不釣り合いな僕達 零
「これからワシは、見張りのドクタケ忍者を集める。庄左ヱ門くんはその隙に小屋の隠し扉から逃げなさい。
「逃げるって…、ぼくの荷物、取られたままなんだけど。
用が済み八方斎から逃げる方法を教えられている庄左ヱ門は、荷物が取られたままであることを伝えた。
すると八方斎は部屋の隅に置いてある木の板をどかし、その下にあったからくり仕掛けのスイッチを押した。
「大丈夫!これで荷物をこの部屋に来るようにしてあったんだ。
「はあ…。
壁の一部がばたんと倒れると、庄左ヱ門の荷物がころりと転がってきた。
いったいこの小屋は何のために作られたのか、興味はあったが今日はこれ以上八方斎と関わっていたくなかった。
「じゃあ、ワシが外に出てドクタケ忍者を集め終えたら大きな咳払いをする。
「それが隠し扉を開ける合図ってことか。
「その通り。さすがは庄左ヱ門くんだ!
褒められているのに庄左ヱ門は何とも複雑な気持ちだった。
「できれば普通に相談に来てくれると助かるんだけど。
「ワシもそりゃあしたいよ!でも~ほら、ワシと庄左ヱ門くんの立場を考えると…やっぱり、ねぇ?
「…ドクタケの首領って、やっぱり大変だね。
これ以上話が続くと面倒だった庄左ヱ門は自分から切り出した話を終わらせた。
八方斎は部屋の出口の戸のところで庄左ヱ門に合図した。
庄左ヱ門は隠し扉の前…小さな窓の下の壁の前で待機した。
その近くに一ヶ所だけ周りとほんの少し色が違う床板があり、それが隠し扉のスイッチなのだ。
八方斎は歯を見せて笑うと、一瞬で表情を作り変えた。
「ふん!少し時間をやる、よく考えるんだな!
外に聞こえるように大きな声で言うと、戸を開いて部屋から出ていった。
ふー…と力を抜く庄左ヱ門だったが、まだ油断できない。
下手なタイミングで隠し扉を開けてしまえばドクタケ忍者に見つかってしまう。
八方斎の咳払いを聞き逃すまいと外の気配に集中する。
「ドクタケ忍者隊、集合!
その声にたくさんの足音が小屋の外で動いた。
庄左ヱ門は緊張した。
ここまで八方斎を信じてきたが、最後に何か仕掛けてくるのではないかと。
むしろ隠し扉はなくて別の仕掛けになっているのではないかと。
その時、
「ぅぉあっおっふぉあん!
だいぶ長くて大きい、わざとらしい咳払いが聞こえた。
庄左ヱ門はずっこけそうになりつつスイッチをぐっと押した。
「わっ!
押した途端庄左ヱ門の体は坂を滑るように小屋の外へ転がった。
痛がっているひまもなく庄左ヱ門は立ち上がり、小屋を背に真っ直ぐ走った。
八方斎からその方向に行けば元の道に戻れると教わっていたからだ。
振り返らず走っていると『庄左ヱ門くんへ』と書かれた右を指す矢印が書かれた板が木の幹に打ち付けられていた。
呆れながら一応矢印に従って走ると、またその先に同じような矢印看板があった。
いくつかその看板の通りに進むと、突然木々の連なる林を抜け、よく知った街への道に出た。
「本当に…帰れた…。
庄左ヱ門は八方斎の言う通り、無事に帰ることができた。
そっと握っていた手を開き、持っていた物を見つめた。
あの小屋の場所を忍術学園に知らせることができるように、目印にしようと思って荷物から取り出した小石だった。
しかし小石の数は小屋を出た時から減っていなかった。
「……、人が良すぎるかな、ぼく。
ぼそりと呟くと、庄左ヱ門は小石を荷物の中に戻した。
そのすぐ後で聞き馴染んだ老人の声がした。
「おぅい、庄左ヱ門!
「あ、じいちゃん。
帰りが遅くなったのを心配した庄左ヱ門の祖父が迎えに来たようだ。
背中には庄左ヱ門の弟の庄二郎が兄の姿を見つけてにこにこ笑っている。
「おーおー、こんなところにおったのか。随分遅かったから心配で来てしまったぞい。
「ごめんねじいちゃん。ちょっと…寄り道しちゃって。
そこでも庄左ヱ門の口からドクタケのことは出てこなかった。
「うむ。子供は元気が一番じゃ。じゃがこの辺りは人通りも少ないし、人さらいが出たら大変じゃ。寄り道するならもっと街に近い場所にするんじゃぞ。
「はーい。
「たー♪
「あっ、じいちゃん。ぼくが庄二郎おんぶするよ。
庄左ヱ門は祖父の背中でぱたぱたしている庄二郎を見て自分におぶさりたいんだとわかって申し出た。
「庄二郎も庄左ヱ門が早く帰ってこないか待っていたんじゃぞ。
「よいしょ。そうなの、庄二郎?
「たぁ、たぁ。
弟を背負って聞いてみたが、まだ赤ん坊の庄二郎は笑うだけだった。
祖父は、庄左ヱ門から渡された荷物を受け取っていた。
「おや?このおまんじゅうはどうしたんじゃ?
「え?
少しだけ荷が解けていて、その隙間からまんじゅうが顔を覗かせていた。
「出かける時は持っていなかったじゃろ。はて…?
庄左ヱ門は、思い当たる節があってくすりと笑った。
小石を取り出した時は慌てていたから気付かなかったけれど、きっとその時にもあったに違いない。
(お礼のつもりかな…。
「寄り道した先で買ったんだ。じいちゃん、食べていいよ。
「そうか、それじゃあ遠慮なく。
庄二郎は安心したのか兄の背中ですうすう眠り始めた。
祖父と共に家路について庄左ヱ門に日常が戻った。
最初はすごく怖かった、でも
大きな腕に抱かれたら嘘とは思えなくなった。
「うぬ~、まんまと逃げられてしまった…!
「どうして外に出られる隠し扉なんか作ったんですかー?
「しかも取り上げた荷物まで、からくり仕掛けのせいで取り返されちゃうしー。
「折角買ったおまんじゅうまで取られちゃうなんて。
「完敗ですね。
「えーい!お前達がちゃんと見張ってないからだっ!
「忍たま一人捕まえておけないなんて。
「八方斎様、諦めましょーよ。学級委員長の庄左ヱ門をドクたまにしようなんて。
「いーや、諦めない!今度は絶対に!ドクたまになるまで帰さないからな…!ガッハッハッハ…は?
でーん!
「おまえらー、おこせー!
「「「はぁー…。
つづく
作品名:不釣り合いな僕達 零 作家名:KeI