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不釣り合いな僕達 零

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最初は、すごく怖かった。



「いやだ!放せ…!

忍術学園の休日。
実家に帰り、家の手伝いも済ませて遊びに出かけた帰り道でのこと。
庄左ヱ門は何者かに見張られている気配を感じて立ち止まり、辺りの様子を窺った。
すると道の脇の林から赤い影がいくつか飛び出した。
それは庄左ヱ門を取り囲み、逃げ道を無くした。
赤い影は、よく知った、忍者。

「庄左ヱ門、一緒に来てもらう。
「やだ!…放せ!

いつもはお茶目でどこか緊張感の欠ける存在だが、一応世間では戦好きの悪いドクタケ城に仕えるドクタケ忍者隊が庄左ヱ門を取り押さえる。
抵抗しても一人の子供と複数の大人の力の差は歴然だった。
ドクタケの赤いサングラスが鈍く光っているように見えて、庄左ヱ門はいつものドクタケ忍者と異なる雰囲気に年相応に怯えていた。

「…っ!

口を塞がれたかと思うと急に体から力が抜け、意識が遠のいた。
まどろむ意識の中で何かを被せられたところまでは覚えていた。



次に庄左ヱ門が認識したのは冷たい床板だった。
薄く目を開けると、どこか部屋の中に横たえられていたようだった。
体を起こすと、特に傷を負わされたこともなく、拘束されているわけでもない。
部屋の中は埃っぽくてあまり使われていない山小屋くらいのようだ。
子供でも通るには小さすぎる窓の向こうは緑色の木々が連なっている。
部屋の唯一の出入口の戸は当然ながら開かない。
どうやらドクタケ忍者に連れ去られ、小屋に閉じ込められてしまったようだ。
何度かドクタケに捕まったことはあるが、やはりと言おうか『あの』ドクタケに捕まるのはいつでも悔しい気分になる。
その時はいつも何かしらの手がかりを忍術学園の先生方、またはクラスメイトが把握していて無事に助かっていた。
だが今回は今までより状況が悪すぎる。
さらわれた時、庄左ヱ門は一人だった。
人通りの少ない道だったから恐らくさらわれる現場を目撃した人はいないだろう。
そして、忍器も含めて持っていた荷物は気を失っている間に全て抜き取られていて、逃げ出すことも外に連絡する術も絶たれている。
自力での脱出も外部からの救助も期待できなかった。
帰らない庄左ヱ門を心配した彼の祖父が、学園関係者に相談すれば先生が助けに来てくれる可能性もある。
しかしそれまでの間に、自分の身に何かされるのではないかと、先程のドクタケ忍者のいつもと違う様子を思い出すと考えてしまう。

(助けて…、山田先生…土井先生…!みんな…!

不安で心が押し潰されそうになった時、戸の向こう側から声が聞こえた。

「お前達は外でしっかり見張っているように。

聞こえた、低い男の声にそれが誰であるのか予想はついた。
すると潰されそうだった気持ちが少し軽くなった気がした。
だがそれもすぐ元に戻ることになる。

ばたん!

戸を開けたのは、ドクタケ忍者隊の首領・稗田八方斎。
予想通りの人物が現れてなぜかほっと息をつく庄左ヱ門だったが、その様子が…他のドクタケ忍者と同じくいつもと違うことに気付き思わず呼吸が止まる。

「ククク…、ようやく、この時が来たな。

後ろ手で戸を閉めると、八方斎はゆっくりと庄左ヱ門に近付いていく。
低く笑いながら歩み寄ってくる八方斎に、庄左ヱ門は足が震えた。

「八方斎…!
「やっと二人きりだな…。
「な、何が目的だ…!

少しずつ詰め寄ってくる八方斎から逃げるように後退するが部屋は狭く、あっという間に壁際に追いやられて庄左ヱ門と八方斎との距離はあと一歩の状態になった。
威圧に負けじと鋭く言い放つと、対する八方斎は口の端を吊り上げて追い詰めるように言った。

「何って?君は忍術学園の優秀な生徒…、ワシはドクタケ忍者隊の首領…。やることなど決まっているだろう…?

庄左ヱ門は歯を食いしばり、さらに続けた。

「ぼくをドクたまにするのか…?

あるいは人質に取るか…。
その質問には短く笑うのみで八方斎は庄左ヱ門に手を伸ばした。
身の危険を本能的に感じたが威圧感に圧倒されて動けず、きゅっと目を瞑った。
作品名:不釣り合いな僕達 零 作家名:KeI