諭吉の恋
カランカラン。
「いらっしゃいませ。」
カフェの日常の一コマだった。
女の人が2人連れで、
「ここのスイーツが絶品なんだって!」と、
高い声で話しながら入ってきた。
「そ?私の中であそこを超えるフォンダンショコラは
ないんだけどなぁ。」
「いいから、いいから。」
「マスター!フォンダンショコラを2つ。
オリジナルブレンドとセットで。」
「はい。」
諭吉は手際よくコーヒーをいれはじめた。
よく喋る人のほうは、
このカフェにたまに来るお客さんだ。
もうひとりは少しぽっちゃりした、
柔らかい感じの女性で、
ここは初めてらしかった。
どこか古風な感じの、おとなしめなその人は、
友人の話にニコニコと、うん、うん、
と頷き、話を聞いていた。
(可愛らしい雰囲気の人だなぁ。)
諭吉はそんなふうに思いながら、ご注文の
オリジナルブレンドとフォンダンショコラを
そのテーブルに運んだ。
「いい匂い!」
「ねっ?ねっ?」
(そんなに押し付けるようにしたら
美味しいもんも美味しくなくなるよ?)
と、諭吉が思っていたら、
そのぽっちゃりした人が、
「そんなに言われたら、ホントに美味しくても
美味しくなくなっちゃうわよ。」
と、冗談ぽく笑って言った。
(そうそう。)
諭吉はその人が自分と同じことを感じていたので
少し嬉しくなった。
「かずは、どう?」
言われたそばから、友人は再び感想を聞き出そうと
少し前のめりになっていた。
(かずはさんって言うのか。)
かずは、と呼ばれた女性のほうに目をやると、
一口ケーキを口に入れたところで、
みるみる頬をピンクにさせ、
「お、美味しい!」
と、満面の笑みを浮かべた。
「え~っ、ウソ、
あのケーキ屋さんより美味しい。
こんなに美味しいの、初めてかも。」
そう言って、パクパクと残りも口に運んだ。
「でしょ?でしょ?甘さが絶妙でしょ?
しつこくないし。
そして、はい、誕生日プレゼント!」
(えっ、今日が誕生日?)
「えっ、えーっ。そんなのいいのに。
でも嬉しい。ありがとう!」
「今年は彼氏できるといいね。」
(彼氏はいないのか。)
「ふふ、それはお互い様でしょう?
でもとうとう30になったからなぁ。
親からも散々言われてるのよね。」
(30か…ひと回りも下だ。)
そういうデリケートな話題にも、
静かに穏やかに受け答えをするかずはに、
好感をもちつつ、諭吉は仕事を続けた。
カランカラン。
「やっほー。諭吉。」
「お、つぼみ。久しぶりだな。」
つぼみが1ヶ月ぶりくらいにやってきた。
「昨日の夜こっちに帰ってきたのよ。
ねぇ、何か新作ケーキないの?
甘いものが食べたくて。」
カメラマンとして
海外を拠点に仕事をしているつぼみは、
日本に帰ってくると、
必ず諭吉のカフェに顔を出していた。
「新作に限定しないでくれる?
ああ、そう言えば昨夜作ってみたのがあるよ。
まだメニューに載せてないけど。」
「わお!それ食べてみたい!」
諭吉は、ケーキを皿に盛り付け、
いつものコーヒーをいれた。
「ナニコレ!超おいしーじゃん!」
つぼみは手足をバタバタさせて喜んだ。
「え、ホントに?そりゃよかった。
じゃあメニューに入れようかな。」
「日に日にスイーツの腕をあげていくね、諭吉。
すずめちゃんのおかげかな。
食べてくれる人がいるといいよね。」
「まぁでも最近はすずめも家を空けること多くてね。」
「へえ、マムーとうまくいってんだ?
