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420の日

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 事務所へ出勤して、トムさんと合流して、仕事をして、暴れて、トムさんに謝って、仕事をして、仕事をして、昼食にマックにいって、シェークがいつもより固くて苦労して、仕事をして、暴れて、トムさんに謝って、謝って、仕事をして、仕事をして、帰宅する。
 それが俺の普段の一日。日常だった。
 今日だってそうなる筈で、俺は池袋の街を歩いていた。

 事務所に寄らずにそのまま集金する場所へ来いとメールが着たのは朝の事だった。俺は眠気眼で確認して、欠伸をしながら身支度をした。
 弟の幽に貰ったバーテン服は毎日キチンと洗濯している。暴れて汚れた日はクリーニングにも出している。あいつがわざわざ俺の為にくれた物だ。幾ら代わりがあろうと、俺は一着一着を大事にすると決めていた。
 ビルの前で煙草をふかしているとドレッドヘアの目立つ風貌をしたトムさんが片手を軽く上げて挨拶をしながら歩いてきた。俺はいつも通り「おはようございます」と軽く会釈をした。トムさんが「早速行くか」と言ったので、俺はその後ろに続いてビルに入っていく。
 寂れたビルの一室に事務所を構えている奴が今日の俺達の朝一の仕事相手だ。相手は俺達の顔を見た瞬間に顔を青褪めた。この様子じゃ今日が集金日ということを忘れていた上に金の用意が出来ていないんだろうな。
 金の回収自体はトムさんが行う。俺は相手が渋ったり、逆上してきた場合に前に出ればいい。それ以外で俺が前に出れば纏まる話も纏まらなくなることは知っている。
 俺の予想通り相手は金の用意が出来ておらず、もう少し待って欲しいと申し出た。しかし、そんな願いを一々聞き入れていてはこちらも仕事にはならない。トムさんが穏便に、しかし、取立て屋らしく有無を言わさぬ迫力で相手に迫る。
 いつも不思議に思うのだ。トムさんは決して弱くない。俺と一緒に仕事をするようになるでは一人で難なくこなしていたのだ。なのに、何故トムさんは厄介とも言える俺をいつも笑いながら許して、そして傍に置いてくれるのだろうか?
 後輩だから? 哀れみ? 同情?
 柄にもなく物思いに耽っていた俺は、しかし目の前でその光景が広がった瞬間理性諸共その思考を吹き飛ばした。


「すんません……」
 意気消沈して、ガードレールに腰掛けて俯く俺にトムさんは缶コーヒーを差し出してくれた。
「まあまあ、気にすんな。最終的には夕方には用意するって約束させたんだ。結果オーライってやつだろ」
 缶コーヒーを一口飲むとトムさんは笑ってそう言った。
 口籠った俺の脳裏に先程の光景が蘇る。
 俺が理性も思考も吹き飛ばしたのは、トムさんにやんわりと詰め寄られた相手がトムさんの胸倉を掴んだからだ。相手に本当に殴る意思があったのかは分からない。だが、俺の理性を吹き飛ばすには十分すぎる行為だった。
 だって、トムさんは俺の。
「でも、なあ。お前もあれぐらいでキレんでもいいだろ」
 本当に殴られたわけでもなしに。と、やはりトムさんは笑う。
 しかし、俺は勢いよく顔を上げて言う。
「あれぐらいじゃないです! あの野郎トムさんを殴ろうとしやがって!」
「だーかーらー、本当に殴られたわけでもねーし。第一あんなへっぴり腰相手の拳の一つぐらいさすがの俺でも避けられるべ」
「でも!」
 食い下がろうとする俺の頭にトムさんの手が置かれる。俺はガードレールに座っている為、今はトムさんを見上げている。
「分かった、分かった。そうだな、お前は俺の用心棒だもんな」
 庇ってくれてありがとうよ。
 やはりトムさんは笑う。自身にも迷惑がかかった筈なのに、俺を優しく宥めるように頭を撫でて。笑う。
 急に自分が子供に思えて、恥ずかしくなる。
 再び俯いた俺をどう思ったのか、トムさんは「ほら、早くコーヒー飲め。まだまだ仕事あんだから」と、話題を逸らした。

