Toi toi toi
その間にも若林は憎らしいくらい上手いセーブとメンタリティでチームに自分の居場所を築いていたし、シュナイダーもそんな若林をライバル視することで、着々と技術力を磨き、プロへの道を切り開いていた。
15歳最後の試合は、そんな若林やシュナイダーも認めた天才、大空翼のいる日本ではなく、エースを温存するというふざけた采配の南米選抜とで、最悪の結果しか残せなかった。
「すまなかった、シュナイダー」
全てが終わり、帰路に着く途中、無表情に前を見据えるシュナイダーに声を掛ける。
「いや。あのくらいの点数を取られても取り返し切れなかった俺も悪かった」
真っ直ぐに遠くを見つめたまま、シュナイダーは言う。実際、若林も温存されていたエース、サンターナに先制ゴールを決められ、苦しんでいたが、その日本はエースを入れた完璧な状態の南米に勝利していた。
それは、俺と若林の差だけでなく、シュナイダーと翼の差も物語っているようだったし、それがわかっているから、シュナイダーは誰も責めなかった。
掛ける言葉が見つけられず、肩を並べて歩く俺にシュナイダーが、
「グスタフ。最後の試合だというのに、勝利を上げられずすまなかった」
前を向いたまま、ポツリと言った。
「いや、お前のせいじゃないさ」
俺も、前を向いたまま答える。
しばらく無言で歩き続け、やがてクラブからいつもの別れ道に辿り着く。
「じゃあ」
俺が言うと、シュナイダーは俺を見つめて言った。
「さようなら、だな」
「ああ。でも、サッカーは止めないぜ。趣味でも続けるし、ずっとお前を応援している」
「……グスタフ」
いつも冷静なシュナイダーの顔が、心なしか歪んで見えた。
「そんな顔するなよ、カール。俺にとって、お前はいつまでも大切な友人だ」
そう言って、両手を握って差し出す。シュナイダーはしばらく俺の拳を見つめてから、自分の握りしめた両手を伸ばし、それから俺に顔を寄せると拳を当てざまに俺の頬に口づけた。
「成功を祈る」
「!!」
多分、ビックリした表情の俺にシュナイダーはプッと吹き出すと、
「フランス式の挨拶だそうだ。ピエールが教えてくれた」
そう言ってウィンクした。
俺は気障なピエールの顔を思い出し、あの野郎、と思いながらシュナイダーを見る。
後を曳かず、常に未来を見るのはこいつの良いところだ。吹っ切れたようなシュナイダーの表情に、俺も微笑むと言った。
「ああ。俺も、お前の成功を祈っている。頑張れよ」
Ende
作品名:Toi toi toi 作家名:坂本 晶