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420の日

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 そう言ってくれたトムさんに甘えた俺は門田に向き直る。
「何してんだ、こんな所で」
「いや、まあ、その……どうしてもこいつらがお前に会いたいって言うもんでな」
 言いにくそうにする門田は頬を掻きながら「こいつら」を指差した。
「静雄さんだー!」
「いやぁ、さすが渡草さんのドライビングテクニック! 見事に先回り成功じゃないっすか!」
 ワゴンの窓から顔を出してきたのは門田がいつもつるんでいる奴らの内の二人。確か名前は……。
「狩沢と遊馬崎っすよー」
 そう言ったのは細目の男の方だった。
「もしかして、静雄さんってばドタチン以外には興味ないってやつ? わ、ドタシズフラグktkr!」
 興奮気味に言った女の頭を門田は軽く叩く。俺には意味が分からなかったが、門田の顔が何となく赤く見えたので恐らく本来は怒るべきところなんだろう。しかし、意味の通じていない事にまではさすがに怒る気になれない。
「相変わらず騒がしいな」
「悪いな。俺ももうちょっと落ち着けって普段から言ってはいるんだがな……」
「でも、お前のことが好きで寄ってきてんだろ? じゃあ、悪い奴らじゃねーって事だろ」
 口角を上げて笑えば、途端に何故か門田の顔がさっきより明らかに赤くなった。
 あれ? 俺何か変な事言ったか?
 訝しげにした俺に門田は「いや、な、何でもねえ。つーか、見るな!」と、その顔をデカイ手で覆い隠してしまう。後ろでは何故か狩沢が一層騒がしくなっていた。
「で、何でお前らは俺に会いたかったんだよ」
 一頻り盛り上がりを見せて落ち着いた二人組に俺は問う。
「今日という日に平和島静雄に会わずしていつ会う!」
「平和島静雄に会う為に出来た日といっても過言はない! なので、」
 それぞれが右人差し指、左人差し指をビシッと俺に向けて二人は目を輝かせて声高らかに言った。そして、その手を大きく広げてみせて。
「「ただ会いたかっただけでーす」」
 そうのたまった。
 俺が唸り声を上げる前に門田が二人の前に立つ。
「落ち着け! こいつらには俺が後でよーく言い聞かせておく! だから、その青筋を何とか静めろ!」
 慌てた様子の門田を見て俺は自分がキレる寸前にまできている事に気付いた。良かった。このまま理性を飛ばして暴れたら門田に迷惑をかけていたところだ。
 門田にとって後ろの二人は大事な存在のようだし、その存在を傷つけることは俺の本意ではない。
 今日何度目かになる深い溜息を吐いた俺は何とか自分を宥め、再び門田とその後ろの二人を見やる。狩沢と、遊馬崎だったか。二人はさすがにまずいと思ったのか、さっきまでのテンションはどこへやら、大人しく窓枠に身を寄せている。
「……ああ、大丈夫だ。イラッとはきたがな。ったく、新羅といいお前らといい今日は一体何だってんだ」
 俺の疑問に答えたのは門田でもなく、狩沢と遊馬崎でもなかった。
「――静雄、悪いがタイムアップだ」
 傍観していたトムさんが突然俺の肩に手を置いて、そう告げた。
「え、あ、すんません」
「一々謝らなくていいっつーの。ま、そういうわけだからこいつ返してもらうな」
 トムさんは門田達に向かってそう言うと俺の腕を掴み、歩き出した。さっきの新羅達の時とは違う様子に俺は少しばかり惑った。
 後ろから今度は俺に対してではない言葉が大声で飛び交っていた。――「ちょっと、ちょっとドタチン! いいの!? あれ確実にトムシズフラグだよ!?」「そうっすよ! 今、男を見せなくていつ見せるんすか!?」――
 気になって振り向こうと思ったが、瞬間大きな音と共に静かになったので結局は黙ってトムさんについていくことにした。
 そういえば門田がつるんでる奴ってもう一人いなかったか? 名前は……駄目だ。顔も全く出てこない。

