もしも獅子尾エンドだったら (6)
「好きな人がそばにいたら
ドキドキして落ち着かないってこと。」
「な、なんか先生…
前と別人みたいですね。」
「え?マジで?そんなに違う?」
「だって前はなんか言うことが
抽象的だったというか…」
火を消したタバコを咥えたまま、
ガシガシと獅子尾は頭を掻いた。
「言ったろ?もう失敗したくないんだ。
思ってることを伝わるように言うって
決めたから。」
「先生…ありがとう。」
「あと、それ。」
「え?」
「もう先生じゃないんだけど?」
「っ…それはそうですけど…」
「何て呼んでくれんの?」
「ええっ///」
急に言われてすずめは戸惑ったが、
以前つぼみが現れた時に、
五月と呼んで拒否られたことを思い出した。
「さっちゃん。」
「えっ、何それ。」
「さっくん。」
「子どもか。」
「五月…さん?」
「……さんは嫌。」
「さ…五月。」
「ふ…合格!」
すずめは獅子尾にぐいっと腕を引っ張られ、
抱きすくめられた。
あの時拒否られてくすぶった心が
溶けていくようだった。
つぼみさんが普通に呼ぶ名前を、
自分も呼んでいいと言って欲しかった。
見つめ合い、自然に唇が引き寄せられた。
「五月。」
「くすぐってーな、まだ。」
「言い慣れないから…」
「すずめ。」
「…はい。」
「待たせてごめんな。
改めて、俺と付き合ってください。」
「は、はい。」
「よろしくお願いします。」
ボロボロボロッと涙が流れ、
それを舐めとるように獅子尾がキスをした。
「キミ、結構泣くよね。」
「あ、泣かしてんの、オレか…」
「ふ、何言ってるんですか。」
すずめがふっと笑うと、
獅子尾は今度は深くくちづけた。
「もう、我慢しなくていーだろ?」
「えっ、あっ、その…えっと…////」
「先生」をしなくなった獅子尾は、
変に色っぽく、すずめは言葉にも仕草にも、
全てにいちいちドキドキした。
「せ、先生…」
「ダメ。もう先生じゃないって言ったでしょ?」
「っ…五月…」
「ん?」
そう甘く返しながら、また口づける。
「も、無理です…」
きゅうぅぅ、と顔を真っ赤にして
すずめは獅子尾の腕に
ぐでんと寄りかかった。
「え?すずめ?!」
「…も、もっと、お手柔らかにしてください…」
「えええっ?!」
まだキスしただけなのに、
熱が上がったようになって、
すずめはダウンしてしまった。
ここまで長く長くかかったが、
進めるのも長く長くかかりそうだと、
獅子尾は覚悟したのだった。
作品名:もしも獅子尾エンドだったら (6) 作家名:りんりん