風と風鈴
あれから数時間が過ぎ、静かな夜を迎えていた。
縁側には辰馬が一人、風鈴の音を聞きながら考え事をしている。
辰「わしには、何ができるんじゃろうな…」
誰に向けたわけでもない言葉は風鈴の音によってかき消される――――。
銀「やっぱりここに居たか」
隣に座る銀時へ向けるのはいつもの笑顔
辰「なんじゃ、もう片付けは終わったんか?」
銀「あぁ。ヅラはびしょ濡れになるし、高杉は石鹸まみれになるしで大変だったぜ。…あいつら、どうやって菓子なんて作ったんだか不思議だ…」
辰「そりゃ楽しそうじゃの~。わしも行けばよかったぜよ」
銀「…辰馬、昼間はありがとうな」
辰「礼を言われるような事はしてないぜよ」
銀「いや…。お前がいなかったら、たぶん俺はダメになってた。だから、ありがとう」
辰「…なんじゃ~かわええの~銀時。気にすることないぜよ~」
銀時の頭をわしゃわしゃと撫でながら言うが、その手を掴み辰馬の目をじっと見る
銀「だから、次は辰馬の番」
辰「…なんの話じゃ?」
銀「誤魔化すな」
逃がさないと言わんばかりに握った手を離さない
銀「俺には…言えないこと?」
辰「…そういうわけではない…んじゃが…」
銀「じゃあ話して。俺ちゃんとここに居るから」
渋っていたが、観念したように話し始める
辰「……わしは、おんしに何をしてやれるんかと思うてな…」
銀「?」
辰「わしも高杉もヅラも、おまんの様子がおかしい事に気づいていた。わしはおまんの傍に居ることしか思い浮かばんかったが、あいつらは違う。おまんの為に、おまんの好きな物を一生懸命作った。……わしには思い浮かばんし、出来ないことじゃ」
銀「…そんな事考えてた訳?」
辰「わしにとっっては一大事なんじゃよ。じゃから、わしはおんしに何をしてやれるんかと…な」
銀「…確かに、あいつらのしてくれた事は嬉しかった。俺の事心配してくれたのかとか、心配かけちまったなとか思った。…でも、辰馬だって俺に沢山与えてくれてるぜ?」
辰「いや、わしは何も…」
”ちりん、ちりん”と音が鳴る
銀「…俺さ、思い出したんだ。昔、先生が言ってた事」
辰「…?」
銀「風鈴ってのは、ただ飾るだけでも綺麗だけど、風がないと本当の姿は引き出せない。人間も一緒で、独りでもその生きてる様は美しいけど、誰かが傍に居てくれて初めて本当の姿が見える。この世の中は独りじゃ出来ないことで溢れてる……って。そう言ってた」
辰「おんしらの先生はまっこと敏い人なんじゃな」
銀「まあな。…だからさ、俺にはお前が必要なの。もちろん高杉もヅラも大事だよ。でも、お前はまた別」
辰「どう別なんじゃ?」
銀「俺、辰馬の前でしか泣けねぇから」
辰「へ?」
銀「だから、辰馬の前でだけは泣くことができるんだよ。…あいつらの前じゃんな事できぇね。信用してないとかじゃねぇからな。…ただ、俺が弱音とか吐けるのは、俺が独りにならないようにいつも辰馬が傍に居てくれるからだ」
辰「な……」
銀「だから、辰馬は俺の隣に居てくれればいいんだよ」
辰「ほんに、それだけでええがか?」
銀「良いんだよ。それが一番嬉しい」
辰「銀時…」
銀時を抱きしめようと伸ばした腕が途中で止まる。
なかなか抱きしめてこない辰馬を不思議に思い…
銀「…辰馬?…手が止まってるんだけど…抱きしめてくんねぇの?」
辰「あー…いや…その…。…今抱きしめたら、それだけじゃ終われない気がするぜよ…」
銀「え……」
辰「わし今、相当我慢してるんじゃぞ…おんしが煽るから…」
銀「……我慢しなくていいんじゃねぇ…?」
少し照れくさそうに俯きながら辰馬の手をギュッと握ると、それが引き金となって辰馬は銀時を押し倒した……――。
銀「え…あ…、ここで…!?」
辰「おんしが悪い。…たまにはええじゃろ」
銀「……っ」
辰「銀時…」
銀「ん……っ」
優しい風が吹き、"ちりん"と音が鳴る。
その音色は二人を包み込むように優しい音色だった。
――――
――
幸せそうに抱き合い甘い時間を過ごす二人を遠目に、完全に入るタイミングを失った二人が居た。。
桂「おい高杉…俺たちはいつまでここに居るつもりだ」
高「んなこと言ったってよ…完全にタイミング失ってんだろ…」
桂「まったく…あいつらは心配ばかりかけるな。銀時の次は坂本の様子がおかしいと思ったんだが…いらぬ心配だったようだ。…ところで高杉。その手に持っている酒はなんだ?」
高「…辰馬を酔わせて、その隙に銀時を奪ってやろうと思っただけだ」
桂「なるほど、坂本が心配で元気づけるために酒盛りでもするつもりだったのか」
高「俺はそんな事一言も言ってねぇぞ」
桂「何も言うな、わかっておる」
高「…くそっ」
桂「まぁ、あれだ。これからも俺たちなりにあいつらを見守っていこうではないか」
高「…仕方ねぇな。おい、帰るぞヅラ。折角の酒が勿体ねぇ。俺に付き合え」
桂「わかった。お前の失恋話を聞いてやろう。存分に飲むといい」
高「おい…てめぇ……」
愛し合う二人にバレないように部屋に戻る二人。
翌日、いつにも増して仲がいい辰馬と銀時だったが、二人には何故高杉が二日酔いになっているのかが分からなかったのであった―――……。
END