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いつも通り、比企谷八幡の理屈は曲がっている

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「あたし? あたしは、なよなよした男は嫌いだし」

 けだるそうにしながら、川崎が答える。
 おまっ、せっかく戸塚に話しかけてもらったんだから、もっと嬉しそうにしろよ。

 ていうか話、だんだん脱線してないですか? 
議論の入りからして既におかしかった気もするが。


「じゃあさ、川崎さんはどんな男の人がタイプなの?」
 
 由比ヶ浜が興味津々というように川崎にぐっと近づいた。

「ち、ちかいんだよ!」
 川崎は逆に身をのけぞらせる。どうも女子の距離感は苦手らしい。

「あたしは別に、タイプとかないし……」
 
そういいながらなぜかまた頬に赤みがさしている。
 なんでいちいち赤くなるんだ?これは、まさか……。

「川崎。お前、もしかして……」
「な、なんだよっ」
 
川崎が胸の前で手を組んで身構えるようなポーズをとる。

「やっぱり熱あるんだろ。保健室、行くか?」
「ねーよっ!バカ!」
「なっ、バカとはなんだバカとは。せっかく人が心配してやったのに」
 
 思わず俺はむっとして言った。

「あんたに心配してくれなんて誰も言ってないでしょ?」

 ふんっと川崎は横を向く。

「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「そうそう、けんかはよくないよ?」

 由比ヶ浜と戸塚が、あわあわと俺と川崎の間で視線を泳がせながら、場をとりなすように言った。

「えーっとそれで、なんの話してたんだっけ? あ、そうそうニューハーフの話だよね」

 由比ヶ浜がポンッと手をたたく。

「わたしは、ニューハーフでもいいと思うよ。性格とかは人それぞれだと思うし。一つの個性なんじゃないかな?」
「個性か。そうだね。そう考えたら僕もニューハーフって肯定できるかも」
「まあ、そうも言えるかもしれないね」
 
 由比ヶ浜の意見に、戸塚と川崎が賛同する。
 まあ確かに俺も……。

 
 ってなんだよこれは! いつからこんな話になった!?
 そもそももっとちゃんとしたテーマがあるんじゃなかったか?

「ちょっと待てお前ら。この話は一旦置いといてだな……」
 
 俺がそう言い終わるか終らないかのうちに、平塚先生が、クラス全体に向けて急に呼びかけてきた。
 
「あー、そういえば一つ言い忘れていたが、この授業の終わりの5分前に、グループで話し合ったことを紙に簡単にまとめて提出してもらうからな」
 
 なに!?

「き、聞いてねーぞ!?そんなこと」
「当たり前だ、比企谷。私が言ってなかったのだからな。ふっ」
 片側の口角をあげて、平塚先生は堂々と言い放った。
 なんで普通なら申し訳ないの一言でもつけていいようなところを、ドヤ顔で言えるんだよこの教師。

 
 しょうがない。今までの話は取りやめて、新たに、テーマを軸に議論を展開するしかない。
 なんかそれっぽく言ってみたけど、要は振り出しに戻ったということである。
 
 どうでもいいけど、人生ゲームで振り出しに戻るっていうマスあるじゃん?あれって人生ゲームの世界観ぶち壊してるよな。だって俺らの人生に、過去に『戻る』なんて選択肢ないんだぜ?せっかくあっちの設定に合わせて、すごろくを人生に見立てて楽しんでみるかって思ってんのにな。あのマス止まると、あ、これはしょせんただのすごろくなんだって気付いて、急激に冷めるんだよな。
 
 
 おっと無駄なことを考えている時間はない。あとどれくらい時間が残っているだろうかと、黒板の上にかけてある時計を見ると、すでに授業終了時刻まで10分を切っていた。
 ちょっと待て!てことは提出まであと5分もねーじゃねーか!
 
 その事実を3人にいうと、彼女たちは自分たちの状況を理解したのか、そろってあたふたしだした。

「ど、どうしよ?ヒッキー!」
 由比ヶ浜は口に手をあて、涙声になっていた。

「今までのを書くしかねーだろ」
 それ以外に俺たちに選択肢はない。

「書くったって……。あたしたち書けるようなこと話し合ってないじゃん……」
 いつもは気の強い川崎も、今は弱気になっている。

「八幡……」
 戸塚が子犬のようにうるうるとした瞳を俺に向けてくる。

「これまでのをそれっぽく書くしかない」
 提出しないわけにはいかなかったので、それらしいことを書いてうまくごまかすことにした。

 時間もなかったので、書きなぐるようにしてがりがりと思いつきで書き連ねていく。大丈夫だ。俺は文章を書くのは苦手ではない。現代文で学年3位をキープしている俺の実力をもってすれば……。


 どうにか最後まで書き終えたとき、ちょうど平塚先生の声がとんできた。

「終了だ。では、各グループで紙を持って来てくれ」

 他のグループに続いて、俺も書き上げた用紙を提出する。


 平塚先生は、ふむとかなるほどとか言いながら、受け取った紙をぺらぺらとめくった。しかしあるグループの用紙にきたところで手が止まった。

「おい比企谷」
 用紙に目を向けながら、平塚先生が低い声で俺の名前を呼ぶ。
 
 名指しかよ……。そこはグループ3とかで言ってくれよ。しかもなんで俺だけなんだ。

「なんでしょう?」

 俺は目を伏せながら、できるだけ平然と答えた。

「これはなんだ?」

「書いてある通りですが?」

 俺が口答えすると、平塚先生は俺のことをぎろりと睨み付けた。そして、ごほんと一つ咳ばらいをした。
 
 なにかと思い顔を上げると、平塚先生は、一枚の紙を片手で自分の目線の高さまで持っていってから口を開く。

「『これからの女性の社会的立場』ということを考える前に、まず我々は、ここでいう『女性』の定義を考える必要がある。」
 
 なっ……!
 これは俺が書いた文章の第一文である。俺が驚きで声を出せないでいると、平塚先生はなおも続ける。

「なぜなら、核となっている部分が明確になっていないままで全体のことに関する議論をすることは、砂上に楼閣を建立するがごとき無意味な行為だと言えるからである。現代社会において、男女の境界はだんだんとあいまいなものになってきている。テレビではニューハーフという新しいジャンルの枠を肩書にしたタレントが人気を博し、アパレル業界においても、ユニセックスというのは、まさにこれから主流になっていくであろうファッション形態の一つとなっている。こうした中で我々は、ただ生物学的情報によってのみ性別を判断するというこれまでの時代錯誤の判断基準を見直し、見た目や当事者の意思などの、新しい判断基準を据える必要があるのではないだろうか。結論を言おう。ニューハーフは女性である!」
 
 俺が書いたことをすべて読み上げた平塚先生は、ふうとため息をついた。


「改めて聞こうか、比企谷。これはなんだ?」

「だから、これからはニューハーフの人も女性として見ていこうという……」
 
 俺がごにょごにょと書いたことの説明をしようとすると、平塚先生が遮った。

「比企谷!」
「はいっ」
「昼休みにいつものところに来い。逃げるんじゃないぞ?」
 
 そう言って平塚先生はにこっと笑顔を見せたが、こぶしが思いきり握られているのを俺は見逃さなかった。