そりゃもう諭吉、すずめちゃんに
結婚、先こされちゃうかもね。」
「いいんだ、俺は。もう42だし。
お客さんに喜んでもらえればそれで。」
「嫁入り前の娘をもつ父親みたいね。」
そう言いながらも、つぼみは美味しそうに
新作ケーキをたいらげていく。
それを羨ましそうに見るかずはと
諭吉は目が合った。
ニッコリすると、かずはは、恥ずかしそうに
顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
かずは達はしばらくおしゃべりをした後、
席を立った。
伝票を手に取って全部支払おうとする友人に、
かずははビックリしていた。
「え、いいよ。プレゼントももらったのに。」
「いいの、いいの。今日誕生日でしょ?
奢られときなさいよ。
無理やり誘ったの、私だし。」
「えー、でも申し訳ない。」
「いいの!その代わり、私の誕生日は奢って?」
かずはは、レジでそのやりとりの結末を待ってる
諭吉を気にしながら、「わかった。ありがとう。」
と言って奢られることになった。
「レジ前で騒いですみません。」
と、かずはが一言謝罪を述べた時、
諭吉が、「いいえ。よかったらこれどうぞ。」
と、ケーキボックスを2つ渡した。
「今日お誕生日なんでしょう?
さっき聞こえてきたから。
中身は試作品のケーキなんで
サービスです。」
諭吉がそう言うと、
「あ、もしかして、カウンターの人が食べてた…」
と、かずはと友人は、おずおずと
箱を受け取った。
「おめでとう。」
「羨ましそうに見てたから
お気遣いいただいたんですね。」
かずはは恥ずかしそうに、
でも嬉しそうに笑って言った。
「えっ、いや、そんなことは…///」
「ふふ、冗談ですよ。
ありがとうございます。
遠慮なくいただきます。」
嬉しそうに笑って、かずは達は
ケーキボックスを手に店を去っていった。
「なーにー?諭吉の好きそうなタイプねぇ?」
「なっ。そんなんじゃない。
って何でお前が俺の好みとか知ってんだよ。」
諭吉は焦って真っ赤になった。
「五月が前に言ってた。」
「アイツ!」
ホント言うと、試作品のケーキをあげたのは、
好みの女性に対する、
ちょっとした下心もなくはなかったが、
かずはがあまりに美味しそうに食べてくれたので
もっと喜んでもらいたいのもあった。
「いらっしゃいませ。」
カフェの日常の一コマだった。
女の人が2人連れで、
「ここのスイーツが絶品なんだって!」と、
高い声で話しながら入ってきた。
「そ?私の中であそこを超えるフォンダンショコラは
ないんだけどなぁ。」
「いいから、いいから。」
「マスター!フォンダンショコラを2つ。
オリジナルブレンドとセットで。」
「はい。」
諭吉は手際よくコーヒーをいれはじめた。
よく喋る人のほうは、
このカフェにたまに来るお客さんだ。
もうひとりは少しぽっちゃりした、
柔らかい感じの女性で、
ここは初めてらしかった。
どこか古風な感じの、おとなしめなその人は、
友人の話にニコニコと、うん、うん、
と頷き、話を聞いていた。
(可愛らしい雰囲気の人だなぁ。)
諭吉はそんなふうに思いながら、ご注文の
オリジナルブレンドとフォンダンショコラを
そのテーブルに運んだ。
「いい匂い!」
「ねっ?ねっ?」
(そんなに押し付けるようにしたら
美味しいもんも美味しくなくなるよ?)
と、諭吉が思っていたら、
そのぽっちゃりした人が、
「そんなに言われたら、ホントに美味しくても
美味しくなくなっちゃうわよ。」
と、冗談ぽく笑って言った。
(そうそう。)
諭吉はその人が自分と同じことを感じていたので
少し嬉しくなった。
「かずは、どう?」
言われたそばから、友人は再び感想を聞き出そうと
少し前のめりになっていた。
(かずはさんって言うのか。)
かずは、と呼ばれた女性のほうに目をやると、
一口ケーキを口に入れたところで、
みるみる頬をピンクにさせ、
「お、美味しい!」
と、満面の笑みを浮かべた。
「え~っ、ウソ、
あのケーキ屋さんより美味しい。
こんなに美味しいの、初めてかも。」
そう言って、パクパクと残りも口に運んだ。
「でしょ?でしょ?甘さが絶妙でしょ?
