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もしも獅子尾エンドだったら (1)

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「茶でいい?」

「あ、うん。」

リビングに通され、ソファに座る。

「疲れてるのにごめん。」

「別に。」

「大地は?」

「もうすぐお盆だから
 じーさん家に先に行ってる。」

「そか…」

「………」

2人ともしばらく無言だった。

先に口火を切ったのは馬村だった。

「で?」

「え?」

「別れたいんだろ?オレと。」

「えっ」

「えって…やっぱりアイツが好きなんだろ?」

「……う…ん。」

「なんだよ、煮えきらねえな。
 オレを傷つけるのが嫌とか思ってんなら
 そんなのは無用だからな。」

「だって…馬村も大事なのは
 本当だもん。」

馬村はふぅ、と溜息をついた。

「でも男としてじゃねえだろ?」

馬村のことを大切に想う、
この気持ちがなんなのか、
実を言うとすずめ自身よくわかっていなかった。

どっちも大事とか、口にするのも嫌なほど
自分がいい加減で許せない気持ちになった。

「いいんだ、それで。」

それがわかったように馬村が言った。

「最初からわかってたことだし。
 オマエがアイツ好きなのも、
 オレのこと大事に思ってくれてんのも。
 もう悩むなよ。」

「だって…」

「オレはオマエが幸せなら友達でいい。」

「弱ってるオマエにつけ込んだの、
 オレだしな。あわよくば、って。」

「でもっ、私が付き合ってって言ったんだよ?」

「付き合ってダメでした、で、いーじゃん。」

「なんでっ…」

ボロっとすずめは泣き出した。

「泣きてえのはこっちだ、バーカ。」

ゴツ、と軽く頭を叩かれた。

すずめが顔をあげると、
馬村は笑っていた。

「バーカ。」

自分は馬村にそんなに思ってもらえる資格なんてないのに…

すずめはそんなふうに思った。

「アイツと付き合うんだろ?」

「…私が卒業するまで、
 誰のものにもならないで
 待ってろって言われた…」

「は…なんだそれ。ずりぃな…」

「オマエはそれでいいのかよ?」

すずめはコクンと小さく頷いた。


はぁぁぁ、と大きく息を吐きながら、
馬村は顔を手で覆い、
ソファに深くもたれた。

「マジかよ…」

「っ…ご…ブッ」

馬村に口を覆われ、
言葉が遮られた。

「ごめんとか言ったらブッコロス。」

でも目がもうごめんと言っているようだった。

馬村はすずめのその目を見つめると、
すずめの口を塞いだ自分の手の甲に
キスをして、手を離した。

すずめの目からは、また涙がこぼれた。

「送ってく。」

馬村はすずめの目から視線を外して立ち上がり 
お茶のコップを片付けた。

「ううん。自分で帰る。ありがとう。」

すずめも立ち上がり、玄関へ向かう。

馬村はすずめの背中を見送りながら、

「オイ。」と呼び止め、

「オレの気持ちに向き合おうとしてくれて
 嬉しかった。ありがとう。」
と続けざまに言った。

すずめが振り向くと、
馬村は真っ赤な顔をしていた。

「なんだよ。これくらい言わせろ。」

「~~~っ」

すずめは思わず馬村に抱きついた。

「わっ、何してんだよ。
 オレら、別れんだろ?
 しらねーぞ?オイッ」

すずめは馬村の胸の中で涙が止まらず
言葉も出ない。

やってはいけないことだと思いつつも、
そうせずにはいられなかった。

馬村は耳まで真っ赤になりながらも
そっとすずめを抱きしめた。

「…なんだよ…オマエ、マジひでえな…」

馬村はそっとすずめの体を離し、
すずめのオデコにキスをした。

「最初で…最後、な。もうしねえ。
 行け、ほら。もう抱きつくなよ?
 次したら、オマエが何言っても離さねえぞ。」

そう言って、すずめの体をトン、と押した。

すずめはグッと歯を食いしばり、
グーで涙をぬぐって玄関を出た。

走って 走って 家に帰った。

ハァハァと息を切らし、部屋に入って布団に潜った。

うっ…えっ…と嗚咽が漏れる。

「馬村…馬村…」

ダメなのに、と思いながら
馬村の名前を何度も呼んだ。