もしも獅子尾エンドだったら (6)
卒業式の後は打ち上げで、
クラスのみんなでカラオケに行った。
獅子尾も一緒だったが、
今日までは教師と生徒を崩さなかった。
卒業式翌日。
すずめはものすごい早起きをしていた。
というよりも、寝られなかったのだ。
朝からドキンドキンと胸が高鳴る。
獅子尾のことを考えると
心臓が壊れるんじゃないかと思うほどだった。
「もう教師と生徒じゃないんだ…」
すずめはゆゆかに選んでもらった
少し大人っぽいコーデの服を着て、
鶴に教えてもらった化粧を頑張ってしてみた。
「高校生には見えない…かな。」
ドキドキして眠れなかったのは
獅子尾も同じだった。
一年半もこの時を待ったのだ。
「楽しみすぎて眠れないとか
オレは幼稚園児か。」
と、自分にツッコミを入れてみる。
18の小娘に何を本気になってるんだ、
と思いもするが、気持ちは理屈じゃ
抑えきれない。
ただただ、今日はがっつかないようにするだけ。
と、気合を入れた。
こんなふうに思ったのは初めての経験だった。
ピンポーン。
チャイムが聞こえた。
「はい。」
低い甘い声がすずめの耳に届いた。
ドクドクドクドクと心臓がうるさい。
緊張で胸が手が脚が震える。
「おはようございます。」
「ぶっ。」
すずめの声が震えているのに、
獅子尾は思わず吹いてしまった。
「もう!仕方ないじゃないですか!」
「悪い!いや、なんていうか…」
「何ですか?」
「可愛くて。」
カァァァッとすずめの顔が赤くなった。
パッと目を逸らして俯いた。
「とりあえず入れば。」
「はい…」
獅子尾に腕を引かれて、すずめは
部屋の中に入った。
相変わらずたくさんの歴史漫画。
タバコの匂い。
コーヒーの香り。
大人の男の人の匂いがした。
「茶でいい?」
「はい。あ、これ、バレンタインのチョコ…」
「え、手作り?」
「おじさんに教えてもらって。」
「ゆきちゃんが?よく教えてくれたな。」
「応援はしないって言ってたんですけど。」
「ありがとう。
じゃあ、コーヒーにするか。」
獅子尾はコーヒーを入れたマグカップを
2つ持ってきた。
「ミルクと砂糖入れる?」
「ミルクだけで。」
「ん。」
フレッシュをざっとカップに入れたかと思うと、
獅子尾はすぐにタバコに火をつけた。
「あ、悪い。落ち着かないとすぐ吸う癖が…」
「落ち着かない…?」
「え、あ、変な意味じゃなくて。」
作品名:もしも獅子尾エンドだったら (6) 作家名:りんりん