 缶コーヒーを一気に飲み干した俺は再びトムさんの後ろについて池袋の街を歩いていた。
「あ、静雄発見」
 呑気な声をかけてきたのは街の中だというのに白衣を着たままのメガネの優男、新羅だった。一応小学校からの幼馴染で、友人、と呼ぶのかもしれない。
 白衣の男、というだけでも異様なのにその隣には真っ黒なライダースーツに黄色のヘルメットを被った、池袋の街では有名な『首なしライダー』ことセルティがバイクに凭れて立っていた。
「……珍しいな」
 一緒に住んでいることは知っているし、家に遊びに行ったこともあるが、こうやって街の中で二人揃っている所を見るのは初めてだった。
「いや、今日は静雄に会いたくてさ。セルティに後ろに乗せてもらったんだ」
 嬉しそうに言った新羅は、ほら、と脇に抱えていたヘルメットを見せてみせた。何でこんなにも自慢げなのだろう。首を傾げていた俺にセルティはいつもの如くPDAに素早く打ち込むと、それを見せてきた。
『……こいつは私の後ろに乗った時はいつもこうだ。気にするな』
 新羅がセルティをどれだけ好きなのかは来神時代からよく知っていた。多分だが、新羅としてはセルティと『一緒』なら何だろうが嬉しいのだろう。
「で? 俺に用ってのは何だ?」
「用? 用なんてないよ」
「は?」
 さっき言った事と矛盾してるじゃねーか、と俺が顔を顰めれば新羅は逆に「何が?」と不思議そうに首を傾げた。拳に力が篭る。それに気付いたセルティが慌てて再び打ち込んだ文字を俺に見せてくる。
『が、我慢してくれ! 私も止めたんだが、どうしてもお前の顔が見たいと言って聞かなくて』
 困った表情をする頭はないが、様子を見れば一目瞭然だ。溜息と共に俺の体の力が抜けていく。
「やっぱり今日は静雄の顔をみなくちゃ!」
「何でだよ」
「だって今日という日は一年で一日しかこないからね!」
 両手を広げて楽しそうに言う新羅に、こめかみが引き攣るのが分かったが、やはりその隣に居るセルティからの視線――頭はない場合も視線っていうのか?――を受けて脱力した。どうやら俺はセルティに弱いらしい。
「――静雄、そろそろ行くぞー」
 ハッと振り向けば煙草を足で踏み潰したトムさんが親指を進行方向へ向けていた。俺は慌てた。
 今まで新羅とセルティに気を取られていて、トムさんに気が回らなかった。俺の私情でトムさんを待たせてしまった!
「す、すんません。ほら、俺は仕事中だ。さっさと失せろ」
 失せろという言葉は新羅にだけ向けた言葉だ。セルティへは「またな」と、手を軽く振った。
 俺はもう一度謝りながらトムさんの背中についていく。
 後ろから「いくらセルティが素敵だからって静雄には渡さないからね! 友達だからって、静雄だからって容赦しないよ!」という叫び声が聞こえてきたが、無視をした。あれの扱いセルティに任せるのが正解だ。


 マックから出てきた俺とトムさんが次の回収先までの近道をする為に路地裏を通った先にそいつらは居た。
「よお。久しぶりだな」
 ワゴンに凭れ掛かって立つ、大柄な男、門田が俺に向かってそう言った。俺はさっきの新羅達の時のようにトムさんを何も言わず待たせるような真似はしない、とトムさんへ視線を向けた。
「ああ。俺の事は構うな。次の仕事までまだ時間あるからな」
「すんません」
作品名:420の日 作家名:まろにー