もしも獅子尾エンドだったら (1)
「先生…!」
「ちゅんちゅん…?」
沖縄旅行を途中で放棄して、
すずめは東京に帰ってきてしまった。
自分の気持ちと向き合うために。
「ちょっと…座ろうか?」
獅子尾はそう促した。
「ケガ、大丈夫なんですか?」
「え?ああ、ゆきちゃんが慌てちゃって。
でも全然大したことないよ。」
「何…もしかしてオレのことが心配で
帰ってきてくれたとか?」
期待した発言を自ら打ち消すように、
まさかな、と小声でつぶやきながら
獅子尾はタバコに火をつけようとした。
でもすぐすずめが、
「そうです。」
と言ったので、獅子尾はポロッと
タバコを手から落としてしまった。
火が点く前でよかった。
「先生のことが心配で帰ってきました。
いけませんか?」
「え…いや、嬉しいよ。
でもキミ、俺のこと避けてなかった?」
「避けてました。」
やっぱりそうなのか、と、
改めて言われると獅子尾はへこんだ。
「だってそうじゃないですか。
好きじゃないってフッたかと思ったら
好きだって言ってみたり…
もう振り回されるのが嫌だと思って…」
獅子尾は、ゆっくりと、
自分があの時どういう気持ちだったか、
というのを話してくれた。
「先生も、ちゃんと私のこと
好きでいてくれたんですね。」
「うん、好きだよ、すずめ。」
「…!///」
ちゅんちゅんじゃない。
先生の、自分を好きだという言葉が
過去形じゃない。
あの時もあの時も、同じ気持ちで好きでいてくれた、
そして今も自分のことを好きでいてくれるんだ、と思うと、
少し馬村に傾きかけていた気持ちが、
グンと獅子尾に向かっていくのを
すずめは感じていた。
私はやっぱりこの人が好きだ…。
「私…先生にフラれて、本当に世界が
真っ暗になった気がしてて…」
「でも友達や馬村に支えてもらって
やっと前を向くことができて、
馬村と付き合うことになったと思ったら
先生が好きだとか言うし…」
「や、ごめん、あれはホント…」
獅子尾は焦った顔で謝ったが、
すぐ真顔になって、目を真っ直ぐ見ながら言った。
「オレは教師で…すずめは生徒で、
ずっと好きだという気持ちと、
これは教師として生徒の将来のために
ダメなんじゃないかという気持ちが葛藤してて…
それで好きじゃないって嘘ついて
離れたけど、」
「馬村と付き合いだしたって聞いたら、
他の男のものになるっていうのを
リアルに想像して、思った以上に
耐えられなくて、一旦手を離しといて
こんなの言うの卑怯だけど、
やっぱり離すなんて無理って思ったんだ。」
獅子尾は一気に喋ったかと思うと、
もう一度膝を揃えて、真っ直ぐすずめを見た。
「すずめ。」
「は、はい。」
「オレは君が好きだ。
教師と生徒で、まだ卒業までだいぶあるけど
その間、誰のものにもならないで
待っててほしいというのは
やっぱりワガママかな。」
「え…」
「すずめの青春を、オレにあずけてほしい。」
「っ…!!」
嬉しい。
そう思う反面、馬村のことが頭をよぎった。
「それとももう、オレより馬村のほうが好き?」
すずめは少し考えて、ブンブンと頭を振った。
「少し…時間をください。
私、まだ、馬村と付き合ってるから…」
「…わかった。悩ませてごめんな。」
また小さく頭を横に振ると、
「ゆきちゃんにはオレから話すから。」
と獅子尾が言った。
「えっ!」
「ゆきちゃん、知ってんだ。
付き合ってたことも、
あの大雪の日、一緒に泊まったことも。」
「ええええええっ!」
すずめはかなり焦ったが、
だからあの後、急に先生がなかったことにしよう、
と別れ話をしたことに合点がいった。
諭吉は叔父で、東京にいる間の保護者で、
その責任で、きっと獅子尾を
責めたに違いない、とすずめは思った。
いろんな人が心配してくれている。
自分はもっとちゃんとしないと。
とりあえず獅子尾や諭吉を病院に残し、
すずめは先に家に帰った。
