
そう提督が言うと、書棚の方を向いていた那珂は振り向いてニコッと笑って感謝を示した。
「ありがとね〜提督。あたしができそうにないところはお任せしちゃうからね。頼りにしてるよ〜」
手のひらをグーパー閉じたり開いたり繰り返しながら、那珂は言った。そして彼女は、提督に対してこう思っていた。
最初にこの鎮守府に見学しに来て会った時から少し経つが、この人は優しい。人がまだ少ないせいかもしれないが、自分たち一人ひとりを見ようとしてくれている。五月雨ちゃんたちからの慕われ具合を見る限り、思春期の彼女らと提督の年齢から考えると彼は彼女らのために相当尽力したんだろう。
優しくて真面目な反面、作戦立案まわりはちょっと苦手そうだ。IT業界に務めている人たちって、頭ものすごい良さそうな感じするけど?
他の鎮守府の提督がどうかは知らないし興味はない。自分にとっては彼だけが提督という存在で、現場で唯一頼れる大人、親しい仲間の一人だ。
((まぁ提督が苦手そうなところはあたしがサポートしてあげればいっか。))
那美恵が鎮守府Aに着任してから、1ヶ月半ちかく経っていた。
作品名:同調率99%の少女(2) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis