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Toi toi toi

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シュナイダーと初めて出会ったのはGrundschuleの頃。所属していたクラブから選抜メンバーにとして参加した時だった。
第一印象は『スカした奴』。
無駄口ひとつ叩かず、淡々とメニューをこなし、チームメイトと交流を図ることなく帰途に着く。
次の印象は『傲岸不遜』。
奴のプレイは俺自身を含む、奴以外の選抜メンバーとは一線を画しており、そのせいか何なのか、奴は練習試合の度にガッカリしたような見下したような態度を俺達に向けていた。
その後の印象は『不器用な奴』。
シュナイダーの散々な態度が、人との距離感を測りあぐねてのことだとわかったのは、初めての対外試合でオランダと闘った時。俺がオランダからの攻撃を無失点で抑え、メンバーからシュナイダーへのパスが上手く連携して、結果、奴の大量得点に繋げることが出来た時の、奴のはにかんだような嬉しそうな表情と、「ありがとう」という言葉でだった。
そこから、チームの雰囲気は良くなったし、俺とシュナイダーも急速に仲良くなった気がする。
シュナイダーはあまりプライベートを語らなかったし、家族が試合を観に来ることも少なかった。たまに、グレートデンのサウザーを連れて来たが、サウザーはその大きな体からは想像も出来ないくらいおとなしく芝生に座って、主人の練習が終わるのを待っていた。
動物が大好きだった俺は、シュナイダーがサウザーを連れて来る日を楽しみにしていたし、サウザーが来た日は何となくシュナイダーと帰宅を共にした。そういう日を重ねたある日、シュナイダーから休日のランチの誘いを受けた。奴のママが俺とシュナイダーが一緒に居るところを見たらしく、呼んだらどうだと言われたらしい。気乗り薄そうに告げたシュナイダーに、俺は二つ返事で応えた。
シュナイダーはママと妹と3人で、質素なアパートに暮らしていた。小さなリビングの端っこで体を丸めていたサウザーが、俺を見るとのっそり立ち上がってすり寄ってきた。俺はサウザーを撫でながら、シュナイダーの家族に挨拶をした。
「今日はお招きいただきありがとうございます。グスタフ・ヘフナーといいます」
「こちらこそ、来てくれてありがとう。カールがサッカー場以外でお友達といるところなんてあまり見ないものだから。嬉しいわ」
「こんにちは。マリーです。お兄ちゃんがいつもお世話になってます」
マリーはシュナイダーとはかなり年が離れていそうだったが、ニッコリ笑って言う言葉は利発そうだった。
「母さんもマリーも、もういいよ。手伝うから、食事の支度に入ろうよ」
シュナイダーは、ボールを前にしている時と比べると年相応、奴にしては幼い表情でママとマリーを急き立てる。心なしか照れくさそうだった。
ランチは鱈のフライを黒パンで挟んだフィッシュサンドとレンズ豆のスープ、それにクヌーデルという、質素な組み合わせだったが、家庭的な素朴さのある美味しさだった。
「明日から新学期ね。カールは早くプロになりたいから、ってHauptschuleなのよ。ヘフナーくんはどうなさるの?」
食後のクッキーとハーブティーを出しながら、ママが聞く。
「はい、俺はGymnasiumに」
「すごいわね。目標があるのね」
「はい、獣医になりたいんです、俺。でも、すごいのはむしろカールの方だと思います。俺には、プロになれるほどの才能はないけど、カールは絶対にドイツを背負って立つ男になりますから」
「そんなことない!」
突然、シュナイダーが怒ったように声を荒げた。ママとマリーが驚いて奴を見る。
「俺がドイツを背負って立つなら、お前はそのゴールを守る男だ! Gymnasiumはともかく、獣医なんて聞いてないぞ!」
「言ってないんだから、当たり前だろ」
シュナイダーがこんなに激昂するとは思いもよらう、内心の動揺を隠して俺は平静を装った。
「お前が俺のプレイを評価してくれるのは嬉しいが、俺にはお前ほどの実力も才能もないよ。そして、これからは練習に費やせる時間も少なくなっていく」
「自分を低く見るのはよせよ! お前に才能がないわけないし、時間が足りないと言うならGymnasiumなんて辞めて、Hauptschuleからプロを目指せばいい!」
「無茶言うなよ! サッカーは大好きだけど、獣医になるのはずっと俺の夢なんだ!」
チクリと胸の傷みを感じながら、俺は言う。シュナイダーの言葉は、俺の覚悟を確かめるようだった。「半端な気持ちでいる奴に俺とフィールドに立つ資格はない」と言わんばかりだった。シュナイダーはそんな俺の考えを見透かしているように、
「片手間に代表をやろうっていうのか?」
「片手間なんかじゃない。代表入りは嬉しかったし、これからも正GKで居続けたいさ」
俺は正直に言った。
「なら……」
「ただ、U‐15までだ。それまでは、お前に死に物狂いで着いていく。その先は、お前はプロになるため、俺は医者になるために努力するんだ」
「U‐15まで……」
「カール、無理言うのはおよしなさい」
ずっと黙って聞いていたママが、考えこむシュナイダーに声を掛けた。
「母さん……」
「あなたにあなたの夢や道があるように、ヘフナーくんにも自分の信じる道があるのよ」
穏やかながらもピシャリとしたママの言葉にシュナイダーは黙ると、何かに納得したようにコクリと頷いた。
シュナイダーとどうにか元に戻った俺は、ママとマリーに名残惜しがられながら、シュナイダー家を後にした。
シュナイダーは俺を外まで見送ると、ママの前では言いづらかったのか、恥ずかしそうに、
「すまなかった、ヘフナー。ちょっと言い過ぎた。でも、明日以降も練習には来るんだろう?」
「もちろん。まあ、代表を外されない限り、だけどな」
「それは皆一緒だろう。頑張ろう」
「ああ。それと、今日はありがとう。良い家族だな。楽しかった。おかげで良い誕生日になったよ」
「お前、今日が誕生日だったのか!? 何故もっと早く言わない! 母さんもマリーもお祝いしたと思うぞ!」
さりげなく言って別れるつもりだったのに、シュナイダーが俺の袖を掴んで離さないので動くに動けず、俺は向き直った。
「いや……そこまで気を遣わせるわけにいかないだろう。お祝いの言葉なら、シュナイダー、お前から貰えればいいよ」
俺が笑いながら言うと、シュナイダーもいつもの微笑を浮かべて手を伸ばし、
「グスタフ、誕生日おめでとう」
俺はその手をしっかり握り、
「ありがとう。これからもよろしくな」
と答えた。

シュナイダーが少し興奮気味に「すごい日本人がうちの学校に来た!」と話したのは、あの日から2年経った8月のこと。
その『すごい奴』こと若林源三が我がハンブルグに入ったのは、それから間もなくしてのことだった。
相変わらずドイツジュニア代表チームの正GKでは居られたものの、ハンブルグジュニア代表チームでの俺はあっさりベンチに追いやられ、シュナイダーも何かにつけて若林にかまうようになった。
いわく、「日本から来て、右も左もわからないだろうから」ということだが、色々と面白くないのが本音だった。
とはいえ、学業の手を抜くわけにもいかず、知らず知らずのうちに、サッカーか将来の夢か、選択肢を迫られているような気がした。
作品名:Toi toi toi 作家名:坂本 晶