【APH】無題ドキュメントⅢ
王妃ルイーゼの必死の働きにより、大敗でボロボロになったプロイセン国内の崩壊は寸前で止まり、国としての形を保ったプロイセンが漸く、床を払ったのはティルジット条約から半年後のことだった。王妃はプロイセンの病床を王宮から見舞いに度々、訪れた。
「あんま、気、使うなよ。前より、大分、いいんだぜ?」
「そうは見えないわ。プロイセン。…あの手この手を使って、私、頑張ったんだけど、あの男…」
思い出しただけで腹が立つのか、ルイーゼの眉が寄るのをプロイセンがまあまあと宥めていると、控えめなノックの音がした。それに「入れ」とプロイセンが声を掛ける。コーヒーカップを載せたトレーを手にした子どもがサイドテーブルの上に、そろりとソーサーを下ろした。
「お!アプフェルシュトゥルデールじゃねぇか」
コーヒーに添えられたクレープ状に焼いたアップルパイに目を輝かせるプロイセンに子どもはプロイセンの前に皿を下ろした。
「王妃様がとても美味しい林檎をくれたんだ。それをクーヘンにしてみた」
「そうか。ルイーゼ、ダンケ!」
「どういたしまして。ルートヴィッヒ、あなたも一緒にお茶にしましょう」
「いいのか?」
「ああ。構わない。一緒に食おうぜ」
こくりと頷いた子どもが嬉しさを堪え切れない顔をして、部屋を出て行く。それを見送ったルイーゼはプロイセンに向き直った。
「…本当にルートヴィッヒはあなたが好きなのね」
「好かれ過ぎて、擽ったいぜ」
実際、寝てばかりいて何もしてやれていないのだが子どもは何かと熱心にプロイセンの身の回りの世話を焼いた。それが少々擽ったくも嬉しくもあり、家族と言うものから縁遠いプロイセンに身にその子どもは温かさを与えていた。
「…だからよ。頑張らねぇとな」
柔らかな木漏れ日の落ちる部屋。プロイセンは自分に言い聞かせるように言葉を口にする。それにルイーゼは目を細めた。
ルイーゼ・フォン・メクレンブルク=シュトレーリッツ
プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世の王妃。
1810年7月19日 肺炎で死去。彼女の死を、プロイセン国民は大いに嘆いたという。
1813年3月17日、ナポレオンのロシアでの大敗を目にして、プロイセンはフランスへ宣戦した。
「兄さん…」
「行ってくる。いい子にしてるんだぜ。ブランデンブルク、後は頼んだ」
作品名:【APH】無題ドキュメントⅢ 作家名:冬故