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橋から落ちた後

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遠のいていく頭上から微かにユキの声で『脱落』と聞こえた。
これだけ高い山の谷間にかかる橋から落ちたのだからサバイバルオリエンテーリングは失格だろう。

「あー!

眼下には流れの緩やかな幅の広い川が迫っている。
上級生はこの山の地理に詳しいため、水深のあるこの川に落ちても命は無事だろうと思っているが、パートナーの一年生達はそれを知らない。
高所から落下する恐怖に各々泣いたり叫んだりだった。
ただ一人、六年生の潮江文次郎に質問する一年生がいた。

「しおえせんぱーい!
「あ?何か言ったか、団蔵!

彼が所属する委員会の後輩で一年は組の加藤団蔵だ。

「もうオリエンテーリングには失格になっちゃったのでー、他のペアの忍たまを助けてもいいですかー!?
「何?よく聞こえん!

落下中なので風の音が邪魔してすぐ隣にいる人の声すら届かない。
文次郎が声を張っても自分の耳に届くのは虫の羽音のような音量のノイズだった。
だが団蔵は文次郎の答えを最初から聞くつもりがなかったように話を進めた。

「じゃあ、助けまーす!
「おい!コラ、団蔵ー!

団蔵が口をぱくぱくさせたと思ったら、体勢を変えて文次郎から離れていった。
器用に空中を平泳ぎしていく団蔵の先には、彼のクラスメイトの姿があった。

「文次郎!四年生達に一年生を守るように指示しろ。
「留三郎!

肩を背後から叩いたのは同じ六年生の食満留三郎だった。
やはり何と言っているのか聞こえなかったが、留三郎が脇に一年ろ組の下坂部平太を守るように抱えているのを見て、文次郎は咄嗟に理解した。
仲の悪い留三郎から命令されたのは癪に障るが、今は言い争っている場合ではない。
かわいい後輩達を守るのが上級生の役目だ。
もう水面が近い。
文次郎は一度団蔵の方を確認して、すぐに四年生三人が固まっている方に合図を出した。

団蔵がクラスメイト…友達の学級委員長を衝撃から庇うように抱き締めているのを見て、今手助けするべきではないと躊躇ってしまった。

じゃぼーん!!
作品名:橋から落ちた後 作家名:KeI