英雄プルート
その日はとても青く澄んだ空でした。
ミッキーはいつものようにプルートと一緒にスーパーマーケットへ買い物に行っていたのです。
スーパーマーケットへ着くと、いつも二人は各々見たい所に行きます。
ミッキーはチーズ売り場へ、プルートはペットのグッズ売り場へ。
ミッキーが今晩のチーズを選んでいる頃、プルートはある異変に気付いたのです。
全身黒ずくめの男が棚の影に隠れて、ある物を見ていたのです。
それは、ベビーカーに乗った赤ちゃんでした。
そのすぐ側にはその子のお母さんもいました。
お母さんは陳列棚を見ながらベビーカーをゆっくりゆっくり押して歩いていました。
きっと今晩の献立でも考えていたのでしょう。
お母さんは「いけない!」と言って、ベビーカーをそのままに、小走りで違う売り場へと行ってしまいました。
プルートはそのお母さんが目の前を通りすぎて行くのを見送った後に、赤ちゃんの方を見ました。
すると、先ほどの黒ずくめの男がその赤ちゃんを抱きかかえているではありませんか。
プルートは驚き、耳をピンと立ち上がらせました。
急いでその男の元へ行き、うんと怖い顔でうなりました。
ですが、その男はプルートの様子にビクともせずに赤ちゃんを抱いたまま早歩きで立ち去ろうとしたのです。
プルートは急いでその男のお尻に噛み付きました。
「いてぇっ!!」
男は驚きと痛さのあまり、垂直に飛び上がりました。
その拍子に赤ちゃんを放り上げてしまったのです。
プルートは慌てて赤ちゃんを腕のなかにキャッチしました。
安堵の息を吐いた束の間、その男がプルートから赤ちゃんを取り上げようとしました。
ですがプルートはスッと交わして避けました。
男は
「その赤ん坊をさらって、身代金を要求してやるんだ!」
そう言ってプルートからまた赤ちゃんを取り上げようとします。
男より体の小さなプルートは男の股をくぐり抜けたりしながら、一生懸命赤ちゃんを守りました。
そしてついにプルートは怒りが抑えきれず、いい加減にしろ!とワンワン吠えだしたのです。
すると調度、先ほどのお母さんが慌てて戻ってきました。
男はニヤリと笑った後にこう言いました。
「マダム、この犬があなたの赤ん坊をさらおうとしていので、僕が助けていましたが、なかなか離そうとしてくれないのです。」
そう言われ、プルートは驚きました。
「何てこと!誰か助けて!!」
お母さんは叫びました。
プルートはどうしようと困りました。
お母さんはその場に泣き崩れてパニックになってしまっています。
お母さんがこちらを見ていない隙に、その男は赤ちゃんの腕を強くつねりました。
プルートがよせ!と強く吠えると、お母さんは再び視線をプルートに戻しました。
「ほら赤ん坊の腕を見てください!この犬は腕を噛みましたよ。このままでは殺されてしまう!」
再びプルートは驚きましたが、この男に対して吠え続けました。
嘘をつくな!とワンワンガウガウ。
流石に様子がおかしいと気付いたのか、買い物をしていたお客さん達が集まってきてしまいました。
泣き崩れるお母さんと今までの事を大声で説明しだす男。
すぐにプルートは悪者扱いされてしまいました。
その場にいた男のお客さん数人が力づくで赤ん坊を取り上げようとしました。
プルートは先程とは違い、素直にその男達に渡しました。
黒ずくめの男に渡すよりはマシだったのです。
その男たちは赤ちゃんをベビーカーに優しく乗せ、お母さんに引き渡しました。
その頃ミッキーはその野次馬たちの後ろの方でぴょんぴょん跳ねていました。
ミッキーは周りの人より少し背が小さいのでその騒ぎを見れないままだったのです。
ですが、先程から声はプルートの物だとは分かっていました。
(プルートに何かあったのかな)
そう思い野次馬達の足元をくぐり、プルートの元へと進みだしました。
赤ちゃんを黒ずくめの男から守り抜いたプルートは、誰に何を言われようと気にしませんでした。
むしろ、鼻を高くし胸を張りその男を見返してやりました。
その姿に腹が立った黒ずくめの男は、
「この犬は大変危険です。保健所に連れていきましょう。
赤ちゃんをさらおうとした挙句、噛み付いたのです。」
そういうと、野次馬たちはうんうんと次々にうなずきました。
プルートは流石に焦りだしました。
囲まれているプルートは逃げ場がありません。
その野次馬の中に、筋肉質な男がいました。
その男がむんずとプルートの首輪を掴みあげ、お尻を持ち、
「俺が連れて行こう」
と言って、出口の方に歩きだしました。
やっとの思いでプルートの元へ辿り着いたミッキーでしたが、時は既に遅かったのです。
そこにプルートはいませんでした。
「あれ?確かにプルートの声が聞こえたはずなんだけどな。」
キョロキョロ見回してプルートを探しましたが見当たりません。
すると外から小さくプルートの声が聞こえました。
ミッキーが急いで窓の外を見ると、筋肉質な男に掴まれたプルートが見えました。
「大変だ!!」
ミッキーは急いで駆け出しました。
筋肉質な男はそのまま自分の車にプルートを放り投げ、車を発進させました。
「待ってください!!僕の犬なんです!!!」
ミッキーの声はその男には届きませんでしたが、車の中のプルートはミッキーに気付き、吠え続けました。
「プルート!!プルート!!!」
名前を呼びながらその車の後ろを走って追いかけます。
ですが車の早さには敵いませんでした。
どんどん小さくなっていく車を見て、どうしたもんかと頭を抱えました。
どこに連れて行かれたか、先ほどの野次馬達なら知っているはずだと店内に戻りました。