 しかし、今日は本当におかしな日だ。
 新羅がおかしいのはいつもの事だが、狩沢や遊馬崎が俺に会いたいだなんて滅多なことではない。

 次の仕事先でトムさんのドレッドヘアを見つめながら俺は唸った。
 そういえばあいつらは皆口々に「今日という日」を強調していた。今日は何か特別な日だっただろうか? 俺の誕生日? いや、違うな。だとしたら朝一で幽から連絡があった筈だ。
 じゃあ、一体……?
「――い、オイ! 静雄!」
 耳元で聞こえた大きな声に俺はビクリと身体を反応させた。驚いて振り向けば、呆れた顔のトムさんがいた。
「あれ? 俺……」
「何ボーっとしてんだ。ほら、仕事終了だ。帰るぞ」
 慌てて周囲を見渡せば回収相手はとっくに消えていた。どうやら今度の相手はちゃんと金を用意していて、さっさとトムさんに渡したらしい。
「俺、すんません。何か考え事してたみたいで……」
 後頭部を掻きながら謝ると、トムさんはマジマジと俺を見てきた。その目に何故かドキッとしてしまった俺は気まずくて目を逸らす。
 ポンッと胸の辺りを叩かれた。
「なーに気にしてんだ。別に今日は偶々色んなダチに会えた、それでいいべ?」
 優しい言い方に逸らしていた視線をそーっとトムさんに向ける。トムさんは俺のよく知っている笑顔をしていた。
 そうだ。何を柄にもなく気にしていたんだろうか。別に今日が何だろうが関係ないじゃないか。新羅にもセルティにも門田にも狩沢にも遊馬崎にも会えた。ただそれだけじゃないか。
 トムさんの言葉と笑顔は不思議だ。俺の心にすっと入ってきて、納得させてくれる。やっぱりトムさんは凄い!
「そっすね!」
 俺が答えればトムさんは満足したらしく、じゃあ行くぞー、とまた俺の前を歩き出した。俺はまたその背中を追いかけた。


 暫く歩いて、俺達は大通りに出た。時間が時間だっただけに人でごった返している光景に俺は少し顔を顰めた。
「お前はいいだろう。人より頭一つ出てんだからよ」
 トムさんは通り過ぎる人に目もくれずそう言った。
 何と答えていいか分からず曖昧に相槌を打つ。そして、不意に視線を上げればよく見知った。しかし、俺の知らない幽の顔がそこにあった。
 新しい仕事か? 英語のロゴが大きく入った巨大なポスターに幽は写っていた。煽り文句も何も入っていないそれは俺にしてみれば何の宣伝なのかも全く分からなかった。
「――元気にやってるみたいだからいいけどよ」
 最後に幽から連絡があったのは三日前だった。
 家に帰り、風呂から上がったところに電話が鳴ったのだ。いつもの調子で俺の食生活や睡眠はちゃんととれているか、と問われて大丈夫だと答えた。お前こそ仕事忙しいみたいだけど、ちゃんと食ってるかという俺の問いには小さく大丈夫だよ、と答えてきた。淡々とした会話だったが、幽の声を聞いて俺の気持ちは確かに癒されたし、幽もそうだといいなというのは俺の願望だ。
 幽の写ったポスターを通り過ぎて、暫く歩いていると突然トムさんが大声を上げた。俺は前を見ず、遠くに見えた来良学園の制服を着た二人組に目を奪われていた為、驚いて足を止めた。
「どうしたんすか、トムさぶっ!!!」
 視線を下ろしてトムさんを見ようとすれば、俺の顔をガッチリと掴まれた。一瞬青筋の浮かびかけたこめかみだが、直ぐにその手がトムさんのものだと分かって落ち着いた。だが、驚いたことに変わりはない。
作品名:420の日 作家名:まろにー