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緑と傍らの鷹

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 ……しかしそうすれば高尾は即退場となり、これは自惚れなどではなく自分がここに残らなければ。
 (……このチームの心が折れて動けなくなる)
 自分以外のメンバーのスタメンの三年生の先輩達にとって、これが最後の公式試合になってしまう。その最後に悔恨しか残らないままで送り出したくはない。コートに立てなかった控えや応援席のメンバーに、一人一人がありもしない限界の思いを持たせたくない。
 これから無得点であろうと、俺の心など潰れてしまっても良い、
 この目が壊れる寸前であろうと、俺はここにいなければいけない。
 ……安い挑発っすよ。
 怒りの表情もなくただ暗い目をした先輩のSFにゆっくりと声を掛け、ボールを持ち高尾は動き続ける。

 ……自分は。
 日頃から滅多に笑う事はしない。
 幼い時からそうであったし、自分を律する為に表情を露わにする事を戒め、いつからかそれが常となっていた。
 しかし。
 眉が上がる。比較的親密な関係の赤司と紫原であれば今の己の表情についてなぜ怒っているのかと聞き、他の四人……青峰と黄瀬と黒子と、マネージャーの桃井であればその険しさにびくりとするだろう。
 緑間は不機嫌だった。
 彼が常日頃から信奉する星座占いの順位は七位。良くも悪くもない。
 超一流のプレイヤーとして体調管理にも万事、気遣っているから自分に非はない。
……クソが。
 自分の性質がもっと品性に欠けるものであればそう言っていたかもしれないと、緑間は舌打ちする。
その様に、こちらに対するものなのかと相手チームのSGが反応し、怯えた。
 コート上で存在を消す黒子と目が合えば、彼もまた若干の呆れた表情を浮かべ、しかし私情は一切不要だと言わんばかりに淡々と動いている。
 (……奴の悪癖だ。)
 苛々としながら溜息を吐く。
 主将の赤司はつまらん世辞を抜いて、紛う事無く中学で全国一のプレイヤーだろう。
 例えば五人の中で一番大柄で力押しの出来る紫原辺りが牙を向けたとしても敵うかどうかは分からない。
 それ程の力を持つのに、時々こうやって……対峙するPGで「遊ぶ」癖がある。
 (ただしそれは奴が遊ぼうと……小指の爪先程度の興味であろうが、そう思わせる実力を持った者限定ではあるが)
 (……)
 緑間の目から見て、今回その対象となった相手……四番のPGは長身でもなく、それについては寧ろ小柄で細身で、身体能力については確かに強豪校の四番らしいし、帝光中の一軍では十二分にやって行けるであろうとは思うが、目を見張る程のものではなかった。
しかしあの化物……主将である赤司が構ってやっているのだから、自分は知らんが何らかの相通じる力を持っているのだろう。
 その「遊び」のお蔭で赤司と、コートに出ればその指揮に絶対的に従う黒子からの緑間へのパスが少ない。
もう、どう足掻いても勝てん試合だと分かり切っているのに、気紛れで遊ばれている相手のPGの抵抗についても無駄な事をと思う。
 ……こいつはどこまで僕と向かい合えるか、
 どこまで力を出せば壊れるのか、
 おもちゃと遊ぶのは、少しだが楽しい。
 その赤司の気配が、背中越しでも見えるかのようだった。
 第二クォーターの終盤になりながらも、緑間は未だにノルマの20点を果たしていない。
いつも順調に加点していく彼にとって珍しく、重大な事態であった。
 (……今俺は黄瀬よりも点を取っていない。)
 その事実がキセキの中で最もプライドが高いと言い過言でない緑間に大きな屈辱となり圧し掛かる。
 持ち掛けられた下らん賭けと、その内容の一週間の昼飯代をおごる事については全く構わず、その程度の金であればいつでも全額を手に取る事も出来るのでどうでも良い事だった。
 しかし、何故日々鍛錬を積み重ねているこの俺が、言わば新参の黄瀬に負けなければならんのだと。
 ……相手チームのSGは話にもならん、
 黒子、俺にパスを出せ
紫原の言葉を借りればお前が瞬時に捻り潰せる相手にそんな向かい合ってやる事はない、だから赤司、俺にボールを回せ。
 心の中でそう吠え、緑間は目を吊り上げる。
 緑間の表情に気付いたのだろうか。まるで……鷹のような。
 相手チームの四番の鋭い目が驚きと、ほんの一瞬だけ、憐みを孕んだ悲し気なものとなる。
 負けが決まっている貴様等に何故憐まれなければならんのだと、その表情の変化に緑間は言い様のない怒りを覚えた。
 そして漸く待っていたパスが通る。
 視界の端でタイムを捉えると、第二クォーター終了まで後数秒に迫っていた。
 このボールは俺のものだと、他のキセキ達に負けてはならないと言う思い、俺のシュートは誰にも邪魔をさせんと言う、強い我を幾つも抱えたまま、センターサークルの端で、駆け続けていた足を止める。
軸足は左。両膝を大きく屈め最大限に半身の力を両肩に伝える。
生来の恵まれた長身故に長いリーチを持つ左腕にそれらの力を乗せ、そのまま跳ぶ。
 対峙するSGの目が驚愕で見開かれたのと、
 センパイ、撃つ、……気を、と、相手の四番の途切れ途切れの叫びが響いたタイミングは後者が先だった。
 何故分かった、と気には掛かったが、分かった所で
 (……俺のシュートは誰にも止められん。)
 絶対の自信を形にしたシュートが、ネットに掠りもせず空を一閃する。
 四番を除いた相手チームのメンバー達の絶望の表情と、静まり返る会場のまるで自分を化物を見るかのような空気。
 無礼な。日々の努力で俺はこうなのだよと。
 帝光中のスコアが3動き、第二クォーターは終了した。
作品名:緑と傍らの鷹 作家名:シノ