Love me tender前編
だが、つくしのバイト先の前で、いつまでも話しているわけにもいかず、司は自ら後部座席のドアを開けた。
「家まで送る。乗れよ」
「え…あ、ありがと…」
司も乗り込みドアが閉まると、車内の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、つくしに手渡した。
「ほらよ」
「ありがとう…。今日、どうかした?」
「ああ、おまえに聞きたいことがあって」
司はそう言うと、つくしを真剣な瞳で見つめた。
この男の美貌を見慣れているとはいえ、いつもの表情とは違った顔で見つめられて、つくしは熱くなる顔を誤魔化すように、視線を逸らした。
「な、なによ?」
「おまえさ…」
つくしは何を言われるのかと、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「なんで俺は道明寺なわけ?」
意味が分からない。
あんたは、産まれた時から道明寺でしょうよ…。
「……はあ!?」
「だからっ、類のことは名前で呼んでんだろ!?なんで、俺は名字なんだよ」
「それは…類のことは、花沢類って呼んでたから、それが短くなっただけだよ」
そんなことか…と、つくしはホッと肩を撫で下ろす。
思えば類と名前を呼び始めたのはいつだったか…。
あまりに自然に変わっていったために覚えてもいない。
大学に入ってからだとは思うが。
*
つくしに道明寺と呼ばれるのが嫌なわけではない。
ただ、いつの間にか類のことを名前で呼び出し、それがキッカケかは分からないが、2人の距離が近くになったように感じた。
つくしが類と名前を呼ぶたびに、2人の間にしかない甘い空気に包まれているようだった。
そのことが、司を苛立たせる。
まさか、自分が1人の女にこんなにどっぷりとハマることになるとは…。
司が、つくしへの気持ちを親友たちに話すことはなかった。
隠しているわけでもなかったので、バレてはいるかもしれないが。
総二郎やあきらはさておいて、類もまたそういうタイプではなかったはずだ。
それ以前に、類が静以外の女を好きになることがあるとは思わなかった。
だから、つくしの側に類がいても大丈夫と、油断していたのかもしれない。
それが最大の誤算。
今の類はつくしへの恋心を隠そうともしない。
司の気持ちにも気付いた上での、宣戦布告のようなものだ。
「じゃあ1回だけでいいから、司って呼べよ」
「はあっ!?無理無理無理っ!」
「1回でいいって言ってんだろ?」
「えええぇ〜」
「なあ…1回だけ」
本気で嫌がるつくしに、世界の道明寺司ともあろう人が、最後には懇願するようにつくしを見る。
「も〜!1回だけだからね!」
「おう」
「つ…つか、さ?」
「あぁ〜っ、もうっ!恥ずかしいっ!もう呼ばない!」
真っ赤な頬を押さえながら、足をバタつかせて恥ずかしいと、怒ったように司を睨んだ。
その顔が可愛くて、可愛すぎて、このまま帰すことなど出来るはずがなかった。
司は思わず手を伸ばし、つくしの腕を掴んだ。
「な、にっ?」
車のシートに身体を押し付けて、顎を押さえ上を向かせる。
司の突然の行動につくしは身動き取れずにいた。
その間に、深く唇を合わせる。
司の舌が、口腔内を蹂躙するように動くと、つくしの身体から力が抜けた。
「んんっ…はぁ…ん」
「なぁ、類のことが好きか…?」
「はぁっ…なに、すんのっ…」
唇が離れた隙に、司の腕から逃れようと身体を捩るが、気付いた司にさらに強く押さえられる。
ついには、シートの上に押し倒されてしまった。
「まぁいいや、聞きたくねぇし…。今は俺に溺れてろ…」
潤んだ瞳で荒い息を吐く唇を、上唇、下唇と舐めていく。
「はぁ…ど…みょ…じ」
一瞬の息を吐く隙をついて、歯の間から舌を滑り込ませると、つくしの舌と自身の舌を絡ませる。
「んん…あっ…はぁ」
司に送られる唾液をコクッと飲み込むが、飲みきれない唾液がつくしの顎を伝い流れ落ちた。
薄手のシャツの上から、胸の膨らみを揉みしだくと、身体がビクリと跳ねた。
「やぁっ…」
「好きだ…」
***
作品名:Love me tender前編 作家名:オダワラアキ