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ぐらにる たまご

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 あと、これを返して謝っておいてね? と、ライルはニールの携帯端末を刹那に預けて出かけた。ニールの仕事は、まだ残っていた。というか、すでに予定に入っていたもので、元々、ライルがロックオンとして引き受けたものが大半だ。休暇前のニールが引き受けていたミッションも完了している。ティエリアが応援を依頼しただけで、これはニールのミッションではなかった。


 その日の夜に、グラハムが現地に現れた。時間から推測すると、御馴染みのグラハムの愛機スサノオにブースターつけて大気圏航路で吹っ飛んできたらしい。
「姫は? 」
 病院の玄関で待ち構えていた刹那から詳細を説明されて納得がいった。姫が、遅れるなど滅多なことではない。何かしらのアクシデントだったのだろう。
「二の姫が、姫の真似事をして連絡してきたから確信した。」
「すまない、グラハム。ロックオンはトップシークレットだ。」
「いや、それについては熟知している。・・・・きみが知らなかったのだと思っていた。きみなら、即座に私に連絡をくれたはずだ。」
 刹那はニールに教育係をしてもらっていたから、グラハムとの経緯を見ていた。この男なら、ニールも幸せになれるだろうと認めている。グラハムも刹那には絶大の信頼を寄せている。なんせ愛しの姫が手塩にかけて育てたマイスターだ。ある意味、姫の子供のようなものだから、グラハムも、そんな気分で接している。病室の手前でティエリアは待っていた。深く頭を下げて詫びる。もちろん、詳細は話せないから、ニールの負傷は自分のミスだと言っただけだ。
「いや、ティエリア。どうせ、姫が庇ったのだろう? 姫は、きみたちマイスターが可愛くて怪我をさせたくないと常々、言っている。だから、気に病まないでいい。」
 そういう気持ちは、グラハムにも理解できるから微笑んだだけだ。どうせ、ティエリアがミスって対処できなくて庇ったのだろうと推測できる。
「・・・すまない・・・ニールは意識が戻ると、時間ばかり気にしていた。帰りたかったんだと思う。」
 たまに意識が戻るのだが、その時に日付けを尋ねて、やばい、まずい、と、繰り返していたらしい。それだけで、グラハムは笑顔だ。
「くくくく・・・そうか・・・姫は、さながらシンデレラだったのだな。まあいい。ガラスの靴を持参するのは王子の役目だ。ここからは、夫である私が付き添う。それでいいか? 刹那、ティエリア。」
「そうしてくれると、こちらも有り難い。」
「では、そうさせていただこう。」
 簡単な打ち合わせをして、病室に入ると、わたわたと足や手が揺れている病人が居た。駆け寄ったら、ニールは意識を取り戻していて、やばい、まずい、と、また繰り返している。
「ニール、落ち着け。亭主が来た。」
 刹那が声をかけると動きが止まる。それから顔を出したグラハムを見つけて、ほっと息を吐いた。
「・・・ごめん・・・遅れた・・・」
「なに、大したことではない。どうせ、私は休暇中だ。きみの看病をさせていただこう。」
 姫の頬に手をやって、グラハムは微笑んで、バードキスをする。まあ、いろいろと、この商売にリスクはつき物だ。生きているなら、それでいい。ニールも、ほっとしてから、厳しい視線に気付いた。無口で無愛想な子供が睨んでいる。
「・・・刹那・・・どうした? ・・・」
「おまえの様子を笑いに来た。ウェットスーツの下に暑くてもジャージを着ろ、と、言ったのは、あんたのはずだ。なぜ、着ていなかった? ティエリアには着せていたくせに。」
「・・・う・・・」
「咬まれたら、毒がある、と、説教もしただろ? 」
「・・・痛いだろ・・・ごめん・・・」
「あんたが痛いのも同じだ。しばらく、ロックオンはライルに任せる。あんたは待機だ。」
「・・え・・・」
「オーバーワークは認めない。やりすぎだ。」
 ただいま、マイスター組リーダーは刹那だ。ニールといえど、その命令には従わなければならない。休暇前に詰め込んでいたミッションで、十分にニールは働いた。少し休ませるのは、刹那にとっては当たり前だ。
「・・・すいません・・・・・あの・・ティエリアは悪くない・・から・・・その・・・」
「わかってる。そちらはアレルヤを出した。現在、ミッション遂行中だ。・・・グラハム、では頼んでいいか? 」
「ああ、お任せあれ、だ。刹那。姫は私が大切に保護しておく。連絡ありがとう、感謝する。・・・姫が、退院したら、うちで食事でもしないか? 」
「わかった。メールをくれ。」
「ニールは、あと二日は経過観察だ。何事もなければ退院できる。」
「そうか、ティエリア、きみも来るといい。」
「いいのか? 」
「もちろんだ。きみたちからニールの話を聞きたいと思っていたんだ。姫は恥ずかしがり屋さんで、私には日常のことを話してくれない。」
「スケジュールに問題がなければ。」
「空けてやる、ティエリア。アレルヤにも連絡しておく。ニール、メシを食わせろ。」
「・・・うん・・・ティエリア・・・おいで? 」
「はい、伺います。」
 では、俺たちは、これで退散する、と、刹那とティエリアは病室を出た。予定を空けるとなれば、ミッションをクリアーしなければならない。それを見送って、やれやれとグラハムは看病用の椅子に腰掛けた。
「意識は、はっきりしているのか? 痛いところは? 」
「・・あー・・・ちょっとぼーっとしてるかな・・・結構、咬まれたらしくて・・・ちくちくしてる・・・」
「くくくく・・・・ぐったりした姫も、たまにはいいな。とても可愛い。」
「・・・ごめんな・・・間に合うはずだったんだ・・・」
「仕事ではしょうがないさ。二日で退院なら、そのあとは、ここいらのホテルで、ゆっくりしよう。帰りはスサノオだが、構わないか? 」
「・・・飛んで来たのか? ・・・」
 グラハムの愛機でやってきたということは、慌てて駆けつけてくれたらしい。
「姫が負傷となれば、騎士の私が駆けつけずにはおれない。大したことがなくてよかった。」
「・・・あははは・・・海蛇の毒くらいじゃな・・・」
 実戦経験が豊富にてんこ盛りな夫夫なので、これぐらいだと大したことではない。様子見の入院だから、慌てることもない。グラハムもニールの居所は把握していた。まあ、いろいろと伝手があるから、そこから探り出して準備していたら、刹那からの連絡だ。だから、摂るものもとりあえずという風情ではない。
「・・・なあ・・・俺・・・着替えがない・・・」
「ああ、そうか。用意させていただこう。お揃いというのは、いかがだろうか? 姫。」
「・・・やだよ・・・せっかくだから・・・フルーツ食べたいな・・・」
「あいわかった。明日、ドクターに確認して食べられるなら用意しよう。・・・・他には? 」
「・・・そばにいてくれ・・・」
「もちろんだ。」
 ちゅっとバードキスして、二人は微笑む。とんだ形のホリデーになったが、まあ、いつも通りではあるらしい。
作品名:ぐらにる たまご 作家名:篠義