しつこくないし。
そして、はい、誕生日プレゼント!」
(えっ、今日が誕生日?)
「えっ、えーっ。そんなのいいのに。
でも嬉しい。ありがとう!」
「今年は彼氏できるといいね。」
(彼氏はいないのか。)
「ふふ、それはお互い様でしょう?
でもとうとう30になったからなぁ。
親からも散々言われてるのよね。」
(30か…ひと回りも下だ。)
そういうデリケートな話題にも、
静かに穏やかに受け答えをするかずはに、
好感をもちつつ、諭吉は仕事を続けた。
カランカラン。
「やっほー。諭吉。」
「お、つぼみ。久しぶりだな。」
つぼみが1ヶ月ぶりくらいにやってきた。
「昨日の夜こっちに帰ってきたのよ。
ねぇ、何か新作ケーキないの?
甘いものが食べたくて。」
カメラマンとして
海外を拠点に仕事をしているつぼみは、
日本に帰ってくると、
必ず諭吉のカフェに顔を出していた。
「新作に限定しないでくれる?
ああ、そう言えば昨夜作ってみたのがあるよ。
まだメニューに載せてないけど。」
「わお!それ食べてみたい!」
諭吉は、ケーキを皿に盛り付け、
いつものコーヒーをいれた。
「ナニコレ!超おいしーじゃん!」
つぼみは手足をバタバタさせて喜んだ。
「え、ホントに?そりゃよかった。
じゃあメニューに入れようかな。」
「日に日にスイーツの腕をあげていくね、諭吉。
すずめちゃんのおかげかな。
食べてくれる人がいるといいよね。」
「まぁでも最近はすずめも家を空けること多くてね。」
「へえ、マムーとうまくいってんだ?
そりゃもう諭吉、すずめちゃんに
結婚、先こされちゃうかもね。」
「いいんだ、俺は。もう42だし。
お客さんに喜んでもらえればそれで。」
「嫁入り前の娘をもつ父親みたいね。」
そう言いながらも、つぼみは美味しそうに
新作ケーキをたいらげていく。
それを羨ましそうに見るかずはと
諭吉は目が合った。
ニッコリすると、かずはは、恥ずかしそうに
顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
かずは達はしばらくおしゃべりをした後、
席を立った。
伝票を手に取って全部支払おうとする友人に、
かずははビックリしていた。
「え、いいよ。プレゼントももらったのに。」
「いいの、いいの。今日誕生日でしょ?
奢られときなさいよ。
無理やり誘ったの、私だし。」
「えー、でも申し訳ない。」
「いいの!その代わり、私の誕生日は奢って?」
かずはは、レジでそのやりとりの結末を待ってる
諭吉を気にしながら、「わかった。ありがとう。」
と言って奢られることになった。
「レジ前で騒いですみません。」
と、かずはが一言謝罪を述べた時、
諭吉が、「いいえ。よかったらこれどうぞ。」
と、ケーキボックスを2つ渡した。
「今日お誕生日なんでしょう?
さっき聞こえてきたから。
中身は試作品のケーキなんで
サービスです。」
諭吉がそう言うと、
「あ、もしかして、カウンターの人が食べてた…」
と、かずはと友人は、おずおずと
箱を受け取った。
「おめでとう。」
「羨ましそうに見てたから
お気遣いいただいたんですね。」
かずはは恥ずかしそうに、
でも嬉しそうに笑って言った。
「えっ、いや、そんなことは…///」
「ふふ、冗談ですよ。
ありがとうございます。
遠慮なくいただきます。」
嬉しそうに笑って、かずは達は
ケーキボックスを手に店を去っていった。
「なーにー?諭吉の好きそうなタイプねぇ?」
「なっ。そんなんじゃない。
って何でお前が俺の好みとか知ってんだよ。」
諭吉は焦って真っ赤になった。
「五月が前に言ってた。」
「アイツ!」
ホント言うと、試作品のケーキをあげたのは、
好みの女性に対する、
ちょっとした下心もなくはなかったが、
かずはがあまりに美味しそうに食べてくれたので
もっと喜んでもらいたいのもあった。