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同調率99%の少女(3) - 鎮守府Aの物語

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--- 6 反攻



 夕方頃、会議室には艦隊メンバーの6人が集まっていた。
「気象庁の発表によるとこのへんの雨はもうすぐ止むそうだ。雨がやんだら、即出撃するべきだとあたしは思うんだが、あんたらはどうよ?」
 天龍は那珂たちに提案した。

「もうすぐ夜ですよ。となると夜戦になってしまいます。」
 まだ夜間の戦闘を経験したことがない村雨が不安げに言う。同じく夜戦の経験がない五月雨も頷いた。

「いいじゃねーか夜戦。この中で夜戦を経験したことがあるのは?」
 そう天龍が尋ねる。自身も手をあげ、那珂たちの反応を伺う。他のメンバーでは那珂、五十鈴の二人が手を挙げた。

「3人か。まー、順当なところだな。でよ、旗艦さん。あんたは賛成?反対?どっちよ?」
「そうだねー。あまりこの場に長くいるのもまずいと思うからね〜。この護衛艦が狙われちゃうかもしれないし。とすると……」
 那珂が言おうとしたその先の言葉は、五十鈴が補完した。
「早期決着ってことよね?上等上等!」
 五十鈴の方を見てコクコクと笑顔で頷く那珂。
 そんな五十鈴を見て天龍はどうやらフィーリングが合ったらしく、親しげに触れてきた。

「お、あんたも話がわかる口?いいねぇ〜気に入ったぜ!」
「へ?あ、あぁ。どうも……」
 聞いていた態度からは全然違う様子だったので、五十鈴は意表を突かれた感じで気の抜けた返事しかできなかった。


--
 
 真っ暗でだだっ広い洋上での夜戦ということで、細かく作戦を立てても動けない可能性がある。洋上での夜戦となると、基本的には相手の位置が把握できていることが前提の、本物の艦同士で行うものである。それを、軍艦をもとにした艤装を装備しただけの人間と、大きさがマチマチの海の怪物が距離感もわからないのに行うのは、無謀にも等しい。
 以前那珂と五十鈴が経験した夜戦は内陸に近い海で行われたことと、深海凄艦の出てくる場所がかなり絞られていたからうまくいった。

 とはいえ今回那珂は日中、戦闘海域から護衛艦に戻る前にスマートウォッチでGPSの緯度経度を確認してメモしていた。そのため日中に重巡級がいたポイントをすぐに皆に知らせることができた。
 天龍からは、帰る途中なのによくそんなことに気がつくなと感心されて、エヘヘと照れ笑いを見せる那珂。

 位置の問題は解決可能とふんだ6人だが、本格的な夜戦となると今回は大洋のどまんなかであり、周りには明かりが一切ない環境である。外を確認する6人。ライトが必要だと判断した。

「く、暗いですね……ちょっと怖いなぁ……」
 五月雨は怖がる。そんな五月雨を五十鈴はフォローした。
「普通の人間は夜にこんな海のど真ん中にいたりしないからね。誰だって怖いわよ。」

「あたしはそうでもないよ。なんかね、ワクワクするんだぁ!」
「あたしもそうだ!なんか悪いことしに行くようで楽しみだぜ!」
 那珂に続いて天龍もノリノリでそんな発言をする。二人はアッハッハと笑い合う。
 そんな二人の様子を見て天龍の隣にいた龍田はハァ……と溜息を付くのみ。口数も表情も少なげな彼女から唯一読み取れる、呆れたという感情であった。

 五月雨と村雨はアハハと苦笑いをするのみ。
 五十鈴はそんな二人を見てこう思っていた。この二人、プライベートで友人同士だったら相当ウマが合ってただろうなぁと。

 ちょっとだらけそうになった雰囲気を那珂は作戦会議に引き戻す。
「それじゃあ、日中戦ったポイントまでの移動はこうしよ?あたしが探照灯を持って先頭を進むから、それ以外のみんなはスマートウォッチで時々バックライトを付けて確認しあうだけね。はぐれそうになったら必ず点灯させて素早く振ること。それが、誰かになにかがあったということを知らせる合図ね。」

 全員それに賛成した。


--

 夜7時過ぎ。都からの任務で特別な措置が図られていたので、学生艦娘でも7時以降も艦娘の仕事が許可された。その旨各鎮守府の提督にそれぞれの旗艦の艦娘から連絡をし、提督から各艦娘の家庭へと連絡が行った。夜の戦闘の仕事に不安になる親もいたが、東京都からの仕事ということと、海上自衛隊の護衛艦と隊員が付いているというハクがついていたのでしぶしぶながらも納得をしてもらえることとなった。


 甲板に出る6人。周囲には護衛艦の甲板照射灯の光だけが唯一確認できる人工的な光だ。それ以外は月明かりだけ。あと1時間ほどたてばさらに暗くなる。護衛艦から離れれば人の目だけではほとんど作業はできなくなる。

 わずかな光だけでも深海凄艦の注意を引いてしまう可能性があるため、那珂は護衛艦の艦長らに、甲板照射灯を護衛艦本来の警戒態勢に最低限必要となる一部を除いて、ほとんど全部消すようにお願いした。自分らから合図するまでは消してもらう。注意をひくのは自分たちの持つ光だけにしたいのだ。


「じゃああのポイントまで行くよ。みんな、準備はいいかな?」
「あぁ、いいぜ!」
「……(コクリ)」
「ええ、いいわ。行きましょう。」
「はい。了解ですぅ。」
「はい!頑張ります!」


 6人は艤装の同調を開始し、護衛艦から身を乗り出して海上へと降り立った。日中も静かだったが夜となるとさらに静けさが増す。約2名以外はなんとなく恐怖を抱いていた。

 夜の洋上では艦娘たちの海の上を波を切って進む音だけが響き渡っていた。みな無言で進む。

 ふと五月雨が口を開いた。
「やっぱり夜の海の真っ只中は怖いですね……」
 はぐれていないということを確認するかのように少し声を大きくして不安を語った。
「夜の外出楽しいけどなぁ〜。五月雨ちゃんは学校の修学旅行とかでみんなで夜外に抜け出したことない?」
と那珂。
「ええと、まだ修学旅行に行ったことないんです。」
「けど今年行くんですよ、さみも私も時雨たちも〜。」
 五月雨の代わりに村雨が答えた。

「そっかぁ〜じゃあ楽しんできてね!夜の外出とか絶対楽しいよ〜」
「といってもまだ先の話ですけどね。」
 耳にかかった髪を指でサッとかきわけながら五月雨はそう返した。
「あんた学校の生徒会長でしょ……学校違うとはいえ模範になるべき生徒がなに後輩たぶらかしてるのよ。」
 五月雨たちをサラリとそそのかそうとする那珂に五十鈴がツッコミを入れた。テヘペロの仕草をして茶化してごまかす那珂。


 夜の怖さを紛らわすために雑談をしながら目的のポイントまでの残りの海路を進む6人。
 するとある距離から、キュイーという鳴き声が聞こえてきた。それは6人全員の耳に入ってきた。