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緑と傍らの鷹

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 どの様な状況であれ冷静さを、
 攻撃を組み立てていく頭を、
 体力、長所短所、コート上のメンバーの癖と配分を考える事を。
 ……早くも、全てがもうどうにもならぬ程差が顕れてしまった。
 それでも、俺が望みを絶ったらいけないんだ。
 「行きましょう。」
 いつもの明るい顔で一瞬、表情を消し相手の15番……常勝不敗を誇る帝光中のスターティングメンバーの中で辛うじて最も隙を突けそうな小柄の少年に僅かに目を向け、メンバーに目配せする。
 第二クォーターの中盤。キセキの他の四人……黄のSFも中学生と思えない大柄のCも、勝負にすらなっていないがこうして自分がへばり付いて対峙しているPGの主将も……も、全て極めて攻撃的な個人プレイで点を取りに来ているが、小柄な15番だけ一回もシュートをしていない。つまりシュートは不得手と言う事なのだろう。
 だから、あっちの唯一の弱点と言えるそこから突いて……そう目配せをした。
新鋭の強豪校の二年生の主将、高尾にチームメイトであり先輩でもある四人の表情が映る。
 「……ホントに、邪魔。」
 Cがしっかりしているチームは強い。ペイントエリアでの位置取りが上手く、背の足りない自分の動きを補ってくれたそのCと、名リバウンダーと評価の高いPFの先輩達を道端の小石除けるかのように飛ばして億劫そうな仕草でダンクシュートを打った相手チームのC、紫原。
 倒れて一時的に意識を失い強制的に退場となった二人と交代した控えの三年のCとSFは、試合時間にしてつい二分程前にコートに入ったばかりだが、高尾の目には汗をかいている様が見える。冷や汗なのだろう。
第一クォーター目から今迄ベンチで、帝光中と青峰を除くキセキの強さを目の当たりにして試合前までの戦意が失せ、スターティングメンバーのCとPFを一度に潰したこいつ等と向かい合わなければならないのかと、ただ恐怖の思いなのだろう。
 ……何の為の目持ちだよ。俺が危ないと声を掛けていれば。
 中に拘ったのは自分が赤司と戦って負けると分かっていて、それが怖くて嫌だったから。
 だから。
 だからCとPFとSF中心のゲームメイクを。そうして俺は逃げて、
 俺がもっと……どうにかして赤司を抜いて自分から攻めていれば。
 先輩達の中学でのバスケを、俺が壊してしまった。一見は明るく人懐こい表情の下で、そう高尾は自分を責める。
残る二人を一瞥すると、このWC中では試合毎に高得点を叩き出していたスコアラーの三年のSFははっきりと首を横に振り、慎重であると同時に逆境に弱い三年のSGを見ると、何とかしてくれと訴えるような眼差しでこちらを向いて来た。
 ……ウチは強い、と。
 このチームは数年で実力と評価が右肩上がりとなり、他の強豪や古豪との試合に勝ち続けて来た。
 WCで全一の帝光中と当たる事が分かった時にはベンチも、スターティングメンバーも、監督まで全ての部員の顔色が真っ青になったが、全力で当たって行こう、もしかしたら新鋭の強豪校と謳われる自分達であればあるいは……と声を掛け合い、まるでそう願えば叶う筈のない悲願が叶い、やって来る結末から目を背けるかのように一層の練習を重ねていた。
 ……ダブルスコアであればまだ良かった。
 第二クォーターが終盤に差し掛かり、最早三倍近くにまで膨れ上がったスコアを睨むように眺めて高尾はそう思う。
 新鋭の強豪校、と一般に認知されるようになったこのチームの中心に存在し、スタメンとしてPGの控えやPGへの転向者も多いSG達への個人指導を行い、時に主将として全体への指示を出して昼休みになれば昼食を手早く済ませコンピューター室に籠り帝光中の試合を見続け、見逃していたいた記事があれば国会図書館に印刷を依頼し、キセキのメンバー達の記録を辿った。
 それらを基に数十の攻守のパターンを考え、この試合で自分の目を潰す事を前提にシミュレートし。
大抵の事があろうと後ろ向きの思考にはならない性質だと自覚しているが
 (……勝てない)
 それを誰よりも分かってしまっていた。
 ……馬鹿、そう言う事を思うな。
 俺が今考える事はチームの事だけだ。
恐らくは国内の中学生最強のプレイヤーだろう。どこか禍々しくすら見える威圧を放つ、帝光の一番の赤の輝きを前にしながら、高尾はただ念じるように、そう思う。
 ……ウチを強豪校に仕立てた先輩達。
 手を上げ絞り出すように声を出すベンチと応援席の者達。
 そして強大過ぎるキセキ達に震え圧倒的な力の差に怯えの色を濃くしながらも自分の指示に応じ、頼りとしてくれる仲間。
 彼等はいつもこの心の中にいるのに。
 (……無力だ。)
 黒の前髪から伝う、汗ではない水分が満ち、高尾の眼前がぼやける。
 泣くな。
 今までどんな試合であっても、主将の肩書の圧力に潰されそうになっても人前で泣く事だけはしなかった。
 弱さは誰にも見せたくない。見せない。
 だから俺はこの先ずっと誰と居る時でも涙を流す事はないだろうと、高尾は漠然とそう思う。
 先輩達より一年、経験の浅い自分がこの強豪校で主将をやらせてもらっている。
 その理由はただ……ひとえに、この天を翔ける鳥のような目と、……前しか向いてないこーゆー性格だけ、だから、俺がこんなんでどうする。
 そう思う直前に眼前で対峙する帝光の四番……赤司がふわりと笑った。
 「……分かっている。分かっているよ」
 緩やかな……極めて穏やかと言って良い、その顔の笑みであるのに。
 ―…?!
 ぞくりと、その様に高尾が震えたのと自分の鷹の目であれば辛うじて捉えられる程の高速で半身を引いてバックターンした右足を一歩、突き出した男の言葉……
 口の動きはそれも同時であった。
 「健気でしかし憐れな。無力な、だから愚かな君が涙を流す事は」
 そう言っていた。否、“目持ち”の自分だけに唇の動きを読ませた。
 ただその様に心底戦慄し。直ぐに
 (……マズい!!)
 帝光中のOFは3on2、内の一つ、キセキの黄はとうの前にウチのスコアラーのSFのDFを躱してスリーポイントラインの内側へと入り込んでいる。
 その方向を碌に見もせずに……この男にもある程度が“見える”のだろう。
ほぼ真横へのパスを繋げる。
 黄の髪の男がそれを受けると、観戦席の方々から高い声が上がる。
 整った顔の男だった。
 試合前に観続けていた映像で幾度も確認したそのままの速さでペイントエリアまで駆け、後ろを追うSFと、打たせまいと外へ出そうとするCのDFを造作なくあしらいレイアップシュートで加点する。
 音を立てバックボードに当たり、ネットを潜り落下するボールを背に、黄瀬は呟いた。
 「……価値無いっスよね」
 何を言ってるんだ。
 形良く整えられた眉を下げ、そのまま続ける。
 「……強豪校だから?せめて?もう少しやってくれるのかなって思ってたんスけど、これじゃあ……」
 僅かにちらりと高尾を見て、また呟き続けた。
 「……せいぜいそこの四番の人以外。俺が……模倣する価値もない」
 「……」
 手を挙げる事が出来るのであればそうしたかった。
 お前達に何が分かると。
作品名:緑と傍らの鷹 作家名:シノ