「ちゅんちゅん…?」
沖縄旅行を途中で放棄して、
すずめは東京に帰ってきてしまった。
自分の気持ちと向き合うために。
「ちょっと…座ろうか?」
獅子尾はそう促した。
「ケガ、大丈夫なんですか?」
「え?ああ、ゆきちゃんが慌てちゃって。
でも全然大したことないよ。」
「何…もしかしてオレのことが心配で
帰ってきてくれたとか?」
期待した発言を自ら打ち消すように、
まさかな、と小声でつぶやきながら
獅子尾はタバコに火をつけようとした。
でもすぐすずめが、
「そうです。」
と言ったので、獅子尾はポロッと
タバコを手から落としてしまった。
火が点く前でよかった。
「先生のことが心配で帰ってきました。
いけませんか?」
「え…いや、嬉しいよ。
でもキミ、俺のこと避けてなかった?」
「避けてました。」
やっぱりそうなのか、と、
改めて言われると獅子尾はへこんだ。
「だってそうじゃないですか。
好きじゃないってフッたかと思ったら
好きだって言ってみたり…
もう振り回されるのが嫌だと思って…」
獅子尾は、ゆっくりと、
自分があの時どういう気持ちだったか、
というのを話してくれた。
「先生も、ちゃんと私のこと
好きでいてくれたんですね。」
「うん、好きだよ、すずめ。」
「…!///」
ちゅんちゅんじゃない。
先生の、自分を好きだという言葉が
過去形じゃない。
あの時もあの時も、同じ気持ちで好きでいてくれた、
そして今も自分のことを好きでいてくれるんだ、と思うと、
少し馬村に傾きかけていた気持ちが、
グンと獅子尾に向かっていくのを
すずめは感じていた。
私はやっぱりこの人が好きだ…。
「私…先生にフラれて、本当に世界が
真っ暗になった気がしてて…」
「でも友達や馬村に支えてもらって
やっと前を向くことができて、
馬村と付き合うことになったと思ったら
先生が好きだとか言うし…」
「や、ごめん、あれはホント…」
獅子尾は焦った顔で謝ったが、
すぐ真顔になって、目を真っ直ぐ見ながら言った。
「オレは教師で…すずめは生徒で、
ずっと好きだという気持ちと、
これは教師として生徒の将来のために
ダメなんじゃないかという気持ちが葛藤してて…
それで好きじゃないって嘘ついて
離れたけど、」
「馬村と付き合いだしたって聞いたら、
他の男のものになるっていうのを
リアルに想像して、思った以上に
耐えられなくて、一旦手を離しといて
こんなの言うの卑怯だけど、
やっぱり離すなんて無理って思ったんだ。」
獅子尾は一気に喋ったかと思うと、
もう一度膝を揃えて、真っ直ぐすずめを見た。
「すずめ。」
「は、はい。」
「オレは君が好きだ。
教師と生徒で、まだ卒業までだいぶあるけど
その間、誰のものにもならないで
待っててほしいというのは
やっぱりワガママかな。」
「え…」
「すずめの青春を、オレにあずけてほしい。」
「っ…!!」
嬉しい。
そう思う反面、馬村のことが頭をよぎった。
「それとももう、オレより馬村のほうが好き?」
すずめは少し考えて、ブンブンと頭を振った。
「少し…時間をください。
私、まだ、馬村と付き合ってるから…」
「…わかった。悩ませてごめんな。」
また小さく頭を横に振ると、
「ゆきちゃんにはオレから話すから。」
と獅子尾が言った。
「えっ!」
「ゆきちゃん、知ってんだ。
付き合ってたことも、
あの大雪の日、一緒に泊まったことも。」
「ええええええっ!」
すずめはかなり焦ったが、
だからあの後、急に先生がなかったことにしよう、
と別れ話をしたことに合点がいった。
諭吉は叔父で、東京にいる間の保護者で、
その責任で、きっと獅子尾を
責めたに違いない、とすずめは思った。
いろんな人が心配してくれている。
自分はもっとちゃんとしないと。
とりあえず獅子尾や諭吉を病院に残し、
すずめは先に家に帰った。
作品名:もしも獅子尾エンドだったら (1) 作家名:りんりん