もしも獅子尾エンドだったら (3)
「馬村くん。」
駅の構内で見たことがある姿を見かけ、
ゆゆかは声をかけた。
「猫田…今帰りかよ。」
「うん。馬村くんも来ればよかったのに。」
「…用事って言ったろ?」
「…もしかしてイモ女と
一緒に行動しないようにしてるの?」
「は?違えし。」
「なんでそんな風に引けるの?」
「違うっつってんだろ!」
思わず声を荒らげて、馬村はハッとした。
「ごめん。」
ゆゆかはビックリした。
「いや、オレこそ悪ぃ。」
「あの子、馬村くんのこと、まだ迷ってるよ。」
「何だよ。オレにそれ聞かせて
何させようってんだ。」
「馬村くんだけがなんかしんどそうだから。」
「オレまでやりたいようにやったら、
アイツの頭、煙出して、
どっちとも付き合わないことにした、
とか言い出しそうじゃん。」
「…確かに。」
「ゆっくり考えりゃいいんだ。」
「自分を選ばないことになってもいいの?」
「仕方ねえだろ。お前はなんでそんなに
首突っ込んでかき回そうとするんだよ。
アイツの友達だろ?」
「私は馬村くんも友達だと思ってるし。
馬村くんにも幸せになって欲しいもん。」
馬村はふっ、と伏し目がちに笑って
「サンキュー。」と言った。
「オレもアイツに幸せでいて欲しいから。」
そう言って少し照れて、
馬村は「じゃあな。」と帰って行った。
ゆゆかは昔、すずめが転校してきたばかりの時、
馬村から「アンタとは友達じゃない。」
と言われたことを思い出した。
今は…友達と思ってくれてると
思っていいのだろうか。
ダサくてイモで大食いで、
女子力なんてないに等しいけれど、
いい男が2人で取り合ってもおかしくないほど、
不思議な女だ。与謝野すずめという女は。
イモ女のおかげで
素の自分を受け入れてくれる彼氏ができた。
学校帰りに寄り道する友達ができた。
男の子でも自分を恋愛対象じゃなく
友達としてみてくれる友達になれた。
全部、イモ女がいなきゃ何一つ得ていなかった。
獅子尾とのことを、諭吉にすごく反対されたと
すずめから聞いていた。
「みんなアンタに幸せでいて欲しいと思ってんだからね…」
ゆゆかはそう呟きながら家に帰った。
作品名:もしも獅子尾エンドだったら (3) 作家名:りんりん