優しいキスをして
誰かが、自分のことを大事に思ってくれている。
そう思うだけで、人は強くなれる。
それを知ってか知らずか、すずめは大和が大事だと伝える。
そう、大地が心に傷を負った時、兄は大地を抱き締めて言ったのだ。
大地のことが、大事だと、大好きだと。
母親がいなくなった日を境に、笑いもせず、泣きもせずだった大地が、その時初めて兄の胸で咽び泣いた。
*
食事も終わり、すずめの自室に戻ると、大和がいなくなった部屋は、いつもどおりであるはずなのに、シンと静まり返っている気がした。
「男にキスすんなよ」
隣に座った大輝にボソリと言われ、すずめはカァァッと頬を赤く染めた。
「男って…小学生だけど…」
「ダメ。しかも、大和ばっかり構いやがって」
「大輝…。なんか、子どもみたい…」
「子どもはこんなことしないだろ?」
大輝は、すずめの額から頬にキスを落とす。
そして、上唇を舌でなぞるように、唇を合わせた。
「んっ……ぁ」
チュッチュッと角度を変えて、深く口付けていくと、すずめが体重を預けるように大輝にもたれかかる。
「はぁ…ん」
唇を離すと、互いの口から唾液が糸を引く。
名残惜しそうに潤んだ瞳で大輝を見るすずめに、これ以上側にいるとマズイことになると、身体を離した。
すると、すずめから縋り付くように、大輝の首に腕を回して口付けられる。
すずめの積極的な態度に驚くが、それに応えるように、口腔内を愛撫していった。
こんな日があってもいいかもしれない。
諭吉に知られれば、確実に出禁ではあるが。
大輝は、すずめの腰を強く抱きしめると、彼女の香りに、口付けに、愛しさが溢れ出す。
好きだと、愛していると思って結婚しても、別れが来ることがある。
それを知っているから、願わずにはいられない。
すずめとの出会いが運命でありますように。
こんなにも自分にとって大事な人が、運命の人でありますように。
明日も明後日も、離れることなくずっと側にいられますように。
いつもどおりの、優しいキスをして。
fin